第070話 バイバイ
一ヶ月が過ぎ、敵国に所属していた貴族への対応と、兵士達の処分も終わり、放免された冒険者や商人達も自主的に活動を始めている。
街の賑やかさは相変わらずだが、それはこの港町の治安が良いからである。
公爵様からの依頼も完了したとの事で、報酬を受け取ったSランクの4人と1人は、王都へ向かうギルバードを見送る為に正門に集まっていた。
それは犯罪者で賞金首を連行する為であり、その中には貴族も含まれるので、下級兵士には任せられないのだ。
「俺達に任せておけって言いたくは無いが、今回の仕事は良い経験にはなったな」
「ゲンズーとドライクには特に活躍してもらったからね」
二人は獣人のSランクで種族として獣人が優れていると信じている者達からしても羨望の的だった。そのような者でないと素直に受け入れてくれないような者達にはとても有効な存在である。
「本当はそんな理由で尊敬はされたくないんだがな」
「それに先生の方が凄いしな」
Sランクでもマリアの存在はとても助かっていて、特にテキパキとした的確な指示は、考えるよりも行動派の彼らにはとてもやり易い。
「……お前ら、俺を見送りに来たんだよな?」
「そうだが?」
馬車の列が10台を超える大行進で、警護の兵士も100人以上、見送る兵士もその倍以上が待機している。
「次は団長様になって、どうせここには戻ってこないだろ」
「副団長は4人いるからな、どうせ筆頭止まりだ」
団長はまだ50代で、現役バリバリに強いとの話だが、王宮に所属しているのでその真偽は不明だ。元Sランクの冒険者だったという噂も有るが、どうせマーボゥだと思っている。過去にSランクで騎士団に入隊した者は存在するが、その規則の厳しさに自由を求める冒険者には辛いのだから、大体がAランクに成り損ねた者が多いのが実情である。魔物との戦いに疲れた者、仲間を殺された者、自己保身に走った者、そういう意味で純粋な冒険者達から国所属の騎士は嫌われている。
もちろん、最初から騎士団を目指した者達も数多に居て、ギルバードはそっちの部類だった。昇進するだけの実力が有れば安定した給料と安定した生活、家族を守るのだってその方が楽だ。
先頭の馬車は進んで行き、ギルバードが最後尾の馬車に乗り込むと、兵士達が敬礼する。冒険者達はしないが、アイシャが一人手を振ったので、ギルバードが応じる。
「また美味しいリンゴジュース待ってるねー」
先生が苦笑した。
狙ったワケではなかったが、結果的にアイシャのおかげで隠れ犯罪者も炙り出す事が出来たのは、今回の収穫の一つである。どうしても鉱石リザードの服を脱ぎたがらないし、冒険用の新しい服を買ってあげても、その日で飽きてしまう。
ギルバードとよく話をするようになったのも、犯罪者をたくさん捕まえたからで、その活躍からギルドではBランクに認定している。
名前 アイシャ・ブイルダン 性別 女 年齢11 種族 魔族
職業 魔戦師 Lv 39 ギルドランク B 登録地 ボールド
記録 冒険者ギルド特別待遇 商業ギルド販売許可
入国税免除(パロイドロス公爵承認)
名前 アイシャ・ブイルダン 性別 女 年齢 11 種族 魔族
職業 魔戦師 Lv 39 筋力 22 魔力 99 敏捷 23 魅力 135
HP 223 MP 1001
所持 ミスリル製の釣竿 鉱石リザードの服
特殊技能 進化の女神と契約 魔力の紋章 鑑定Lv2 父親の記憶 魔王の覚醒
商業ギルドからもあの戦いのおかげで儲けたからと言って付けて来たし、公爵様からの報酬が入国税免除で、他国でも免除してもらえる特別な証だ。
私の国にもちゃんとしたギルド欲しいわね。
無いのよね……。
魔物だって冒険者に成りたいって思ってるかも?
「お嬢様が有名になり過ぎたおかげで、私の方が少しかすみましたね。とても助かるのですが……」
「服の所為で狙われるモノねー」
夜明け前でまだ辺りは薄暗く、人もまばらな時間帯に、旅立ちの準備を部屋でしながらの会話なので、他の人に聞かれることは無いのだが、勘の良い女性が一人、私達の旅立ちの前に現れた。
「私も連れてって」
大きなリュックに何を詰め込んでいるのだろう?
軽装とは呼べないが、マリアもアイシャも、リュックを背負ってはいない。
アイシャには服の胸の部分に簡易ストレージが有って、リンゴジュースが詰め込まれているのをマリアは知っている。
「さて、とても分かり易い選択です」
先生が私を見たのは、選ぶのは私という事。
リッカーはずっごく目を輝かせていて、断らせない気満々だ。
「いいえ」<ピッ
涙が凄い。
滝のように流れだしたけど、これ私が使った水魔法よね。
「はい」<ピッ
笑顔が凄い。
あつい、暑苦しい……。
抱きしめられた。
もう、ずるいんだからー。
「イイケド、もう私達の事を知ってるよね?」
無言で頷く時の目は真剣そのもので、まっすぐ私を見ている。
とても綺麗な瞳には曇りが無い。
天使って事なんだけど、良いのかなあ?
