第072話 水の精霊
森の中を歩く。
馬車でも通れるくらい広いが、利用する人は少ない。
何しろ森のど真ん中で、陽射しも届かない暗い場所もある。
でも、全然怖くないし、魔物も襲ってこないから、道端に生えている草やキノコを片っ端から鑑定して食用を探している。
「この鑑定魔法って不思議ね」
魔法によって物を調べる事が出来るし、人だってステータスが分かる。
しかし、どういう原理なのかと考えてしまうと、謎が多い魔法だ。
「まあ、一番苦労している神様ですから……」
あれ、先生が……いつも神様を貶したり悪口を言う先生が。
「鑑定神は大変なんですよ。苦労を知ってしまいましたからね……」
私もリッカーも先生を見ると、分かり易いほど近くの花をジーっと見ている。
特に興味も湧かない花だけど、何か有るのかな?
かんてーい。
名前 ナイノスアリア 種類 植物
説明 木陰にひっそりと咲く花で花弁は無毒、根は食用になる
食べられるんだ?!
「新種のなにかを見付けると調べるんです。それが有機物でも無機物でも」
「どういうことですか?」
「まあ、すごーく簡単に言うと、世界中の鑑定神の分身体があちこちに存在して、全ての物質を調べるのです。流石に書物のような書き記された内容まで調べはしませんけど、例えば本を鑑定すると、材質やタイトル、古さなどが分かります。残念ながら分からない場合もありますけど、少なくともこの惑星上に存在する全てを常に調べているのが鑑定神なのですよ」
全然簡単じゃなかった。
ワクセーって何。
モグモグ。
「完全鑑定の魔法もあるらしいのですが、その魔法が使えるのは鑑定神だけです」
先生の話は続いても足が止まることは無く、その分の歩みは遅くなった。
ほんのりと薄暗い道が続いていても、周囲を警戒しているワケではない。
「あの鑑定神こそ、この世界で一番苦労しているのですよ」
先生は話の内容とは関係なく、私達を見て奥を指さした。
ここは、あの街への入り口らしいけど、なんで分かるんだろう……。
街を示す看板はないけど、遠くに魔力を感じる。
「凄い魔力ね、誰かが戦ってるのかしら?」
「もしそうならピタンしか居ませんけど、気に成るので少し急ぎますか」
私とリッカーは頷いた。
街の入口は高い壁に囲まれた門があって、簡単には入れない様になっている。
馬車用と、人用と警備用の三つの扉が有り、入口自体は分かり易い。
私達がココを旅立った時には無かったモノだ。
「ちょ、水柱が見えてるわよっ」
アー。
あー。
「二人ともどうしたのよ、大変じゃないの?」
「あれはピタンの魔法ですし、他に脅威は感じませんね……」
お嬢様が扉をノックすると、小窓が開いた。
お嬢様を見て驚いて、喜んで、扉は直ぐ開いた。
「ただいまーっ」
「やぁ、おかえりー」
まだ城ではないですけど、歓迎されてますね。
まるで実家のような安心感です。
「あっ、先生もどうぞ、そちらの女性も」
「先生って、ここに来ても先生なの?」
「そういう日もありますね」
どんな日なのよ。
「ピタン様が子供達と魔法の練習をしていますので、ちょっと騒がしいですけど」
え?
様?!
様って何よっ。
「何か有ったんですね」
「えぇ、魔物の群れが現れたのですけど、ピタン様が一人で全部倒しまして」
「で、なんでピタンをそんな風に呼んでるのよっ」
「水神の巫女に成ったと大喜びしていました」
先生が吃驚している。
「それはちょっと見たかったですね」
「凄かったですよ」
案内をしてくれた人が興奮している。
「もしかしてさ、その魔物ってグリフォンだったりする?」
「そうですけど、なんで分かったんです?」
ワザと取り逃がしたなんて言える筈もなく、遠くの街での被害も考えると、正確に逃げた方向も報告するべきであったと、ちょっと後悔したが、責任を一人で背負うのも違う気がするので知らんぷりした。
そのまま湖の方に近づくと元気な声が聞こえる。
「みんなー、できたかなー?」
「「「はーーい」」」
ほほう、ここに居る子供達はみんな水魔法を使っています……。
水レーザー、水柱、渦巻き、スコール……ふむふむ。
ピタンはどうなりましたかね?
