第069話 帰りたいけど気に成る
こんな時にSランクはとても役に立つ。
それが4人も居るのだから、利用させてもらう。
それは公爵からの正式な要請で、冒険者ギルドもギルド長承認の印まである。本来は使わない国王の印まで付いていて、断ると今後の活動にも支障をきたす依頼書であった。
「ココまでする必要は?」
「ないな」
「有る訳がない」
「無いわよね」
と、Sランク達が集まって不平を鳴らしているが、断るつもりは無い。マリアも巻き込まれてしまっているが、最近のお嬢様は機嫌がとても良く、訓練にも勉強にも真面目に取り組み、今回の依頼も……。
「いーじゃない、そのくらい」
……決定した。
国王印が有るだけで超高額依頼だが、その内容の最重要項目は治安維持に有る。
他国から逃げてきた貴族は信用できず、必ず不正行為をする。
自分ならそうする。
と、屋敷に呼びつけたSランク相手に不必要な一言まで付け、受託させたのである。
その後の夕食では、Sランクが集まったテーブルで今後の方針のような雑談と愚痴を話し合っていた。
責任の一部を丸投げする事で、領主が楽をするつもりなのは理解した。しかし受けてしまった以上、直ぐに行動し、避難所の設営や、受け入れる順序、特に貴族には空いている屋敷を用意し、監視体制の配置まで決めている。
「こちらで用意した屋敷に入って貰った方が管理しやすいですから」
平民には大き過ぎる、貴族には小さ過ぎる、絶妙な大きさの屋敷を街にバラバラに用意したのも、繋がりを失わせる為である。
「逃げて来た人達は妙な連帯感も生まれます。それを断ち切る処置も必要でしょう」
「その場合だと貴族以外も注意が必要だな」
「勿論です。ですから船を接収して臨時の避難所にしましょう。お金なら公爵様が出しますので」
マリアが誰からも先生と呼ばれている理由の一端を知って笑ってしまった。
貴族の、それも領主で公爵様の財布まで利用するとは思いつかなかったのである。
今の権限でも一部の兵士を自分の部下として扱えるし、佐官クラスを命令できる貴重な機会なんて二度と訪れないだろう。
……訪れて欲しくない。
「向こうがそのつもりですので、こちらも利用するだけなんですよ」
……やっぱり先生の方が怖いな。
天候悪化により予定より少し遅れ、9日後に受け入れが始まった。
捕虜や貴族を聴取するのは軍人の仕事なので、冒険者に用はないし、それこそ将軍に近い者達が行うくらい国家機密になる。公爵様の臨時で創設した特別捜査班が多忙を極める事に成るが、Sランクが手伝う権利は与えられていない。
低犯罪の窃盗や暴行はAランク以下でも余裕で取り締まれたし、貴族であってもSランクの一睨みで委縮する。
予定は順調だった。
アイシャの服を見るまでは……。
あの対決以来、アイシャは先生が作った服をとっても気に入っていて、帰りの旅にも着て行く予定だ。流石にティアラは外しているが、最近のご機嫌の理由の一つでもある。
「お、おい、あの子の着ている服、鉱石リザードじゃないか?」
「子供が着るような服じゃないと思うから見た目だけじゃないのか」
と言う話をしているところに、この街であの決闘を見たなら当たり前のように知っていたから、当然様の答えたのだ。
「鉱石リザードって本人が言ってたぞ。最高級かどうかは知らないが、安くても金貨50枚ぐらいだろ」
鉱石リザードはその鉱石の皮膚の質でランクが決まる。
銅・鉄・銀・金・ミスリル系金属や、宝石にもなるダイヤやプラチナ等があり、アダマンタイトやヒヒイロカネ、オリハルコンも極めて希少だが存在し、過去に合金は存在しない事が確認されている……。
※マリアの研究レポートより一部抜粋※
「加工するにしてもかなりの工匠じゃないと無理じゃないのか」
