第088話 ギルドの名物
その日もいつもの毎日であった。
こういうとアホっぽいけど、何も変わらない日常だ。
セイビアは自分のギルドに帰り、ベルディナンドはいつの間にか居なくなっていた。
リッカーは孤児院で子供達に剣術を教えに行き、ハニエルは一日に一度はギルドに来て先生が座っている同じテーブルで食事をして仕事に戻っている。
先生はローブこそ着ているが、知らない人が見ればギルドの奥にあるテーブルに骸骨が設置されているとしか思えない。
何も知らない冒険者がやってくると一度はギルド員に問う。
「アレは何の飾りだ?」
「コール・マーカーが触れずに帰った謎の代物だ。関わらない方が良いと思うぞ」
「へーっ、何か秘密が有るのは面白そうだが」
「聖女様があのテーブルで食事するのも見慣れたよな」
「何かの儀式なんだろ」
「それと、たまに聞こえてくる女の泣き声が有ってな……」
「そうか、それを鎮める為に聖女様があの骸骨に……」
全て間違っているが、リッカーもハニエルも訂正しない。
アイシャとメルスは真夜中になるとこっそりと外に出るようになった。
それでもギルドの屋根の上で、星空を眺めている。
マリアは気が付いていても、いつかやってくる日をただ静かに待っている。
ちょっと静か過ぎて不気味だが。
リッカーはやっと二人と同じ部屋で寝る事が出来るようになって、孤児院での出来事を話してから寝るのも日課の一つになった。
ベルディナンドの言葉は予言ではなかったが、現実に近くなっている。
もう何ヶ月このままなのか。
アイシャはもうすぐ12歳に成ろうとしていた。
今日は見た事の無い子供が骸骨のテーブルに座っている。
もう一人、女性が座った。
すると骸骨が動いた。
「う、動いた……?!」
「あれ、置物じゃなかったのか……」
にっこりと笑顔を向けられ、アイシャは恥ずかしくなった。
骨だけど。
「待たせちゃったけど、覚悟はできたの」
「ちょっと回りがうるさいので転がしておきますね」
ガヤガヤと近付いてきた野次馬達が全員転んだ。
懐かしい光景に心がほっこりする。
「こんな怖い骸骨は初めて見たわよ」
「メルスー、私のマリア先生よ」
「え、あ、うん。せんせい」
「無理して呼ばなくて良いですよ。特に生徒にするつもりも有りません。部下にはなるかもしれませんが……あくまで今は可能性です」
先生がそう言うとそうなりそうなんだよね。
コイツが部下かあ……。
「覚悟はできたのですね?」
目が怖いよぉ……。
でも、決めたもん。
「うん」
「では、魔王様。国に帰りましょう」
「リッカーは?」
「今は孤児院ですね。出発は明日でも良いですし」
「私は自分の家に帰りたいんだけど……」
「お嬢様と一緒にべっそべそに泣いていた事を公表しますが、よろしいですか?」
「えっ、なんでよっ、アイシャだって泣いてたじゃない!」
「うっさいうっさい!」
おおー、良いお友達になれたようです。
「お嬢様は泣きましたよ。ですが、魔王様はそんな事をしていません」
「そーよねー」
良い笑顔ですが、魔王に成ってからも泣いていたのは内緒です。
皆さん、内緒ですよっ。
「あ、ああ……なんで俺達を見るのか知らんが、なんも知らん知らん」
転んでいた冒険者達が逃げて行きました。
静かになりましたね。
「静か過ぎても怖いんですが……」
「あれ?知らないギルド員ね」
「彼は最近……と言っても一ヶ月ほど前に来たんですよ」
「あぁ、夜泣きの幽霊ってあなた達だったんですか……」
「変な噂が立ってるなあ……」
「それも今夜で終わりです。折角ですしリンゴジュースでも飲みますか」
「やったったー!」
「や、やったー?」
今日は久しぶりにみんなが集まる食事になりそうです。
ハニエルとリッカーが来るのを待ってからギルドで最後の晩餐を楽しむ。
アイシャは国に帰れば魔王として君臨する為の準備も有るし、ハニエルは魔王との相互不可侵と協力関係の同盟を組む為の手続きをし、リッカーは最後まで付いてくる。
これが最初に行う事で、物凄く簡単に言っているが、物凄く重要な事が二つある。
リッカーは関係ない。
「先生もずっと動かなかったからつまらなかったわよ」
「低燃費モードです」
「テイネンピッ?」
「あー、魔力を溜めていました」
「先生に必要だったの?」
「不要ですよ」
なんなのこの会話。
それを普通のように流してる二人も変なんだけど。
「じゃあ、これは要らない?」
魔力核です。
もしかしてなかなか出てこなかった理由はこれですか。
決断を先延ばしにしていたんじゃなくて、私の為に……。
涙が出る気分です。
「ありがとうございます」
「骨が泣いてる……」
「涙が出てるの初めて見たんだけど」
「え、出る筈が有りませんが……」
そんなに見つめないでください。
出ませんよ?