鑑定っと。
名前 ピタン 性別 女 年齢 564 種族 魚神 職業 水の巫女
Lv 19 筋力 49 魔力 125(500) 敏捷 25(250) 魅力 135
HP 1620 MP 2828
所持 水水晶
特殊技能 水精霊の加護 MP節約Lv2(水魔法限定)
水の守護者(棲息地なら魔力2倍)
「先生、水神じゃなくて魚神って何」
「私が知りたいです……」
確かに職業は巫女に変わっていますが、水神の巫女ではないですね。
こちらも、湖水から水の守護者に変わっていますし、完全に水特化になっています。
進化……いや、神化ですか……見たかったですね。
……魔王国の海を任せられる能力なら来た甲斐があったというモノです。
「あっ、先生?!」
「今は貴女が先生をやっているようですし、お構いn……」
すっごい悲しい顔をされました。
街の人達がこちらを見ています。
何故、私が悪いって空気が漂っているんですかね。
「私の先生だからね?」
「え、また新しい女を連れてるぅぅぅぅ?!」
誤解しか生みません。
「な、なにこのプレッシャー、すっごぉ……」
「少なくともこの街に居る限り、リッカーでギリギリ勝てるくらいです」
「リッカーも強いもんね」
「どうせ先生よりは強くないって思ってるでしょ」
「うん!!」
とりあえず全員転がしますかっ。
「んべっ」
「むべっ」
「なんべっ、わたしまでぇ……」
新しく作られた集会場のような建物の中に食堂があり、ジョンとレテの二人が料理を作ってくれるという事で、それを待っている間に少し話をしようとしたのだが、マリアは左腕をピタンに掴まれ、右腕をアイシャに掴まれ、リッカーがそれを見てニヨニヨしている。
先ほどピタンに魔法を教わっていた子供達にも笑われました。
「妙な笑い方しないで下さい」
「先生って愛されてるよね」
「先生の子供なら産んでいいよ」
「ピタンはそれ以上言うと3枚に下ろしますよ」
ピタンの口がピッタンと止まった。
「それで、ここに来たのってこの子を見る為だったの?」
「この子って言いますけど、リッカーより年上ですよ」
人の姿だとアイシャとそれほど変わらない。
お嬢様の方は少し成長したのでお姉さんに……まだ見えませんね。
「それで、なんで魔法を教えてたんです?」
ある日突然グリフォンが逃げるようにやってきて、水辺と湖を占領しようとしたから一人で戦ってすべて斃したとの事。その後に町の人達が魔法を使えるようになって少しでも魔物と戦えるようになりたいと言ってきて、教える事に成った。
「だから教えてたんだけど、私のレベルが凄い勢いで上がって職業も種族も変わったちゃって」
「只のナマズではないのは知っていましたけど、魚神族って初めて見ました」
「精霊様の話だと、数万年ぶりだって言われたかなーっ」
「流石に私が生まれる前の話は分かりませんね。その精霊と言うと、加護をくれた方ですか?」
「そーそー」
「一応確認しますけど、海は行けるようになりましたか?」
「先生、知ってるでしょ。私ナマズなんだけど」
「種族が変わっているのならイケるかもしれません」
んーってポーズをして考えている。
そもそも、海へ行った事が無い。
先生のトコロで修業をしていた時だって海に入っていないのだ。
「あと、ここの子供達の水魔法には全て貴女の加護が掛かっているので、この街を出ると効果が無くなりますよ」
「先生、それなんだけどさ……」
掴んでいる腕を離して下を向いた。
かなり深刻のようですね。
「街の男の子がみんな私の事を好きになっちゃうみたいで」
お嬢様が笑いました。
