第90話 最後の船旅
なーんか、だんだん一話が長くなっている気がする…
広い部屋の広いベッドで、一人一部屋有るというのに、マリアとメルスを左右に置いて川の字で寝ている。
「魔王命令!」
この一言で実現してしまったのだが、我儘を言える数少ない機会というのも有り、マリアが了承したのだ。
今夜ばかりは先生と生徒ではなく、夜伽を命じられた気持ちである。
メルスは何の事か解っていないが。
もちろん、ただこうやって寝たかっただけだから、アイシャは二人の腕を枕にして満足そうに寝息を立てている。
「凄いニヨニヨした笑顔なんだけど」
「家族で釣りに行っているようですね。母親のお弁当に大喜びしています……」
「え、夢を操作してるの?」
「寝るというのは全ての生物にとって最も無防備なのです。ですから安心して寝られるという事はこれからの魔王様にとって必要な事になります。夢は……こうやってチョイっとすると……」
「うっ、うへへ……いひっ、いひっ……」
「な、何をした……?」
「禁則事項です」
ちなみに、お嬢様は私にとてもじゃないですが子供がしてはいけないような事をしています。……まぁ、私を裸にして擽って喜んでるだけですけど。
こんな事を私にしたかったんですね……。
また骨に戻った方が良いですかね?
「私も、それ、ちょっと、やって欲しいんだけど……」
「良いですけど、ぐっすり寝れますか?」
ドラゴンは常に警戒して生きている。
完全に寝るというのは死を意味するのだが、実際問題として、肉体的には寝なければならない時もある。
「ココなら寝れそう」
「ふふっ。良いですよ」
「何か、魔力を感じるんだけど……」
「生活魔法の一種ですよ。母親が子供にしてあげるモノです」
「そんな魔法……しr……」
この魔法は心を許していないと掛からないのですが、あっさりですね。
私相手にそんな風に思っているって事ですか。
まぁ、良いですけど。
「ぶらいどさまぁ……うへへ……」
都合の良い夢としか指定していませんが、メルスの見たい夢って……乙女ですか。
そのドラゴンは死んでいるというか、殺されているんですけどね……。
強い者に従うのもドラゴンの宿命なのでしょうか?
そうですか、それで魔王様より私を選んだのですね。
納得して良いモノかどうかを考えると千年くらい掛かりそうです。
さて、眠気の無い私はこの長い夜をどうしましょう……。
あ、たった今、題材が出来ましたね。
黒帝より強いカラーなど存在すr……居ました。
ホワイトカラーが、神代を自称し、世界に平和を与えた象徴として君臨しています。
……まぁ、今考えても仕方ありません。
この暇な夜は魔王様を眺めて楽しみますかっ。
海鳥の鳴き声を耳にして目覚め、清々しい朝を迎えたアイシャは、朝から焼き魚を食べ終えると、魔王国領に行く船を探すマリアを横目に、港をウロウロしている。船に乗って別の港町に行くのは、前回は楽しめず、湾岸を辿って、徒歩で移動したのを思い出してしまう。
アイシャの後ろではリッカーが思いつめたような表情で、アイシャの後頭部を見詰めているように見える。
マリアは気が付いていたが、話すのを待っているようだ。
決意したか、口を開いた。
「私はココで、みんなと別れようと思うんだけど」
「いきなりどうしたのよ?」
「魔王国まで行くつもりだったんだけどね……私じゃなくても頼りになりそうなのも出来たし」
リッカーがメルスを見る。
メルスはなんでドヤ顔したの。
「それに、他の街でも私ぐらいの冒険者は求められると思うのよ」
Sランクはかなり珍しく、どの町のギルドへ行っても大歓迎だ。
「それに、おねぇさんが何人も居たらアイシャが困るでしょ」
「んー……」
「魔王様は喜びそうですけどね」
「まーね。でも、事情が有りそうじゃない?」
「無い訳でも無いわね。先生と別れるのも寂しいけど、先生に相談する前にもう少し調べようと思って」
「相談ですか。まあ、だいたい察しは付きますけど」
「先生だものね」
「先生だもん」
「なんなんだ……」
リッカーがくすくす笑った。
ちょっと泣いているようにも見えたけど、そこは言わないお約束。
「みんなはギルドに行くつもりはなさそうだから、私が代わりに行ってくるよ」
「セイビアによろしくとお伝えください」
「りょーかいっ」
ココのギルド長はセイビアで、いつも忙しそうにしているのは知っている。
そもそも暇なギルド長なんて存在しない……事もないか。
リッカーが自分以外を指して『みんな』と言った事で別れていく感じも出てくる。
「じゃあ、いつまでも居ても仕方がないから。……またねっ」
その言葉を残し、くるっと背を向けて走り去っていく。
分かれというのは辛いけど、リッカーなら再会出来ると思う。
その背中が街角に消えていくのを見届ける。
意外なほどあっさり……と、リッカーが戻ってきた。
