第076話 旅の閑話
「すごーい、かわいい!きれい!ステキっ!」
「良いんですか、こんな高級そうな服を……」
「えぇ、努力は認めます。この土地の兵士達とも良好な関係を持っているようですし、まだ不安な部分はたくさんありますが」
汚れにくく、破れにくく、魔法防御も高く、それでいてデザインも良い。
先生には裁縫の技術もあるみたい。
「良いなー」
お嬢様はもっと高級な服を着ているじゃありませんか。
「良いなー」
リッカーは自分で手に入れられるじゃありませんか。
「伸縮もある程度可能ですので、長く着られるはずです。ついでに魔法制御も安定しやすい魔法を掛けてありますので、魔法の効果も高まるでしょう」
それ、ついでなのは逆じゃないかな。
「先生ありがとう!」
「ありがとうございます!」
朝食は昨晩の残りを温めなおして簡単に済ませると、兵士達がドヤドヤとやってくる。建築する為に集まった者達で、姉妹に挨拶すると直ぐに作業は始まったが、責任者らしき男が一人残って姉妹を見て驚いていて、作業場へ移動しながら、服を見ている。
「今日中に客間の方は完成しますが、他に急いだほうがよろしいですかね?」
姉妹が私を見ます。
「なんで私を見るのですか、決めるのはあなた達でしょう」
「あの、暫くは滞在されないのですか」
「しませんよ」
二人して寂しそうな顔をしないでください。
「私達は帰らないとならないしね」
「そちらの貴女は……まさかとは思いますけど、Sランクのリッカーさんですか?」
「そうだけど、こっちにも顔と名前が知れ渡ってるのね」
「出身はこっちではないので名前だけはよく聞いてました」
「あら、そう」
リッカーは何故か冷めた目で見つめている。
姉妹の事を嫌ったのか、もし、そうだとしても嫌う理由が分からない。
「もう行ってしまうんです?」
「一晩休ませてもらいましたし、良い仕事も出来たので満足です」
先生の良い仕事ってレベルが違いすぎるのよ。
「長居しても良い事は無いんで、アルファディルに寄ってから帰るぐらいですかね」
「ああ、聖地ですか。奴隷解放と聖女の誕生で凄い変わったって旅人から聞きました」
「私はあの街、嫌いなのよねー」
リッカーの機嫌が悪い。
「まあ、理由は理解できると思いますよ。治癒魔法で荒稼ぎし、奴隷を死ぬまで働かせ、女は慰め者にされ、それでいて自分達は正しいと思っているクソ聖職者ばかりでしたからね」
先生がそう言ったのでリッカーの方が驚いている。
「私達は職業こそ聖職者ですが、ただの治癒魔導師です。これからはマリア教を広めて……いぇぃぇ、この土地で細々とやっていきます」
「賢明な判断です。情報と言うのは何処で誰が聞いているか分かりませんから、警戒するのは良い事です」
先生の笑顔が怖いよ。
「先生、行こうよ」
お嬢様の言葉にリッカーも頷く。
「では一晩ありがとうございました」
「先生、また来てね……」
ミィに言われてしまうと、その純粋さに負けてしまいそうになりますね。
「えぇ、生きていればいつか」
マリアはミィの頭を撫で、頬を撫でる。
ミィが少し恥ずかしそうにすると、優しい笑顔を向け、そのぬくもりから離れると、アイシャ達は直ぐに背を向けて旅立った。
その姿をずっと見詰めていたミィが自分の変化に気が付いた。
「あれ、職業が変わってる……?」
名前 ミィ・フィルド 性別 女 年齢 9 種族 猫獣人
職業 光癒師 Lv 1 筋力 6 魔力 108 敏捷 3 魅力 187
HP 38 MP 1980
所持 木の杖
特殊技能 治癒魔法Lv3 貫通魔法 究極結界 解呪Lv1
左右を耕されていない畑に挟まれた道を、街に背を向けて歩く。
簡易的に造られた塀と門があって、兵士が警備しているが、出る時には止められる事も無く、すんなりと通れる。
「気を付けて、旅の人」
と、声を掛けてくれる兵士も居て、こちらへ向かってくる馬車には別の兵士が警戒する。ここに来た時は会わなかったが、本来は必ず兵士が常駐する場所なのだ。
本来は苦労する旅もマリアの魔法袋のおかげで困らない。
特に、女性特有の病気の所為で旅が出来ない女性も多いが、家を持って運んでいる先生がいれば問題はない。
食事にお風呂にトイレとベッド。
快適だ。
「余計な町や村に寄らなくて良いのは本当に助かるわね」
リッカーにとっては何度言っても感謝しきれない。
今までの苦労は何だったのか……。
雨が降れば家で休み、魔物と戦って汚れれば風呂で洗い流す。
最近は特に力を入れるようになったマリアの料理も絶品で、野菜が少なったくらいだ。ただ、リンゴジュースは在庫が少なくなっていて、早く街に行きたがるアイシャを宥めている。
だって今日は、朝からドシャ降り。
これじゃあ魔物も出ないけど前が醜くて迷子になってしまう。
そういう時は先生と勉強。