……あれ?
「受肉しました……魔王様、やりましたね?」
「しらないもーん」
ちゃんと呪いまで掛けられてます。
なかなかの悪戯っ子ですね。
でもこの姿は……。
「あの時に見た黒髪黒目の先生が素敵すぎて忘れられないのよ」
名前 マリア・薄田 性別 女 年齢 不明 種族 魔女 職業 教育係
Lv 396 筋力 5 魔力 927 敏捷 25 魅力 300
HP 257 MP 300001
所持 魔力核(体内) 魔法袋
特殊技能 技能神と契約 不死の呪い 魔女の知識 異世界転移
鑑定LV3 受肉 自動修復 聖母 魔王の約束
「なかなかやりますね、流石は魔王様です」
「魔女に成っちゃったけど、なんで?」
「あの姿は魔女になった時の……最も私が強かった時の姿です。あの魔法を発動させるのにイメージが強すぎた事が原因ですね」
「おぉー……先生、美人過ぎるんだけど」
「黒髪黒目って異世界人の特徴って話は知ってたけど」
「骨が異世界人って……どういうことだ?」
シルバーカラーのメルスは過去の先生を知らない。
「色々有りましたからね……」
先生は遠い目をしている。
ただそれだけで綺麗だ。
でも、ローブしか纏ってないから丸見えなんですけど。
「ああ、これは失礼しました。折角なので着替えてきますね」
先生が席を外した。
ハニエルとリッカーが口を揃える。
「伝説の魔女って黒髪黒目だったよなっ」
「伝説の魔女って黒髪黒目だったよねっ」
「カラーの一族にも伝わってるのと同じだぞ……そもそも、最初から、背伸びしたって、勝てるワケなかったんだあ……」
三人が最後の晩餐を楽しむ余裕すら失っていて、一人黙々と食べるアイシャを羨ましそうに見ている。
見られてるけど、なんで?
「種族で魔女と言ったら世界で唯一の存在だ。あの魔女は……えーっと、世界樹様と……なんかあったよーな気がするんだけど……」
「そうなんだけどさー、思い出せないんだよなあ……」
「初代魔王と戦って……世界樹とも仲が良くて……魔素を……」
三人が三人で同じ事を考えている。
「魔素を取り込んだ」
「そう、それって、先生?!」
「それはただの伝説です。それに魔女は私以外にも存在しましたし、国も創ってませんよ」
なんか嫌な予感が……。
「あれ、ココに噂になっている名物骸骨ってどこだ?」
数人の冒険者パーティが入ってきて骸骨を捜している。
って、名物になってたんだ……。
あれ、なんの話してたっけ?
「先生、おかえりー。なんかふわっとした服だけど、今の先生なら何着ても似合うよ」
「あら、魔王様の妻に相応しいですか?」
「うんうん」モグモグ
「では人に成れましたし、改めて食事をいただきますか」
「食べ放題だから好きなだけ食べてね」
「ちょっと、それ私のセリフなんですけどー」
よし、誤魔化せました。
フーヤレヤレです。
過去の私の事なんてどうでもよいのです。
これからは魔王様を教育するのが私に課せられた使命。
フンスフンス。
「何か大事な事を思い出そうとしていた気がするんだが……」
「メルスも食べなさい。魔王命令!」
「はひっ、頂きますっ」
メルスに魔王命を下せるって、かなり仲のいい証拠です。
今の魔王様ならシルバーカラー程度には負ける心配は有りません。
ハニエルもリッカーも、何の事だったのか忘れてしまったのが、実はアイシャの魔法だった事に気が付いていない。
マリアは気が付いたので利用しただけだ。
女性だけの晩餐に、夜でも集まる冒険者達が羨ましそうに見ている。
酔ったハニエルが宣言したのはヤケクソかもしれない。
「よーし、今夜は奢っちゃうぞー、朝までの酒代は私が出すからみんなでのもうー!」
ギルド員の引き攣る顔と、タダで飲み食いできると知った冒険者がさらに集まり、夜が明ける直前まで宴は続いた。
マリアとアイシャがこっそりと居なくなったのは、その宣言の数分後だった。
※その後
「せんせー、いかないでー、うえぇぇぇん
「なんでこいつ泣いてるんだ
「そりゃ、先生がココに戻ってくる可能性は0に近いからな
「これが聖女だなんて信じられない
「信じる者は足元をすくわれる……
「聖女が言うなよ……
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