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真っ赤

※一部にショッキングな描写があります。苦手な方はご注意ください。

 車窓から景色を眺めていると、イグの街とアリスのいた街が見えた。

「二人とも寂しくないかな」

「そりゃ、寂しいだろ。だが、アイツらは寂しい方がいいだろうな」

「なんで?」

「お前はフレンダと離れてどう思った?」

「どうって……寂しいかな」

 白い泡が汽車の上に立ち、ふつふつと弾けた。

 レインは弾けた泡を数えるようにじっと見つめていた。

「じゃあ、フレンダやイグの両親とも離れたが、どう思った?」

「別に、なんにも」

「そういうことだ」

 レインは私を見て言った。

 私はレインの言いたいことが少し分かった。

「仲良くなった人と離れるのは寂しい」

 弾ける波音に消えそうな声でそうつぶやいた。


「少し、寝ていい?」

 まだ昼前だったが、朝が早くて眠たかった。

「ああ。寝ときな」

 レインは私の頭を撫でた。

 波音と、程よい日向に温められ、意識が波の中へと消えていった。


 夢だった。


 また、あの時と同じように物語が始まり、それを俯瞰していた。


 最初に人が殺されたのを見たのは寒い冬だった。


「あっ……ああ……あ……ああああ」

 少女が凍える足を震わせていた。

 吐く息は白かった。

「あっ、こ、こっ……ろして……もん」

 訳のわからない言葉を発していた。

「おっ……おと……さん……お、おかあ……さん」

 困ったときはいつも助けてくれるお母さんとお父さんを何度呼んでも返事がない。


 少女は真っ赤だった。


 表情はこの光景に引きつり、笑っていた。


 目の前には見知らぬ男が三人倒れていた。


 臓器が飛び出していた。


 男たちの飛び出たそれを無理やりねじ込んでいた。


 しかし、男の体の中からはズルズルと中身が零れてくる。


 滑ってうまく掴めなかった。


 もう誰の臓器か分からなかった。


 治そうとしているのに、治らず、途中で応急措置を諦めた。


 気が付けば、幼い少女は雪の降る外を裸足で走っていた。


 小さな足跡が白い雪の上に残ってゆく。


 ただ、寒かった。白かった。


 乾いた涙は凍り付いていた。


 そして、何色にも染まっていない街も、街灯も、人も居ないこの景色をただ『美しい』と感じた。


 やがて肺が張り裂けるような痛みと、足に染み込んだ寒さで動かなくなった。


 それからは、走ることをやめた。


「置いて行った。本当に自分勝手」


 少女のお父さんとお母さんが少女を指さす。少女を咎めるような悪意に満ち溢れた声色だった。


「違うっ!」


 その度に少女は躍起になり叫んだ。


「どうしてそんなに躍起になるの?」


 お母さんが大人の卑屈にゆがめた笑顔で言う。


 お母さんはそんな人だっただろうか。


 でも、どうして自分が躍起になっていたかが分かった。


「お前はそんな子だったんだね」


 そう言ったお父さんは、血みどろになっていく。


 よく見れば、隣のお母さんも。私を取り巻くすべての人がそうだった。


 躍起になるのは自分に都合が悪いことだからだと悟った。


「そうだ。全部私のせいなんだ。私は……死なないといけない……」


 少女の身体が冷えていく。


 震えもなくなって、動かなくなったところで視界が暗くなった。



 緩やかな波音が遠くから聞こえた。

 外から温かい手で、頭を触られていた。

「丁度起こそうか迷ってた」

 寒くない。

 温かかった。

「外見てみろ」

 動く。生きていた。

 身を起こすと、夕焼け色の光が車窓から伸びていた。


 淡い宝石みたいな海が広がっていた。

 上がる飛沫は黄金色で、海を泳ぐ魚の鱗は星屑のように輝いていた。

「……」

 私は薄々、気がついていた。

 フレンダと一緒に行ったあの景色を見て。

 だから祈った。あの噴水に。


 どうか、私ではありませんように、と。


「どうした?」

「……」

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