「……忘れてましたね」
「うん、荷物忘れてた」
なんとも締まらない。
荷物を受け取ると、今度こそ、街角に消えた。
まあ、こんな別れ方は私たちらしいかもね……。
先生がくすくす笑って、私もつられて笑ってしまった。
それから3人で港をウロウロしていたが、先生が何かに気が付いて近寄っていく。
私とメルスはそれに気が付かずに港に停泊している船や景色を眺めている。
あの遠くにうっすらと見えるのが私の故郷の魔王国だ。
風が吹くと細目になる。
そんな私を見て、メルスが心配する様な口調で提案してきた。
「というか、私が乗せて行っても良いのだけど?」
「ソレも浪漫が有るけど、普通に大騒ぎにならないかな」
「……やめてください、そんなことしたら討伐対象になりますよ」
先生がいつの間にか戻ってきていた。
「見つかった?」
「今回は余裕というか、お礼だからお金は要らないと言われました」
「お礼?」
「魔王様のおかげですよ」
「あれ、私なにかしたっけ?」
先生の後ろから猫獣人の二人がやって来た。
あー、確かに見覚えがあるわ。
「あんときの嬢ちゃんだな、結構長い旅だったんだな」
「以前は夫ともどもお世話になりました」
「結婚したって聞いたわ、おめでとう」
「えっ、あ、ありがとうございます」
そういや親子じゃなかったわね。
先生から花嫁修業してるって教えて貰ったような。
「羨ましい」
なんでメルスが羨ましがってるの。
この夫婦は先生の事は知っているけど、メルスの事は知らない。
ついでに言うと今の先生はあの時の先生とは全く違う姿をしているのだが、驚きもしないで受け入れられたらしい。
「姿は変わったけどよ、ジュンカンキの話をしたからすぐに気が付いたぜ」
「説明するのも面倒なので納得してもらえば良いのです」
ここ、ボールドの町は多種族が共生しているし、ギルド長がエルフという事も有って種族差別が他の街と比べると極端に少ない。他の街でもあまり感じなかったアイシャだが、それでも嫌われている種族もある。
エルフも嫌われている方だが。
「もう一人、別のおねーさんでも居たのか?」
「あぁ、こっちは私の部下」
子供が大人に向かって部下と言っている事にビックリしている夫婦である。
まぁ、普通の反応ですよね。
「部下って……もしかして身分を隠している貴族様でしたか?」
「貴族じゃないけど、似たようなモノね。でも気にしなくていいから」
先生も気にしなくて良いと二人に説明し、納得してもらった。
「そうだ、あんた達のおかげでかなり儲かるようになって、大きな船も買えたんだ。10人くらいは乗れるし、漁も順調、商売も順風満帆さ。これで代金なんかとったら神様に怒られちまう」
「ねぇねぇ、どんな船?」
興味津々の魔王様です。
私もメルスも黙って見ているだけになりました。
港に停泊している船は10人が定員というだけあって中型船より少し小さいくらいで、船員も二人います。私達は客よりも大事な恩人扱いなので、乗りやすいように船を近づけてくれました。
「直ぐに出発できますが、どうしますか?」
先生とメルスが私を見たので直ぐに決断した。
「行く」
出港する一隻の船。
リッカーと、遅れてやって来たセイビアが遠くからアイシャ達の乗った船を見送る。
それぞれに思うトコロは有ったが、今はただ、無言だった。
海ではあるが大きな湾内で、外洋に出れば他の国の港町に行ける。
波は穏やかで、良い感じに風も吹いているのは、気候によるものらしい。
ただ、今回は湾の反対側に位置し、ボールドからすれば姉妹港になる、漁師と冒険者しか住んでおらず、魔王国領の隣に在る凄く特殊な港町だ。
先代魔王以前から交流は有ったし、一時期は魔王国とも取引が有ったのだが、いつの間にか相互不可侵のような暗黙のルールが出来ていて、コール・マーカーのような野心的な冒険者が訪れるようになった。
ただ、魔王国領の方の街では来るもの拒まずの精神だったから、勇者一行が攻めて来た時は大変な騒ぎになっている。
「海の上で海の幸って、贅沢よね」
「生で食べても安心だから、どんどん食ってくれ」
「やったったー」
アイシャは船員と楽しそうに魚の話をしながら、モリモリと食べているが、対照的なのはメルスであった。
「きぼぢわるい……」
「一応魔法で誤魔化せますけど、病気ではないからあまり効果が無いのです」
「そんなぁ……」
マリアは酔わないし、魚屋の夫婦も船員も平気である。
船上の楽しい雰囲気を壊しそうだったというより、完全に元気を失ってしまったので船室のベッドで寝かせた。寝てしまえば平気なので、マリアが睡眠魔法で無理矢理寝かせたのだ。
ドラゴンなのだから飛んでしまえば良いのだが、気持ち悪すぎて思考がソコまで回らないし、もし実行しそうになっても人化の呪いを先生が掛けているから元の姿には戻れない。訓練すればそのままの姿でも飛べるが、今はまだ無理だ。
