第062話 絶望的な
※前書きです
遂にこんなところに追いやられました
ねえ、先生
はい、なんでしょう?
私が<主人公>だよね?
もちろんです!!
決闘は3日後。
本当は明日でも良かったのですが、ギルドで大騒ぎになってしまいました。
しかも公爵様の耳にまで届いたようで、舞台まで用意されていて、収容人数が6000人ほどなのに、既にチケットが完売したそうです。
どういう事なんでしょう……。
そんなワケで、お嬢様の為にも下見に来ました。
誰も居ないので広々としていますし、とても静かです。
「先生、ココって何?」
「大会用の闘技場です。あの一番良い席に公爵様が座るそうです」
円形の観客席の一番見やすい所に設置されています。
アレが無ければ100人くらい観客増やせそうなんですけどね。
「なんか怖いのもそうだけど、キンチョーしてきちゃった……」
「申し訳ありませんお嬢様。野次馬が来るくらいは考えていましたけど、まさか舞台を用意するなんて思いませんでした」
「ううん、先生のおかげで堂々とできるんだから、全力が出せるように頑張るわ」
「それにしても、お嬢様を鑑定した後のギデオンには吃驚しました」
「ね」
ギデオンはお嬢様を鑑定した後、その場で胡坐になって、瞼を閉じて動かなくなった。周りからすると精神統一をしているようにも見えましたが……。
「名前で分かったのかな?」
「まぁ、当たり前ですけど有名ですから」
「なんかさ、今でもあんな奴は嫌いだし、何発でも殴ってやりたい気分だけど、殺したい復讐心が消えちゃったの……」
心が成長している証拠ですし、お父様もお喜びになるでしょう。
「アイツの仲間って良い奴ばっかりなのよね」
「仲間で思い出しましたけど、ハニエルが手紙を仲間に送ったと言ってましたから、ギデオンも受け取っているのなら……」
「ママー!」
「師匠!」
二人に呼ばれました。
強制転倒の刑です。
「んべっ」
「んっんんんっ……むべっ」
お嬢様が倒れた二人の前に仁王立ちします。
「さあ、練習相手になってもらうわ」
「えー、師匠に教わりたくて来たのに……」
「呼んでもいないのに来る方が悪いのです。終わったらグリフォンのシチューをご馳走しますよ」
「それ、私が獲ってきたヤツなんだけど」
「大人しく待ってまーす」
「ピンスは聖女の癖に魔力が低すぎるので訓練した方が良いですね」
「妖精の能力でMPが殆ど減らないから困らないよぉ」
「腹が立つので強制的に減らして差し上げますね」
先生が指をくるくる回すと、ピンスがMP切れで倒れた。
静かになったので丁度良いです。
「じゃーやるわよー」
「仕方ないなー」
二人は観客の誰もいない舞台に向かって行きました。
リッカーの驚く顔が楽しみですね。
ふふっ。
ギデオンは苦悩していた訳じゃない。
殺すという事は殺される覚悟を持つ事だ。
それは、この世界に来て知った事だ。
だが、日本人として育った、あの世界を知っている者にはとても辛い。
血反吐を吐くような特訓だってしたし、殺されない努力もした。
今の俺は、あの子が魔王として君臨する世界で戦えるのか?
