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第064話 勝負の行方

 控室からでも聞こえる外の声。

 約6000人が集まっている。

 だから、歓声も凄い。

 先生もリッカーも私の後ろに立っていて、私が舞台の前に立っただけで歓声が更に響く。観客席には人が詰まっていて、あの特上の席にも人が見えた。

 見た事の無い女性が舞台に立っているのは私達を待っているようだった。

 近寄ると彼女は勝手に喋り始め、自己紹介をする。

 今回の勝負審判ではなく、見届け人としてギルドから派遣されたとの事。

 そして、こちらに向いた。


「今日の挑戦者、11歳の少女、アイシャぁぁあああ!!」


 拡声魔法で観客よりも大きな声が響くと、私の名前が何度も呼ばれる。

 空気の振動なのか、アイシャの身体は自然と震えた。


「こっちも来ましたよっ、勇者ギデオぉぉぉぉぉぉンっ!!」


 今度はギデオンの名が呼ばれる。

 なんでか知らないけど、女性の声が大きくなった気がする。

 やっぱり勇者だから人気あるのね。


「戦いの前にちょーっと、よろしいですかー?!」


 ギデオンの表情は暗さも明るさもない。

 無表情と言っても良いくらいだが、その目には何か秘めたモノを感じる。


「良いわよね、ギデオン」


 アイシャの声は届いたハズだが、返事はしなかった。

 ギデオンは武舞台のほぼ半分まで歩くと、その場に止まる。

 本気だ。

 それを感じさせるだけの装備を整えていた。


「あれ、あの時と装備が違いますね」

「どの時か知らないけど、あの装備は本気よ。星銀の鎧なんて身に付けているのを久しぶりに見たわ」


 アレが星銀の鎧。

 確か、隕鉄だけを精錬して作られた星の金属……。

 でも、無茶苦茶重かった筈ですが。


「重すぎて使い難いとは言ってたけど、使わなくなった理由はそれだけじゃないの」

「武具に囚われて自分を弱くするからですね」


 強すぎる武具は使用者を堕落させる。

 武具の強さを自分の強さと勘違いさせるからだ。


「流石先生、その通りです」


 武舞台の真ん中に立つ女性が最初にギデオンに寄っていく。


「これは伝説の星銀の鎧ですね、噂は聞いていましたが本物を身に付けてくると言う事は勝負は一瞬じゃないですかっ」


 口を開いたギデオンは驚くほど声が低い。


「一発目は嬢ちゃんに……いや、アイシャに譲る。仲間との約束が有るんでな」

「先制はしないと、そういう事ですかっ」


 ギデオンはなにも応えず、目を閉じて腕を組んだ。

 恐ろしいほどに周囲の空気を張り詰めていく。

 これ以上の質問を諦めた見届け人がこちらに来る。


「あひやっ」


 何その声。


「近寄っただけで何かにぶつかった気がするんですけど、その装備はいったいっ?!」

「先生が作ってくれた特製の装備。可愛いでしょ?」


 嬉しそうに同意する見届け人が、私の頭に付けているティアラを見て身体を震わせた。何かを言おうとして指だけが動いている。


「えっ、あっ、その……その頭のティアラは……まっ、まさか……」

「ああ、これね。大丈夫、本物じゃないから」

「本物じゃないしても、凄い魔力を感じますよっ」

「今だけ外す?」

「お、お願いしますっ」


 ティアラを外すと胸元のストレージに入れる。

 見届け人が安心したように深呼吸した。


「皆さんも見ていただけましたねーっ!この服もとんでもない素材のようですがっ」

「なんだっけ、鉱石リザードとか言ってた」


 周りから「すげえ」の連呼。

 ふふーん。

 私の先生が作ったから凄いのは当たり前だけど、気分が良いわ。

 それは一番良い席に座って観戦する公爵様も驚きの声が止まらない。


「ギルバード、あのマリアをどうにか出来ないか、あんな子供であの装備だぞ」

「……諦めた方が命の為です」

「ぐぬぬ……」


 歓声が止まらない所で、見届け人の拡声された声が公爵の名前を呼ぶと、闘技場6000人が静まり返った。

 公爵は静かに席を立ち、宣言する。


「これより勝負を始めよ」


 それが開始の許可で、合図は見届け人がする。

 だが、その前に武舞台から逃げるように立ち去ってから、両者を見詰め、固唾を飲んでから叫ぶ……。



   「始めっっっ!!」



 同時に歓声が響き渡ったが、二人は動かない。

 ギデオンは宣言した事を守るため。

 アイシャはティアラをもう一度身に付けたから。


「……」

「じゃあ遠慮はしないから……」


 禍々しい魔力がアイシャから立ち上る。

 恨み、憎しみ、そして悲しみと怒り。

 その全てが魔力として拳に込められた時、そのまま受けるつもりでいたギデオンが組んでいた腕を広げ、身構えた。


「筋力増強、一点集中、全力全開……殲滅の一撃!!」


 アイシャの姿が消えたとほぼ同時に、ギデオンの目の前に現れる。

 その一撃は、受け止めたギデオンの身体を浮かせ、一瞬で吹き飛び、壁に激突させた。武舞台から落ちても負け判定は無いので問題はなく、その近くに居た者達も余波で吹き飛んだ。ギデオンの身体は壁にめり込んでいて、壁が崩れると、あまりの出来事に再びシンとなった……。

