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整頓された部屋

 レインの帽子が風を受け、目元を隠す。

「……」

「そう。分かった」

 私が話すのを止めた時だった。

 柔らかくて小さな手が私の頭の上に乗った。

 少し日向のにおいと、太陽のぬくもりがした。

「俺はよく分からない。だが、そんなのに関係なく、俺はお前の味方だからな」

 レインは言った。

 少しだけ、夢でははっきりしなかったあの人の顔が見えるようになった気がした。

「それに、お前の案内人だしな」

「そう……。ありがとう」

「そろそろ行くか」

 私たちは森を抜け、昼には街へ到着した。

 色とりどりのテラコッタタイルが敷き詰められ、お祭りでもしているような雰囲気の街だった。

 夢で見たあの人との旅先に似ている気がした。

 タイルの隙間から木のように立つ街灯はいかにも古風で、この街のアイデンティティの一つみたいだった。

「中央の噴水を右に進む」

「うん」

「たしか……」

「……レイン、もしかして忘れた?」

 レインは頷くこともなく、帽子を深くかぶった。

 これが私の案内人……。

「とりあえず、噴水の所まで行くか」

 この街はいつもこんな感じなのだろうか。

 辺りは人で賑わい、屋台が立ち並んでいた。

「人、多いね」

「今日は屋台もあるし、祭りなんだろ」

「そうなんだ」

 私とレインは噴水の手前に腰かけ、待ち人でもない人を待っていた。

 チャポン。

 振り返った先で、小さな子どもが噴水の中に銅貨を投げ入れていた。

「あれは何をしてるの?」

「あれか?あれはな、お願いごとをしてるんだ」

「神様でもいるの?」

「この世には硬貨だけ貰って解決はしてくれない神様がいる」

 レインは沈んでいく硬貨を見ていた。

「へえ……硬貨?」

「ただの金属の塊だ。なんだ、シラ、やりたいのか?」

「……」

「ん、ほらよ」

 レインは帽子の中から金貨を一枚手渡した。

「ありがとう」

 私の指で飛ばした金貨は天高く舞い、次第に重力に引っ張られるように落ちていった。

 チャポンッ……。

「何を願ったんだ?」

「……ないしょ」

 あれから数十分。バルーンを持った少年少女が走って通り過ぎた。

 老人がよろよろと私たちの前を通り過ぎて行った。

「……悪い、俺はもう待てない。行くぞ」

 そうレインが言った時だった。

「あれ?レイン?」

 痺れを切らしたレインの横を通り過ぎた一人の女の子が声を掛けてきた。

「え……私を探してたの?」

 その女の子は、黒い目を丸く見開いた。

「そうだ」

「で、肝心な私の家を忘れた、と」

「アハハハッ!やっぱレインは面白いなあ!ま、出会えたんだから問題ないね!とりあえず、レインの復習も込みで私の家においでよ」

 少女はその黒髪を揺らすくらいに笑いながら言った。

「ありがとうございます」

「そんなかしこまらなくていいよ、えっと、君、名前は?」

 そう尋ねる少女は、褐色でスポーツが得意そうだった。

「私は、シラ」

「シラ、ね。分かったわ。私はアリス、よろしくね」

「よろしく、アリス」

 アリスは私の肩の上にいるレインに顔を寄せ、ひそひそとレインに話しかけた。

「ちょっと、レイン!どこであんなかわいい子拾ってきたのよ?」

「拾ったとは人聞きが悪い……。俺はただの案内人だ」

 レインは引き離そうとアリスの近い顔を遠ざけようとする。

「案内人って……。それでも、あの服は無いでしょう?これじゃあ、シラがかわいそうだよ」

 レインはため息をこぼす。

「もっとお洒落しないと!可愛くならないと!かっこよくならないと!シラも、あなたも」

「余計な世話だ。お洒落だからカッコいいわけでも、可愛いわけでもないだろうが」

「そう言う問題じゃなくって!」

 結局アリスに押されてレインは黙っていた。


 アリスが家まで案内してくれた。

「着いたわよ!」

 そこは煉瓦造りの一軒家だった。

「上がりなよ。二人とも!」

 一足先に扉を開け、アリスが手招きした。

「お邪魔します」

 中に入ると、机と椅子がリビングにあるだけで簡素と言えばあまりに簡素な家だった。

 木目の床にはカーペットも敷かれず、日を遮るカーテンすら無い。

「今の家は何もないけど、お茶くらいは出せるからちょっと待ってて」

 アリスがポットで湯を沸かし、お茶を注ぐ。

 当たり前のようにしている動作だが、フレンダの家とは違ったその生活様式に目を離せずにいた。

 アリスがポットから、温まったお茶をマグカップに注ぐ。

「ん、これが気になってるの?」

「うん」

「このマグカップ可愛いよね~。私、気に入ってるんだ!」

「いや、そのお茶を沸かした機械の方」

「えっ……、もしかしてポットのこと?」

 アリスは目を真ん丸に見開いた。

「ええっと……。これはね、電気を使って物凄い速さで水を温める機械なの」

「へえ。便利」

「そうだね、凄い便利だと思うよ。でも私、今まであるのが当たり前だったから便利とか考えたことなかったかも」

 そう言ってアリスは笑った。

「はい、お茶。ゆっくり飲んで待ってて!私、少しお父さんとお母さん手伝うから!すぐ戻ってくるから!」

 そう言うとアリスは上の階に登って行った。

「ありがとう」

「ごゆっくり!」

 淹れてもらったお茶をすする。

 熱くて普通のお茶だった。

「どうした、そんな不思議そうに見て」

「うん。電気でも温められるんだって思ってた」

 私は階段の上で大きなものを移動させるアリスを見た。

 あの子がアリス。

 元気で明るくて、笑顔が多い子だった。

 性格はまるでイグとは真反対で、どうしたら友達になれるのか分からなかった。

「ごめんね、少し待たせちゃって」

 走って戻ってきたアリスが一息つくように、用意していたお茶を一気に飲み干した。

「そういえばレイン?」

 アリスが指をぐにぐにいじり、レインに話すことを躊躇していた。

「……えっと、その、もうイグってあのこと、知ってるのかな?」

「いや、言ってないから知らないぞ。多分」

 レインがそうきっぱりと言うとアリスは胸をなでおろした。

「そう。ありがとうね、レイン。あと、後で両親が『レインに相談したいことがある』って言ってたからそこで待ってて」

 アリスはレインではなく、自分のマグカップを見ながら言っていた。

 さっきまでは、人の顔を見ながら話していたから少し不思議だった。

「元よりそのつもりだったが、拒否権はないのか……」

「うん。無い」

「はあ……。俺はここで両親が降りてくるまで待つから、お前らは外にでも行ってこい」

「言われずともそうするわ。行きましょ!シラ」

 アリスはマグカップから私へ目線を映し、笑顔で言った。

「でも、レインは……」

「俺はこいつの両親と話をしないと駄目だからな。しかも、あいつらは……」

 レインが話している途中でアリスは私を引っ張った。

「うん、ありがとうね。レイン。じゃあ私、シラちゃんを借りていきます!」

「え。もう行くの?」

「もうよ!人にとっての時間は有限だからね……」

 それは一瞬だから、私の勘違いの可能性もあるけど。

 やっぱりアリスは時々、目線を人からずらして見えた。

「それに、この調子じゃシラ、学校も知らないでしょ?」

「がっこう?」

「やっぱり!だからそこも案内してあげる」

 私はさっきアリスが話していた『あのこと』を聞く間もなく外へ連れて行かされた。

「気を付けて行けよ」

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