「リッカーが一人増えたぐらいでは困らないですし、家も問題ありません」
「そうよねー」
「魔法袋が無いから大荷物に成っちゃうんだけど、先生もアイシャもそれで良いの?」
「お嬢様がお認めに成ったので荷物は預かりますよ。必要なモノだけ手に持ってください」
「やっぱり持ってるんだ、いいなあ……」
「作ってあげても良いのですが、材料が無いのです。特に袋の材質は地上では手に入りませんし」
「ギデオンも持ってるんだけど」
「魔法袋をどうやって手に入れたかは知りませんが、渡した人は価値を知らないんでしょうね」
「価値を知らないなんて事あるの?」
「逆に持っている事を知られると命を狙われたり、戦争の切っ掛けにも成りますので、そちらが理由でしょう」
先生も持っている事は知られないようにしているくらい危険な道具だ。
「ギデオンは隠してなかったよ」
「勇者の時ならそうでしょうね。今後は隠すと思いますが」
会話しながら整頓を終わらせると、先生がリュックを丸ごと魔法袋に仕舞った。
うにょーんってするんだけど、なんかなあ……複雑。
「じゃあ、改めて宜しくお願いするわね。アイシャ、先生」
「よろしくお願いします」
「うん、よろしくねっ」
「……そういえば、手紙ってまだ私が持ってて良いの?」
「ええ、私が持っていてもどうせ誰かに託す事に成りますので」
三人が揃って宿を出る。
それだけで目立つことは無かったが、やはりバレていたようだ。
正門を潜ろうとする前に、この街に残る二人のSランクの男が見送りに来ていた。
「先回りしてるとはね」
「リッカーが居なくなるとむさ苦しいから、嫌でも気が付く」
「確かにー」
仲の良い3人が笑っている。
それだけに別れは少し寂しい。
「二人が居るから安心して旅立てるのよ」
「そうだな、そういう事にしておく」
「あんた達って仲いいよね」
「苦楽を共にしてきたからね……でも、定住する気もないし、旅に出る良いチャンスでもあったの」
「俺達は公爵様に目を付けられてて動きにくくなったよなあ……」
「ギルバードの助言が良いんだろ、アイツは優秀だからな」
ゲンズーが何かを袋から出して私に見せる。
「これは金のリンゴだ。食べると一時的に能力が上がるが……どのくらい上がるかは不明だ。今の嬢ちゃんなら使いこなせるだろ。普通に食べても凄く美味いし、絶対に腐らねぇ」
「へー、貰っちゃって、ホントにいいの?」
「ああ。先生が何も言わないんだから問題ないだろ」
「受け取っても良いですが食べるのは禁止です。理由は今の通り、能力を一時的に上げるモノで、今の私達には必要ありませんが、もう一つの使い方としてなら」
「ははっ、先生は何でも知ってるなあ」
どういう事なんだろ?
「実は能力が上がるだけじゃなくて、年齢も上がります。もちろん効果が切れれば元に戻りますが、だいたい一日くらいは大人の状態になります。こちらの効果は大人には意味がないのです」
へー。
え、大人に成る?
「必要になる事なんてあるかな?」
「腐らないので持っていても損は有りませんし、貴族や奴隷商が欲しがりますね」
あー、そういう使い方ね。
食べちゃおっかな?
「駄目ですよ」
「え、あ、うん」
なんで禁止するのか良く分からないけど。
受け取って先生に渡したらすぐに袋に仕舞った。
使う気は無いみたい。
「じゃあ、他の人達に気が付かれると面倒だから行くね」
「おう、嬢ちゃんは人気者だからな」
「へへっ」
照れているお嬢様は可愛い。
可愛い、これ、毎日見れるのね。
「リッカーと先生の目が怪しいな」
「……では、行きましょう」
「はーい」
3人は夜明けの草原に向かって歩き、2人に見送られ旅立った。
これからの旅は私にとっての帰路。
リッカーにとっての岐路。
先生にとってはどうなんだろう?
私と同じ帰路だよね。
小さくなっていく二人に私はもう一度視線を向けた。
「ありがとねー、バイバーイ!」
手を振れば応じてくれる。
そんな仲間や友達が、私を成長させてくれた。
先生もリッカーも、私に倣ってやってくれる。
今日は寂しくない。
望郷の念はまだナイけど、お父さんの腕も取り戻したから早く埋めてあげたい。
帰れば私は魔王にな……るんだよね?
少し緊張する。
……気が早いか。
何故か私を見て先生がくすくす笑っていた。
※ネタバレ
次章へ続く……
名前 リッカー 性別 女 年齢 226 種族 天使
職業 双剣士 Lv 321 筋力 358
魔力 503 敏捷 159(318) 魅力 223
HP 1942 MP 2026
所持 ミスリル銀のツインダガー
特殊技能 飛翔 自然治癒Lv1 見切りLV2 天命神と契約
名前 リッカー 性別 女 年齢 26 種族 天使
職業 双剣士 Lv 321 ギルドランク S 登録地 フレディ
記録 冒険者ギルド特別待遇 グリフォンハンター




