第063話 控室
勝負の日。
朝からどんよりとする雲が迫ってくるような天気だったのだが、冒険者達が集まって空に火の魔法を放って、晴天に変えた。
何故か先生のトコロに集まって大喜びしている。
何をしたんだろう?
「やっぱり先生は規格外だよね。補助魔法で魔法を強化するぐらいは解かるけど、100人を一度に掛けたんだよ。城に放ったら秒で燃え尽きるんじゃないかな」
闘技場に向かう道、今日はリッカーと二人で向かっている。仲良くなったとはいえ、ニコニコしていつもリンゴジュースを渡してくるのはなんで?
美味しいから貰うけど。
昨日も訓練の相手をしてもらって、俄仕込みだけどかなりの速さに慣れる事が出来た。ってか、その分リッカーも速くなっていくから、攻撃は全然当たらなかったけど。
「アイシャもSランクに成ったら一緒に冒険しない?Cランクのままだと同じ依頼受けられないから、せめてAランクかな」
「時間が有ったらいいけど、そもそもSランクに成る気は無いわ」
「そうなの?」
理由を問い詰めてこなかったのは、女性の深い理由に触れると思ったからだろう。リッカーのステータスの種族には天使と表示されているし、私は魔族だ。
名前を見ても反応は無かったから、知らないんだろうな。
「てか、盛り上がり過ぎじゃない?」
二人が歩いているのはまだまだ早朝の商店街で、買い物客の殆どはココの住人だ。冒険者は普段ならいない時間帯のハズなのだが、今日に限ってはとても多い。
私に気が付くと声を掛けてくる。
「頑張れよ」
「期待してるぞ」
「嬢ちゃんに賭けたからな」
勝手に賭けが始まっているが、どう考えてもギデオンが圧倒的に有利で、ほとんど成立していない賭けなので個人的にやっているのかと思ったら、商業ギルドが公認でやっていた。闘技場の近くまで来ると、もう人だらけ。
露天商があちこちに店を出しているし、馬車がやって来ると更に多くの人を降ろして去っていく。
どーなってるの。
「正直言うとね、秒で負ける可能性だってあるの。でも、少なくともギデオンと真正面から戦いを挑む人は現れなかった。貴女が初めてよ、アイシャ」
「それがどうしてこんな事に」
「それはね、貴女に期待しているからよ。グリフォンを倒した時の話も広がってるし、訓練している時の姿も尾びれ背びれが付きまくってマーボゥみたいにね。そして一番の理由はギデオンの反応よ。あんな顔は見た事が無かった……」
それはお互いを鑑定した結果、もちろんそのステータスの高さに驚いたのは私だったけど、それ以上に驚いた顔をしていたのがギデオンだった。
名前を見た時の反応で理解したのだろう。
自分が殺した魔王の娘が目の前にいる事を……。
「秘密だろうから訊かないけどさ、あのギデオンを困らせる特殊技能が有ると思っているわ。実際に苦労したという話も本人から聞いたことが有るし、勇者特効のなにかが有るんでしょ」
それほぼ質問してるじゃないの。
知りたそうな顔しちゃってる。
「ねぇ、リンゴジュース買って」
素早く買ってきて私に手渡す。
速いし、早過ぎるわ。
ズズー。んぐんぐ。
「アイツ勇者じゃないじゃん」
「あっ、そーいやステータス見せて貰った時、別の職業になってたわ……」
「あら、知ってたのね」
「じゃあ、勝敗のルール決めないと負けちゃうんじゃないの?」
「……付き合って貰ったし、世話もして貰ってるから教えるけど、私はアイツに勝てると思ってないわ。そもそも勝って解決する話でもないから」
アイシャが俯くのを見ると、リッカーがお姉さんになった気持ちを感じたのか、頭を撫でてきた。女性なのに冒険者期間が長いから、手がゴツゴツしてて堅いけど、先生とは違う温もりを感じる。
「でも、負けるのは悔しいんだね」
アイシャは吃驚した。
勝手に足が止まって、見上げると優しい笑顔がそこに有る。
「私だって悔しい思いはいっぱいしてきたから分かるわ。種族の所為でどこの街でも馴染めなかったし、住みにくかった。奴隷にされそうになった事だってあるの。もちろん全部力でねじ伏せたから、今が有るんだけどね」
「……私にも出来ると思う?」
今の私には眩しいほどのまっすぐな笑顔で答える。
「もちろん!」
闘技場では警備している兵士が私に気付いて中を案内し、控室に到着すると先生がそこで待っていた。
試合開始まではまだ一時間ある。
私を見た先生が変化に気が付いて一言。
「何か良い顔になってますね」
「リッカーは指導者としてはあんまりだけど友達にはなれそう」
「嬉しいけど嬉しくない評価ね」
丸いテーブルと椅子が有って、椅子は4脚ある。
先生は座らず、私とリッカーが座るのを待っているようだ。
「今回のルールが決まりましたが、まだ変更可能です」
「ルール?」
制限なしの一発勝負。
闘技場の外に出なければ空中もOKという、完全に不利な内容だった。
「問題無いですね?」
「うん」
座ったのにすぐに立ち上がって抗議をしたのはリッカーしかいない。
「ちょっと、そんな条件だったら私だって勝てる気がしないわ、本気なの?!」
「私が出せる最高の装備品を使いますけど……まあ死なないくらいにはなるんじゃないですかね」
先生の最高の装備品の方が気に成るんだけど。
むしろ、そんなものあったん?!