「無理だな。あのくそ国王の所為で胸糞が悪い」
俺を呼び出した国王。
バーデルハン11世の治める国はこの海の向こうで、俺が呼び出された当時から戦争をしていて、街に住む者は長く続く戦争の所為で疲弊しきっていた。
貧乏貴族が存在する酷い状態だったから、何も知らなかった俺は陣頭指揮官として何度か戦った事も有る。
多くの人を殺した。
この戦争の原因は魔族に有る。
魔族が存在する事で人々の心が荒み、争いを引き起こす。
そう教わったが、全ては嘘だと知った。
さっさと終わらせて帰りたいと思っていたのに、帰れると思った時からこの世界に未練が残った。
なにしろ、この世界は強者に甘過ぎる。
少し無理を言えば一日でハーレムは出来るし、貴族なんて偉そうな連中だって俺に頭を下げる。元居た世界じゃ有り得ない事だ。
人を助ければ涙を流して感謝されるし、気に食わない国なら壊してしまえば良い。
なんとも無益無用なやり方をした事か。
戦いによって大人が死ねば、子供が残る。
生きて行く事の出来ない子供。
奴隷となって身体を売る子供。
孤児としてひもじくも耐える子供。
飢えて死ぬ子供。
それを見るだけで辛い。
俺の所為でも有るし、俺だから助けられる事も有る。
だから俺は―――
「うそでしょ、なんで攻撃が一発も当たらないのよっ」
ハンデとして素手ではありますが、お嬢様はまるで見切っているかのように全てを躱していきます。うーん、素晴らしい。
あれ程の目ならスロットでビタ止めできますね。
この世界にスロットは有りませんけど。
「先生よりおっそ―い」
「ぐぬぬ……って、私が教わればもっと速くなれるって事よね?」
「それに気が付けるのなら切っ掛けは掴んだも同然です」
「私のターンよっ」
お嬢様が攻撃を仕掛けます。
もちろんですが、カスリもしません。
「ちょっ、はやっ」
今度は攻撃と回避を同時にやり始めました。
これはお嬢様に不利ですが、流石はSランクです。
直ぐに気が付くとは。
簡単に言えばカウンター狙いです。
「うぶしっ」
「いぎぃっ」
おおー。
これは見事なクロスカウンターが決まったー。
そしてお嬢様が崩れ落ちました。
なぜ負けたのかは、腕の長さが違うからです。
「ピンス、やってください」
「あ、はい~」
一発で泡を吹いて倒れたお嬢様がピンスの治癒魔法で目を覚ましました。
「くやしいよぉぉぉおおおっ」
凄い、涙が噴水のように出ています。
これにはリッカーも焦っています。
「うわーーーーんっ」
子供相手に一瞬でも本気になってしまった事に罪悪感を感じさせる作戦。
見事ですお嬢様。
「ちょっと、そんなに泣かないでよ、後でリンゴジュース奢ってあげるから」
「うわーーーん、アップルパイと、焼きリンゴと、リンゴのタルトもー!」
それは図々しいですお嬢様。
「わ、わかったかr……」
近寄る為に一歩踏み出そうとしたソノ時。
「……隙ありっ」
「あっ……」
涙が噴水のように出るなんてあり得ない事ぐらい気が付いても良いモノですが、見事に足が動いて地に片足が付いていない瞬間を狙いました。
一瞬でも片足になれば動きも反応も遅れます。
脇腹に拳があたって、リッカーが尻もちをついて倒れました。
痛みよりもプライドを刺激したようです。
「……やっ、やったわねー!」
「お嬢様、立派になりましたね」
「えっへん」
「もう手加減なしで行くわよっ」
「じゃー、補助魔法をもう一段階上げて」
「え、補助魔法かかってたの……?」
「当たり前じゃないですか、そもそも通常状態でどうやって貴女の攻撃を躱せると思っているのです。お嬢様かけますよー、ほほいのほいっ」
ほんのりと輝いたのは、強化の効力を高めた時のエフェクトですが、私もまだまだですね。これでは補助しているのがバレてしまいます。
「あれって3倍以上の速度が出てるわよね」
「鍛えたのよっ」
姿が消え、足音だけが響く。
実は反復横跳びしているだけで、全然前に進んでいませんが、リッカーには見えていないようです。対人戦特化の技術なんて冒険者には不要ですもんね。
「せ、ん、せ、い、と、め、て、た、す、け、て、と、ま、ら、な、い、の」
……まだ駄目でした。
※おまけ
「これって先生が凄いんじゃ…
「使いこなせなければ意味がないのが補助魔法です
「その為に特訓してるんだから
「さあ、リンゴ料理食べに行きましょうか
「わーい、やったったー
「……グリフォンの肉は?
「りんごー、リンゴー、あっぷるりんごー
「……(英語と日本語に聞こえるのは言語加護の所為です)
「先生?
「いえ、なんでもありません