「あんた、それは流石にのぼせ過ぎじゃないのー?」
「いいえ、それ分かるわ」
リッカーが真面目な顔で同意すると、ピタンが顔を上げる。
「ホント?!凄い困ってて、どーしたら良いか、分からなくて……」
「簡単よ、振っちゃえばいいの」
「え、流石にそれは……なんて言うか、可哀想で」
ピタンは父親も母親も居ません。
子供の頃から一人で生きてきて、偶然私に出会わなけれは誰かに食べられていたかもしれない存在です。
当時は喋るナマズが珍しかったから付き合っただけなんですけど。
ま、内緒です。
「水神だの巫女だのって、聖女もそうだけど、みんなに愛される存在なのよ」
「えー、なにそれ、ずるい」
お嬢様は拗ねないでください。
ほらほら、リンゴジュース持ってきてくれましたよ。
レテが飲み物と完成した料理を、テーブルには少し多いぐらいの量がどんどん並べられていく。
そのタイミングで他の人達も集まってきました。
子供も一緒に連れられてきます。
グリフォンの肉料理がメインのようですね。
他にもサラダや魚、果物も有ります。
ピタンとリッカーが話をしながらテーブルに向かいました。
「だからね、愛を振りまいても良いけど、その愛に責任を感じてはいけない。博愛ってそういうモノよ」
「う、うーん……」
「あなたの事を愛している側からしたら、一人で独占しようと思っていない筈。もしそうなら喧嘩になっているわ」
「そう言われれば……女の子にもキスされたかも……」
お嬢様が拗ねながらテーブルに向かって行きます。
手を引っ張られるので私は強制的に隣の席ですね。
暴飲暴食はお勧めしませんよ。
「お腹いっぱい食べちゃうもんねーっ」
鯨飲馬食もダメです。
たくさんの人が集まってテーブルにつくと、厨房の方からも出てきました。
当たり前ですけど、二人で作っていた訳じゃなく、私達が来たから歓迎会になったそうです。
「いっぱい食べてくださいね」
「わーい」
酒類はまだ量が少ないようで、オガサンが運んで来るものをチビチビ飲んでいると、ジョンが教えてくれました。果物が有るのなら自分達でも造れば良いと思いますけど。
そう言ったら笑われました。
「酒を造った事が無くて知らないんだ、自分達で出来れば最高だけど」
「じゃあ、本を置いていきますので頑張ってください」
「え」
「はい、どうぞ」
ドスンと分厚い本を一冊。
だから、先生、なんで谷間から出すの。
驚いてるよ。
魔法袋と空間を繋げたって説明してもらわないと分からないよ……。
「こ、これって貴重品なんじゃ」
「写した本なので何冊でも有ります、ご心配なく」
「あ、あの……」
「遠慮しなくて良いですよ?」
「そうじゃなくて、先生」
「はい?」
「この本の文字が読めないんだ……」
「あー、これ別の時代の文字でしたね。じゃあこちらを」
どすん。
今の時代なので少しは読めるでしょう。
受け取った本のページをめくったジョンが汗を流しています。
「……あの……読めるんですけど、知らない単語ばかりで」
「それは頑張ってください」
「ですよね」
「私が教えても良いのですが、明日には立ちますので……。ああ、オガサンなら分かると思いますので来たら訊けばよいですよ」
「はい、そうします」
その本を持っていると他の人達が集まってきました。
相談なのでしょう。
では、料理を楽しみますか。
……私の分は?
「お嬢様っ」
「ヒィィ?!」
※後日談
「なんだこの本……
「いや、分かるんだろ、何を用意したらいい?
「……今度必要なモノを持って来る
「やったー!!
「みっともないから子供みたいにハシャグなよ……