先生がにっこにこなのが怖い。
「あの太陽の剣を使う事は無いと思いますけど、それを防げる籠手ぐらいの小盾と強化済みの魔導着、厚底でも軽量化したハイブーツと秘蔵の殲滅のティアラです」
一つ一つテーブルに乗せられていくのを見ていたリッカーが泡拭いて倒れたんだけど、なんで?
「この盾は合金ミスリル製で、動きも邪魔しませんので身に付けているだけで良いですよ」
「わー、凄い。ホントに軽い」
「魔導着は鉱石リザードの革を鋼のハンマーで叩いて作った加工品です」
「なんかワンピースみたいで可愛いわね、プリーツなのも良いわ」
「ハイブーツの方も同じ物を使用しています。色が黒しか無くて申し訳ないですが」
小盾は銀色で、このティアラは黒と赤と金の三色。デザイン自体は一般的に見える。
身に付けると頭にフィットする感じが凄い。
服とハイブーツは少し重いけど、今の私には気に成らない。
「お嬢様、素敵です、うふふ……」
リッカーが気が付いて起き上がった。
着替え終えた私を見て目をぱちぱちさせている。
「どうしたの?」
「その装備一式でいくらすると思ってるの……」
「先生、いくらぐらい?」
「えーっと……買った物ではないので値段は言い難いですが、古代金貨10枚くらいですかね」
はぁ?!
「はぁ?!」
あ、吃驚し過ぎて考えと同じ言葉しか出なかったわ。
10枚って……。
「ちなみにそのティアラだけで古代金貨5枚分よ」
「この、なんだっけ、殲滅のティアラが?」
「先生が言うから信じるけど、古代遺跡で発見されてどこかの王家に献上された……と言う伝説と噂が広まってて、呪いが掛かってるアイテムなのよ」
「へー、何の呪いなの?」
「動きがかなり遅くなる代わりに魔力が2倍になり、相手の魔力を吸い取ります」
「鈍い呪いね」
「……」
「補助魔法で強化しますので意味の無い呪いです」
「……」
「どうしたの?」
「そのティアラって禁書に載るくらい危ない装備で、宮廷魔術師なら誰でも咽喉から腕が出るくらい欲しい代物なのよ。それだけで戦争が起こるくらいに……」
そんな代物を先生がどうやって手に入れたのか、そっちの方が気に成るんだけど。
「えっと、私が作ったので本物ではないです」
「もしかして服とかも?」
「えぇ、お嬢様が寝ている間にコツコツ作ってました」
あー、先生は寝なくても平気だから夜は暇なのよね。
「サイズぴったりなのはそういう事なのね……」
「いつも見ていますから」
「そんなにあっさり……素材だって特殊じゃないの?」
「天使の貴女なら知っているでしょうけど、サンタヘルで貰った素材を使ってます」
リッカーは頭痛がしていた。
「どうしたの、頭痛が痛そうね?」
「腹痛かもしれませんね」
この勝負が終わったら、先生に全てを話す決意をしたのは、この時である。
だが、今のリッカーは無言を貫いた。
この少女が、ギデオンに挑む時にする話ではない。
そして本当に頭が痛い。
何十年も掛けて探すような素材がフンダンに使われた装備一式。
そして、手に持った釣竿が鞭に見える……。
なに、この無理して背伸びしてる感たっぷりの可愛い生き物は?!
「とんでもないモノを見ている気がするわ」
「お嬢様の素晴らしさが理解できたようですね」
なんで二人で握手してるの。
その後に私を変な目で見るのはやめて。
ちょっと、胸元見ても何にも出てこないわy……出てきた。
「そこに簡易ストレージが有るので、小物程度なら隠しておけますよ」
ストレージの中を確認すると、高級霊薬が10個入っている。
この葉っぱは何だろう?
「ああ、それは世界樹の葉です」
リッカーが気を失いかけた。
お、戻ってこれたわね。
「驚かない方が苦労するわ……」
時間までまだもう少しある。
先生とリッカーに相談して戦い方の再確認をするアイシャだった。
※おまけ
「何か余ってて使わない武器って無いですか
「もちろん有りますけど
「見るだけでいいから見せて貰えないですか
「えーっと、能力半分の模造品の太陽の剣が有ります
「欲しいいぃぃぃぃぃぃ
「見るだけよ
「ハイ。しょんぼり……
(声に出して言ったわね……)