 ギデオンはその崩れた瓦礫の中から何事も無かったかのように立ち上がり、兜を身に付けていなかった所為で頭から血を流していたが、気にする様子はない。


「約束は守ったぞ……」


 ギデオンは本物の太陽の剣を抜いた。

 マリアは驚いたが、そのギデオンから殺意は感じない。

 放たれる白い輝きにアイシャの負の魔力が消えていく……。


「舞台に上がるまで待ってあげるわ」


 そう言って、スカートのポケットから愛用の吊り竿を取り出す。

 長く伸びたその竿は、普段見ていた長さを越えて伸びる。


「アレが本当に11歳の子供か……?」

「信じられん……」

「ただの戦いには見えねぇ、戦場の一騎打ちって言うか、何か、特別な……」

「そうか、ギデオンの奴、本気で斃そうとしているのか……」


 空気が震える。

 晴天の空が暗く見える。

 ゆっくりと歩み寄ってくるギデオンの姿は、視界の情報と脳裡に伝わる情報に齟齬が出来た。とてつもなく大きく、空を覆うほどに侵食してくる。

 ギデオンの片方の足が武舞台に乗せられ、次の一歩を踏んで完全に乗った時、二人が多くの者達の視界から消えた。


「消えたぞ、ギルバード」

「いえ、消えていません。物凄いスピードで場内を移動しています……」


 この二人の姿を捉えられた者は会場に10人もいない。

 ギルバードも何度か見失っていて、把握しきれていないのだ。


「先生は見えてるのよね?」

「リッカーも見えますよね」

「ギリギリです。私の時には手を抜いていたとは思えないんだけど……」


 瞬間的に自身の地の能力を上げています。

 もちろん、こんな特殊技能は有りませんし、お嬢様にしかありえない能力です。

 てか、なんであの二人は会話しているのですか?