「先生も食べる?」
「そうですね、私も少し頂きますか」
釣ったら直ぐにさばいて食べれるようにしてくれるが、船上では火気厳禁なので生ばかりだ。アイシャもマリアも気にせず食べるから、船員達も気分が良い。
「客を乗せた時に生魚食べさせるようとすると要らないって言われるんだぜ」
「こんなに美味しいのにね」
「だろー?嬢ちゃん良い漁師になる素質あるぞ」
「ねぇ、先生」
「なんでしょう?」
「デビルフィッシュぐらい大きい奴捕まえたら、それなりに食糧問題は解決できる?」
「一時しのぎではありますが、100人分の一食くらいにはなるでしょう」
「そっかー……魔獣の肉の方が確保が楽だけど、数を集めるのが大変なのよね」
「地道に畑を作りましょう」
船員も船主の夫婦も、お嬢ちゃんの会話の意味が分からない。
城の近くが海で、反対側が森で、ほとんど手が付けられておらず自然のままにされているから、アイシャは食糧問題を解決させるには魔獣や魚を狩るしかないと考えている。
「まあ、殆どスケルトンだから食べさせる必要はないのだけど、人を集めるのにお金も無ければ食べ物も無いんじゃ集めようが無いわ」
「古代金貨じゃ換金も出来ません……」
夫婦がそれを聞いていたのは船室に食堂は一つしかないからで、盗み聞きをしていた訳ではない。刺身に海塩を付け、食べてから思った事を言う。
「今の船じゃ無理だが、もっと大きな船で船団を組んで漁に出たらいいんじゃないのか?」
「いい考えだけど船を買うお金も無いのよ」
「じゃあ船を持っている奴らを雇えば良いじゃないか。雇ってもらえるんなら俺も新しく船を買って支店を出したいし……って、やっぱりどこか良いとこの嬢ちゃんなのか?」
それを聞いて返答するのではなく、一つの疑問を口にする。
「魔王国って船を造れたっけ?」
「造船技術は無いですね。国内の港は別の街にありますが、城からはかなり遠いです。主に購入して船を確保していました。そもそも船を必要としない治世でしたし」
「そっかあ……」
夫婦も船員も、顔を互いに近づけてごにょごにょと話をしている。
「やっぱ、やんごとない出身の方なのでは?」
「あんな綺麗な人とタメ口だしな……」
「部下って本当なのか」
全部聞こえてるんですよね。
魔王様って呼ばないように気を付けていましたが、到着してしまえば隠す必要も無いのですよね。それに、この漁師の夫婦の夫の方は特殊能力持ちで、漁でなら必ず役に立ってくれるでしょう……。
雇うのも選択肢の一つですか。
「そう言えば、船が進んでませんね?」
「今は昼凪って言って、湾内じゃ風が止まる時間なんだ」
「あー、お父さんもそんなこと言ってたわ」
「昼凪なんて言葉は漁師以外じゃ冒険者くらいしか使わないけどな」
「釣りが趣味だったのよ」
「なるほどねぇ……」
食事が終わる頃に、また風が吹き、船員の二人が慌ただしく動く。その風に乗って船は進むが、どうしても急いでいる時は、ハンドルが付いている回転式プロペラを使う。
魔導機関を使えば人力でなくとも良いが、とてもじゃないくらいの高級品なので、一般ではほとんど使われない。手漕ぎ用のオールはいつまで経っても現役だったりする。
「それは私も知ってるわ。釣り船に乗った時に使ったし」
「蒸気船もまだどこかにありましたよねぇ……」
「先生が知らないんじゃ分からないわ」
「別に何でも知っているワケではないですよ」
今回は移動するだけなので船員が仕事をするから、船が移動いる時の夫婦は暇だ。
暇だから、ちらちらと私を見ている。
先生が下船する時に教える事になったので、今はまだ黙ってるんだって。
なんか秘密って素敵な響きが有るんだけどなあ……。
船は風に乗って順調に港へ到着した。
※おまけ
「行っちゃいましたね……
「えぇ……でも、先生とはまた会うつもりだけど
「ふふふ、実は私も会えるかもしれません
「何か有るの?
「パテリアの町でギルド準備室が出来ているのです
「どこよ、それ
「そうでした、そうでした。こっちの情報には疎いんでしたね
「えー、なんか、狡い
「……そのセリフってあの子の影響を受けてませんか……
「あー、妹欲しいなー
※追加情報
■:魔導機関
魔力を燃料にして動く
魔石を多く使ったり、魔力を常に注ぐ為に一般で使うのは難しく、軍用にされた
研究はされるが、魔導機関を利用した乗り物を作ると破壊される
■:蒸気機関
蒸気の力を利用する
魔導機関に比べて大型になるので一般での利用は無い
蒸気機関車や蒸気船も造ると直ぐ壊されるが、僅かだが蒸気船は現役で使われている
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-**-*-
ブクマ いいね 感想 レビュー お待ちしております
宜しくお願いしますm(_"_)m