「欲しいな……」
そこからは過激な発言が目立つようになったのだが、その所有者がギデオンと戦った事を知っていれば手を出そうとも思わないし、Sランクとも仲が良く、その者達から先生と呼ばれる、更に上の存在が居るのだから、馬鹿でなければ盗もうともしないだろう。
当然だが、馬鹿は現れた。
「へっへっへっ……嬢ちゃん、良い服着てるなあ?」
「あら、ありがとう」
年齢に比して、過酷過ぎる人生を送っているから、そういう目をしている者を、今のアイシャならすぐ気が付く。
この時も冷ややかな視線を送っていて、笑顔はない。
近寄って来たのは一人ではなく、話し掛けて来た男の他にも3人いる。
「リンゴジュース奢ってやるからオジサンと一緒に行かないかぁ?」
返事も待たずに腕を掴もうと手を伸ばしてくるので、反射的に手前に下がった。
「お、んべっ」
するっと転んで後頭部から落ちた。石で舗装された道なので、とても痛そうである。
「おじさん、頭大丈夫?」
「ダダ、ダイジョブさ……ホラ、おぐっ」
今度は厚底ブーツで顔を踏まれた。
後ろの男達が吃驚する。
明らかに踏みつけているからだ。
子供に舐められていては矜持が許さないが、周りに人が多過ぎた。
直ぐに騒ぎになるのだ。
「て、てめぇ……ワザとだなっ」
「知らないおじさんに付いて行っちゃダメって先生に言われてるのよね」
「じゃあ、俺となら付いて来てくれるかな?」
彼らの後ろから現れたのは鎧を身に付けた兵士だ。
「あら、ギルバード?」
呼び捨てにされているが、全く気にする様子はない。
その名前を聞いて驚いているのは男達の方だ。
「な、なんだと?!」
「……お前ら、恥ずかしくないのか?」
そもそも、恥ずかしいと思ったら最初から話し掛けもしない。
男が4人で一人の女の子を囲もうとしているのだから、それだけでも犯罪臭がするし、実際に最初から見ていたので、止めるつもりだったのだ。
面白そうだから観察していたのは内緒だ。
「ねぇ、ギルドまでエスコートして」
「承知いたしました」
ギルバードは王宮騎士所属の副団長で、その名前も顔も知らい者の方が少ない。その実力も勇名も副団長に恥じない実力者だ。その副団長から差し出された手を握ったアイシャが11歳らしい笑顔で去っていくのを、男達は見送るしかなかった。
「どうなってんだ、あのガキ……」
最近はマリアも忙しく、この街であるからアイシャに自由行動を許しているが、何か有ったら公爵に責任を取らせるとギルバードに言ってある。
その所為で余計な仕事が増えていたのだ。
そしてギルバードには一つの疑問が残ったので素直に訊いてみる。
「あの男を転がしたのって誰だ?」
「私じゃないわよ。あんな魔法使えないし」
「……出来れば大人しくして欲しいんだけど、駄目かなぁ?」
「えー、この街を歩いて回るだけでもいい訓練になるって先生に言われてるから」
確かに良い訓練になる。
何しろ人は多いし、種族も多いし、人を観察するには勉強になる環境である。
それはギルバードにとってもそうで、いずれ団長の座に就くと言われているこの男にとっても良い経験だった。
しかし、歩く財宝みたいな存在はちょっと手に負えない。
「アイシャの先生についてお話ししたいなあ」
間髪を入れず答える。
「アップルパイで良いわよ」
「……交渉上手だね」
気に成る事が多過ぎて、気苦労の絶えないギルバードであった。
※おまけ
男女二人の旅人が街道を外れた岩陰で休んでいる
「今日もこんなところで野宿するのー?
「人と会いたくないんだ
「確かにこの鈴のおかけで魔物は寄ってこないけどさー
「綺麗な星空だろ
「もう見飽きちゃったよー
「……
「……
「……すまんな
「……んっ
「?!……
「……
「……
「……
「……