最近は料理以外だと裁縫に凝っているらしい。
あの服を作った道具を見せて貰ったが、素材からして一級品過ぎた。
「道具を作る道具だって一級を求めるのは当然です。一級の武器はSランクに相応しいと思うのと同じですよ」
「確かにねー」
アイシャはなんで寝てるの。
こんなに良い仕事をする職人なんて滅多に見れないのに……。
「歩いても3日くらいで着きますからね。足止めされてるのがツマラナイのです」
「それはそうだけどねー」
本当に教える時には怒らない先生で、裁縫をでミスをして糸をダメにしても怒らなかった。もちろんワザとではなく、手製のミトンを作りたかったのだ。
これが有れば武器を持つ手が楽になるし、剣戟を受けても痺れにくく、長期戦になる時には地味だが必要なアイテムだ。
「元々剣士ではないのでこのような発想が無いから助かります」
「本当は胸当ても良いのが欲しい所トコロなんだけど、店売りだと限度が有るし、作って貰うにしても男に頼みにくくてさ」
リッカーは胸もそこそこ大きい部類で、戦闘時には邪魔になる事も有る。
布を巻いて無理矢理抑えた上に胸当てを着けるが、苦しくて辛い。
「それでしたらこれはどうでしょう」
先生が見せてくれたのは肌着のような物でチューブトップと説明してくれたけど、こんなの見た事がない。
「実は以前使っていた物で新品ではないのです」
「先生が使ってたの?」
何故かお嬢様が起きてきました。
「なになに、先生のなーにー?」
「どこにも売ってないし、サイズを合わせるのが大変で、結局は自分で作ったのです」
「これ、サイズ合わないよ」
「申し訳ありませんが、お嬢様には少し早過ぎます」
不貞腐れてベッドに行きました。
こればかりは仕方が有りません……。
「多少は魔法で伸縮しますのでフィット感は凄いですよ」
「へーへーへー」
女性しかいない家の中なので、上を全部脱いだリッカーが古着を気にせず身に付けると、目を大きく開いて輝かせている。
「ナニコレ凄い……」
小さく跳ねて確認する。
揺れは小さく、それでいてしっかりと膨らみもある。
「先生、これ貰っていい?」
「構いませんよ」
「あと、私の荷物の中にある胸当てなんだけど」
説明を受け、魔法袋の中から取り出すと、見事な鉱石リザードで作られた胸当てだ。
サイズは大きめに作られているが、直接身に付けるには痛いだろう。
「苦労して作って貰ったけど、一度使っただけで諦めた防具なんだ」
「質は悪くないですが、それだけに調節が難しい素材です」
「ほら、男女兼用だからねー。でもこの下着の上からなら安心して着けられるよ」
鑑定すると温度調整機能が付いている防具でした。
なるほど、雪山でも地底の溶岩帯でも、これなら安心です。
「あ。あと……もういっこお願いが……」
ずいぶんとしおらしくなりました。
「発情を抑える薬って持ってないかな、一人の時なら良いんだけど、薬自体も最近は売ってなくて」
「天使の発情期は兎獣人並みでしたね」
「はは、やっぱり知ってるんだ」
「襲われそうになったことが有りますが、襲い返してやりました。やめてと言っても絞り切りましたよ」
なんで青ざめてるんですか。
天使の方が凄かったですよ?
「先生の友好範囲ってどこまであるんです?」
「有効範囲でしたらほぼ無限ですかね」
なんで青ざめたんです。
天使には負けますよ?
「まぁ、先生だから仕方がないかな」
「そんなこと言うと薬上げませんよ」
「ごめんなさーーい!!」
二人の誤解は解けなかったが、薬を貰ったリッカーは直ぐに飲んでいた。
実は最近ずっとイライラしていた原因の一つでもあったのだ。
あの街に着く前に欲しかったが、入手手段が無くて困っていたワケである。
「手に入らなかったらどうするつもりだったのです?」
「先生に処理してもらおうかと……」
顔を真っ赤にしてこちらを見ないでください。
そんな事をしたらお嬢様に示しが付きませんので。
と言うか、今までどうしていたんですか……?
「ハーフだからなのか、体質なのか、あんまりでないんだよねー」
「そうでしたか。それなら薬で何とかなっていた訳ですか」
これで話を終わらせ、作業に戻る。
リッカーは自分のミトンを、マリアはアイシャのミトンを作り、魔法ではなく、生地の方で伸縮素材を使い、普通では手に入らない高級なモノを作り上げて満足していた。
その間、アイシャは不貞腐れて寝ていた。
※おまけ
「はー、久しぶりの街はいいわねー
「ギルドは行かなくていいよな
「でもお金ないよ
「金かぁ……商業ギルドに行けば買い取ってくれるだろ
「……これ古代金貨?
「そうだが?
「確かにこのままじゃ使えないもんねー、でもさ
「ん?
「これ買い取れるほどのお金持ってないと思うよ
「……仕方ない、依頼受けるか
出来る限り弱い魔物で小遣いを稼ぎましたとさ