「負けて欲しいなんて思わないだろ」

「とーぜんね」

「なら、俺を見付けてみろ」


 見えません。

 ギデオンが消えました……。

 観客もどうやって応援して良いのか分からず、ただ見ているだけです。

 でもお嬢様は、目で捉えている。

 あれはどう見ても普段より基礎能力が上昇しています。

 説明できません。


「か、べ」


 突然の音と、観客席の真下の壁が崩れる。

 鈍い音が聞こえると、武舞台の床がえぐれ、浅くもない穴が幾つも出来る。


「ゆ、か」


 足音が聞こえない。

 お嬢様の忍び足ではなく、履いているブーツに付与した能力です。


「そ、こ、は、ず、る、い」

「と、べ、な、い、の、か」


 リッカーが気が付いた。


「なんで会話しながら戦ってるのよ」

「貴女と同じ事を狙っているのです」


 ゴムを引き千切った様な不思議な音と同時に、二人が武舞台に現れた。

 剣を盾で防いだアイシャの釣り竿が、ギデオンの鎧に突き刺さったように見える。


「うまい、カウンター!」


 だが、吹き飛んだのはアイシャだった。

 剣の威力に負けてその場に立っていられなかったのだ。

 仰向けになって武舞台の床を滑り、そのまま壁まで滑るように突っ込んだ。

 壁が瓦礫となってアイシャに降りかかるのを見るまで、ギデオンは姿勢を崩さなかった。


「刺さってませんね、お嬢様の武器が折れています」

「武器が使えない……負けちゃうの……?」

「あの竿はちょっと特殊なんで放置しておけば自然修復します。ですが、この戦いではもう使い物になりませんね」


 瓦礫の中から立ち上がったアイシャを見てマリアがホッとする。

 本気で止めたかったが、まだ手を出して良い時ではない。

 この次の作戦を知っているからだ。


「うわーーーん!!」


 どよめいた。

 あの戦いの後で泣くとはどういうことなのか。

 剣を鞘に納めたギデオンは、腕を組んだ。


「オイオイ、泣いちゃったぞ」

「こりゃーだめかな……」

「期待したんだが残ねn……ん?」


 涙が噴水のように出る。

 あのギデオンが油断したのは一瞬だけ。

 本当に泣いたと思ったのだ。


「あっぶねっ」

「チッ」


 良い表情ですお嬢様。

 うーん。

 ゾクゾクしますね。

 リッカーも同じようです。


「でも気が付くのが遅かったわね。もう準備できたから!」


 風切り音ではなく、水を切るような音が聞こえる。

 アイシャの左右にはアイシャと同じくらいの水玉が浮いていて、アイシャの姿も水の様に滲むと、右から水圧レーザー、左から渦巻きが時間差で襲い掛かった。

 速さで即応して直接アイシャを殴ればよかったのに、そうはせずに逃げ回ったギデオンの判断を先生が感心する。


「やはり簡単には騙せませんね」

「解説が欲しい」

「あのお嬢様は偽物ですよ」

「え?」


 ギデオンが逃げた先には水溜まりが出来ていて、あまりにも変則的な攻撃に反撃を見失っている。


「どこだっ」

「もらったわっ」


 二人にしか分からない会話が止まった時、本物のアイシャが最初に魔法攻撃をした渦の中から現れ、ギデオンに一撃の拳を当てた。

 威力はかなり下がっているが、Cランク程度の魔獣なら一撃で沈む威力である。


「良いです、非常に良いです。油断していません」


 武舞台は水に沈んでいて、見届け人とリッカーを抱えて避難したのは先生だ。


「助かります、怖くて動けませんでした」

「リッカーもぼーっとしてはダメです。あの衣装とあのティアラを身に付けた本当の意味が解りますよ」


 ギデオンはただの水鉄砲にすら反応してしまい、どこから現れるか分からないほどに見失ってしまっている。水溜りに自分の足が浸っていて、上手く動けないのだ。

 それでも水圧レーザーを躱し、渦を避け、足元から湧き上がる水柱も回避して見せると、ぼんやりと滲んだ姿が見えた。


「そこかっ」


 放った拳はアイシャの何倍も威力は有ったが、空ではなく水を切っただけに終わると、身体中から危険信号を発した。

 あの子供に包み込まれた恐怖を、ギデオンは確かに感じていた。


「天然サンダー!!」


 声と同時に、ギデオンの身体中に電撃が走った。

 痛みよりも身体が勝手に痺れて痙攣を起こし、耐えるだけで疲労が激しく蓄積される。これは魔法だが、半分は魔法じゃない。魔法で発生条件を作り、発生した稲妻を身体で何発も受けているのと同じだ。


「お、おおおお……見付けた」


 アイシャは姿を隠すために水の中に居た。

 それはこの電撃を自分も浴び続けていて、動けなくなっていたからだ。

 もう経験の差なんてものはない。

 ここで生きるのは不屈の精神力。

 それは、ギデオンが勝った。


「筋力倍加、一点集約、電光石火……雷光の一撃!!」


 稲妻を拳に集めたその一撃は、アイシャの腹部を貫く。

 光の筋がまっすぐに伸び、観客席にまで届くと足元から崩壊した……。


「あぐっ……」


 アイシャの視界が暗くなる。

 力が入らない。

 お父さん、お母さん、ごめんなさい……。






「あの水に触れてたら私達もああなったんですよね……」


 見届け人の問いに先生は簡潔に応じ、水の魔法を素早く取り除くとアイシャに駆け寄った。

 もう勝負は着いている。

 大丈夫、ちゃんと手を抜くのを見ました。

 そのまま筋力でぶちかませばいい所をわざわざ雷光にしましたもんね。

 筋力倍加にしたのは無理矢理身体を動かす為ですか……。

 完敗ですね、お嬢様。

 ピンスが観客席から飛び降りて来てくれたので回復は任せます。

 ギデオンは不要ですね。


「あ……ふぅ……また、負けちゃった……」


 見届け人はアイシャ見て、ギデオンを見て、公爵に向かって一礼する。


「勝者ギデオンっ」


 歓声も無く、喜びもない。

 ただ静かに見守られているのは少女で、そこに6000人の目が注がれている。


「ぴんぴんになーれっ」


 ピンスの完璧な治癒魔法でお嬢様の身体中の傷が消えた。

 出来れば私が治療したかったのですが、ココまで完璧には出来ません。

 治癒魔法Lv3は流石ですね。


「ああ、良かった、殺してないな」

「見事な手加減でしたね」

「稲妻を集めて減らすのは初めてだったからな」

「初見で対応されたのですね」

「……まぁな」


 リッカーは話を聞いているだけで、何も出来ない。

 ピンスがギデオンにも治癒魔法を施すと、ギデオンは消えるように立ち去った。

 観客達も見ていただけなのに疲労感を覚え、一人、また一人と闘技場を後にする。

 お嬢様は安心したのかそのまま寝てしまいました。

 そして、丸三日ほど眠り続けるお姫様になりましたとさ……。

 寝顔も可愛いです。スリスリ






※今日の魔王城



ホゥディ「一点集約ぅぅぅぅ

シェリイ「おー、上手になりましたね

ホゥディ「えへへー

レノア 「埃を集めるのが上手くなってどうするのですか

シェリィ「掃除が楽ですよ



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