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第087話 魔王の覚醒

 全く動けなくなった。

 黒帝が、ドラゴンの中でも最も恐れられていた存在が。

 なんだコイツは、俺は何を見ているんだ。

 親父っ……!!


 マリアはただ立っている。

 骨だけなのに立っている。

 それが、何人(なんぴと)たりとも近寄りがたい。


「魔王様も恐れるに至った諸悪の根源、あなたのその野望を打ち砕く実力は有りませんが……聖女の力を借り、封印します」

「聖女だと?!」


 要らない能力ですが、この際ですし、このまま借りておきます。


「そんな事は……」


 身体を動かしたいが動かない。


「束縛魔法です。余計な身体強化に魔力を使わなくて済みましたので余裕が有るのです。他に知りたい事は有りますか?」

「お、おれを殺しても……」

「殺しません。封印します」


 鋭過ぎるのは眼だけだった。


「こうでもしないと攻撃を避けられてしまいますので、狡いだの汚いだの言われるのも覚悟の上です」

「狡いぞ!!汚いぞ!!」


 本当に言うとは……。

 その声は街に響き渡るほど大きく、ギルドで封印されているシルバーカラーにも聞こえた。そして、無力を嘆く。

 気味の悪いほどの魔力がただ一点に集約していく。

 骨の姿が見えなくなった。


「三千世界……


 風が強く吹く。

 長い黒髪が靡いた。


「森羅万象……


 空が暗くなる。

 骨の身体に肉が宿る。


「限界突破……


 稲妻が轟く。

 真っ黒なドレスが一瞬見えたが、消えた。


 ……天地神明の一撃!!」


 それがどんな攻撃か、アイシャ達には分からなかったが、黒帝が悶え苦しむ声が聞こえる。それがどんな目的を持ってここに来たのか知っていても、苦しみ、助けを求める声は、心に深く突き刺さる。


「アイシャが見るには早すぎるわ……」

「てか、いないぞ」

「さっきまでここに居たのに……」

「……あそこに」


 セイビアが示したのはその苦しむ声を発する者の居る場所であった。





「お、覚えてろ……必ず復讐するからな……」


 かすれる声で恨みを呟く。

 もう、それだけで精いっぱいだ。


「一万年後には私はいないかもしれませんし、その時代にはその時代の勇者が何とかするでしょう」

「いや、駄目だ。マリア先生は優し過ぎる」


 何色とも言い難い不思議な色の炎の中で、身体を焼き、崩れる黒帝の前に立ったのはアイシャだった。

 しかし、マリアは直ぐに気が付いた。


「ま、魔王様」

「今だけ借りた。というか、このような時に使うつもりは無かったが、二度とは無い好機を見逃す事は出来ない」

「封印をすればその先に……」

「だから先生は優し過ぎるのだ。コイツはあの時の黒帝ではない」


 頭蓋骨にひびが入るくらい驚く。

 鑑定を掛けるが弾かれてしまうので、目を凝らして観察する。


「確かに黒帝ですが……」

「鑑定でも分からんだろう。コイツはあいつの子供だ。能力を引き継ぎ、野望を実現させる為にな……」

「初代魔王様が撃退した時に……?」

「代々の魔王に成った時だけ追加される記憶だ。間違いは無い。封印すれば先に延ばせるだろう。だが、脅威は残る。次世代の者が解決出来る保証も無い。その時の為に伝えられた力を使う……」


 アイシャの身体をしたアイシャの父親の魔王は、自身の中からその力を取り出した。アイシャの為に遺した記憶を全て抜き取ったその魔力は、マリアも震えるほどだ。


「娘を、アイシャを改めて頼む。この記憶の所為で変な事も覚えてしまったが、少し我儘だが可愛げのある子供に戻る」

「魔王様……」

「教える事の出来なかった魔王のみの記憶の継承もこれで終わりだ。この黒帝の為に代々の魔王は常に苦しめられていたのだからな。アイシャには良い環境で良い魔王に成れるだろう」


 ふわりと浮かんだ魔力の塊が苦しむ黒帝の身体に注ぎ込まれると、叫べなくなった。破壊の殺戮者などと呼ばれていた黒帝。それは与えられた生が終わりを告げる最期の死の声であった……。

 黒帝が動かなくなるのを確認するまで微動だにしなかった魔王は、最期の言葉を残そうとマリアに優しすぎる笑顔を向けた。


「では、さr……」

「えっ、ちょっ……最後まで言ってから消えてくださいよ……」

「ふぇっ?!」


 元に戻ったアイシャは、吃驚して、マリアをジーっと見ている。

  

「先生って黒髪黒目だったんだ?」

「へ?」


 今のマリアには肉体がある。

 長すぎる黒髪が垂れ下がっていて見えないが、服を着ているようには見えない。


「あぁ、魔力を使う時に魔法制御していたら身体が一時的に戻ってしまいました。残念な事に骨のままだと足りないものが有ったのでしょう……まだまだ。私も修行が足りないようです」

「それって自力で元に戻れるって事じゃないの」

「いえ、そろそろ元に戻ります」


 そう言っている間に先生は骨に成った。

 元に戻るのが骨って、先生って元々普人の方なのだけど。


「この姿の方が落ち着きます」


 フー、ヤレヤレ。


「あれっ……アレ???」

「どうしました?」

「お父さんが居なくなっちゃった……」


 記憶は消えました。

 お嬢様にとって、それがどれだけの事になるのでしょう。

 全く分かりませんが……。


「お母さんも、お父さんも、居ない……なんで、さっきまで平気だったのに」


 それは、お嬢様がどれだけ魔王様に依存していたかに寄ります。

 というか、あの日のお嬢様です。

 泣いています。


「なんであんな奴、許しちゃったの……殺したかったのに……」


 やはり、そうなりますよね。

 頭を撫でておきます。

 嗚咽を漏らしていて、会話になるかどうか。


「勇者と戦った事を覚えていますか?」


 アイシャは泣いているが、どうにか一度頷いた。


「自分の気持ちに偽りは有りますか?」


 自分の気持ちを思い出して吃驚している。

 なんで、正しいと思ったのか、思い出せない。

 でも、嘘も偽りもない。

 あの勇者を殺さなくて良かったとさえ思っている。

 アイシャは首を横に振った。

 そして大声で泣いた。

 悔しさと正しさを知った。

 それが正義ではなかった事も……。


「鑑定……」



名前 アイシャ・ブイルダン 性別 女 年齢 11 種族 魔族

職業 魔王 Lv 1 筋力 22 魔力 598 敏捷 23 魅力 255

HP 256 MP 6841

所持 ミスリル製の釣竿 鉱石リザードの服

特殊技能 進化の女神と契約 魔力の紋章 鑑定Lv2




 アイシャはギルドに併設する宿屋に居る。

 起きても部屋からは出ず、窓から遠くを見詰めている。

 帰りたい。

 けど、怖い。

 帰れば全てを受け入れる事になる。

 この旅の本当の目的は、ただただ、私の成長の為。

 出会った人々には……変なのも居たけど、良い人ばかりだった。

 特に勇者パーティの一人だったハニエルは、今も私の心配をしている。

 そして、あの日から新しく一人増えた。


「貴女もずっと泣いているわね」

「……」


 この娘。

 って言うか、シルバーカラーのメルス。

 いつの間にか一緒に泣いていた。

 失ったモノの大きさは違うかもしれないけど、心に開いた穴は同じだった。

 メルスはあの黒帝を愛していて、あの黒帝の為にこの作戦に参加していた。

 魔王としてはこの娘を許してはいけない。

 ドラゴンの姿ではなく人化しているのは先生が呪いを掛けた所為で元の姿には戻れなくなったらしい。

 なんでそんな事をしたのか、理由は教えてくれなかった。

 

「捕虜にしておくことでドラゴン達から国を守る為って言われたけど?」

「さっきまで泣いてたくせに」

「あんただって泣いてたじゃない」


 また泣き出した。

 思い出してしまったからだ。

 つられて泣いてしまう。

 その声はマリア達にも聞こえていて、ハニエルもリッカーもセイビアもベルディナンドですら、胸の中を湿らせている。

 唯一何も知らないコール・マーカーは精力的に働いていて、散らばっているカラーの素材を集めてはギルド倉庫に納めていて、その活躍は勝利に貢献した者達よりも響いていて、名声の殆どを奪っているが、それを自由に振る舞わせている。


「お嬢……魔王様はまだこれからです。若過ぎますが、これからです。この旅の意味も理解はデキている事でしょう」

「こんな時でも先生は厳しいな」

「こんな時だからです。あの場で託されてしまいましたからね……」

「私達は魔王様に成ったからって立場を変える気は無いし、敵対もしないから安心して良いけど、他の国がね……」

「ギルド長としては国の方針には逆らえません」

「アイシャってねー、なんか危なっかしい妹って感じがするわ」

「俺はあの魔王様より先生の方に忠義を尽くしたいが」

「皆さんの意見はありがたく頂きますが、それを決めるのはこれからの魔王様ですし、そういう事ではないのですよ。もっと精神的な……そんな事より、ベルディナンドはさっさとサンタヘルに帰って仇を討った事を伝えに行かなくて良いのですか?」


 忠義は要らないと拒否の意思も見せる。


「先生はつめてーなぁ」

「この旅を終わらせるのはお嬢様です。魔王様ではないのですよ」

「立場の違いってワケですか。私なんかよりも過酷な道を歩むとは、初めて会った時には想像もしませんでしたよ」

「セイビアも、と言いたいところですけど、少なくとも私達は似たような苦労を経験しています。だから知っていますが、お嬢様は初めてです。それが、一度に三つくらい重なっているのですから、泣いているだけマシというモノです」


 何かを失う苦しみは知っている。

 何かを奪われる悔しさも知っている。

 そして、与えられる重責は知らない。


「一緒に泣いているのがあのシルバーカラーって、先生も大胆だね」

「あの娘は人質として使えると思っただけじゃなく、誰を思っていたのかが重要なんですよ」

「先生って良く分からないトコロで優しいし厳しいのよね」

「でも、待つんですよね?私に教えた時と同じように……」

「もちろんです。それが私の教育方針ですから」

「じゃあ、動かなければ、何ヶ月もこのままって事か」

「知っているから待つのですよ。あなたの時も、あなたの時も、あなたの時も、あなたは……生徒ではないですから知りません」

「あー、つめてぇ、つめてぇ」


 いつでも飲めるようになっているキンキンに冷やされたリンゴジュース。

 それは今日も無駄になった。

 先生はそれをストレージにしまうと、なにも喋らなくなった。

 椅子に座ったまま朽ちた骸骨のように……。






※おまけ



「私の勘が告げている……

「なんだよ、急に

「魔王が復活したわ

「そっかー……

「なんで驚かないのよ

「知ってたからな

「修ちゃん、また勇者に成っちゃうの……?

「時代が求めればそういう事も有るだろうが

「だ、ダメだよ?

「俺は魔王を殺さない

「本当に?

「なんで疑う

「だって、修ちゃん、泣いてるよ……

「そーゆー呪いを掛けられたからな

「じゃあ、私が聖女の力で解いてあげる

「んっ……んーっ、んんんっ

「(まっ、いいか)



羨ましいなんて言いませんよ、絶対に



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