第061話 届かない
スケルトンは死んでいるが生きている。
そんな矛盾が成立するのは今の彼だけだ。
工房から冒険者ギルドまで、何人もの罪のない人を弾き飛ばしながらも、やっとたどり着いた先には、ボロボロになった訓練場と、それを見学する野次馬達であった。
「なんだこれは」
「おい、見学なら後ろに行け」
「あの子供スゲーぞ」
「それよりもそのスゲー子供を手玉に取ってる先生もとんでもねーな」
「あー、俺も教わりてぇよなあー」
同意するむさくるしい男どもを放置し、鑑定を仕掛ける。
「弾かれた……やっぱりマリア先生だ。でも、あの姿は何だ?」
アイシャが魔王の娘なのは知っているが会ったことは無く、そのアイシャの母親にそっくりな姿なのだが、もちろんヴァルドは知らない。
「お嬢様、中止です」
3倍の速さで移動している私の両肩をがっちり掴まれた。
やっぱり先生はまだ手を抜いているんだ……。
「……先生?」
「来ました、ギデオンです」
「えっ、そんな、いきなり?!」
「その前に、面倒なのも来ましたね」
やっと追いついたピンスとギデオンはヴァルドに問う。
「ねー、あれなの?」
「うっ、なんだよ、見ただけでとんでもない奴がいるな」
勇者の勘は失われたが、危険察知の能力はそれほど下がっていない。
身体に染み付いた特殊技能は自然に発揮されるのだ。
「えー、あっ、あー!!」
ピンスがギデオンの背中を力任せに何度も叩く。
「イタイイタイ、なんだ、なんだよ?」
「あれ、私のママだ!」
ピンスは左右から訝しげな眼で見詰められたが、全く気にせず、野次馬の背に乗って、その頭を踏み、一気に飛び込んでいった。
「私のママあああああああa……むべっ」
目前で地面に叩き付けられている。
「何コイツ」
「えーっと、多分、ハニエルの所為で犠牲になった人のハズです」
ハニエルを無理に聖女にした事で、本当に存在していた聖女に悪影響が出たのだが、むしろそれを喜んでいるように見える。
「じゃあ、これが聖女なの?」
「ぶっぶー、違いますー、私は、ニ・セ・モ・ノ、なの!」
叩き付けられた筈だが、元気に立ち上がって否定した。
「くそバ神の弊害です」
ギデオンの耳に届いた彼女の言葉に妙な親近感を覚える。
とりあえず邪魔だから左右に転がすか。
「うわっ」
「うぇっ」
「んぐっ」
「むべっ」
などの声が聞こえ、野次馬の半数が左右に倒れ、ギデオンが前に進めば、そのままあの二人の前まで進む。ヴァルドも少し慎重になったのは、ピンスの反応がいつも以上おかしいからだ。
「可笑しかったら笑いましょう」
「あーっはっはっはー」
なんでピンスが笑うんだ。
というか、心を読まれたのか……?
「マリア先生ですよね?」
「久しぶりですね、ヴァルド」
お嬢様が私にしがみ付きました。
ちょっと、鍛え過ぎましたか。
腕が引き千切れそうにぎゅうぎゅうされています。
「やっぱり、先生だ。このギデオンがしr……んべっ」
せ、先生が怖い。
眼力が凄すぎて、この真ん中に立つギデオン以外は恐怖に震えている。
後からやって来た他の冒険者達も、一部が逃げた。
「うわー、ゾクゾクする……こんなに気持ちいいの久しぶりっ」
なんか変な奴が増えたんだけど。
怯えるどころか嬉々として近寄ってきた女性は先生よりも背が高くて、とても強そうに見える。あ、先生より強そうには見えないよ。うん。
「リッカーはその戦闘狂っぽいセリフやめてくれ」
「ギデオンよりはマシよ」
次々と現れるSランクの冒険者にマリアは少し困惑していた。
そもそも、一つの街になんでこんなにSランクが居るのか。
戦争でも始まるのではないかという予感は、珍しく外れていた。街の存在は知っていても、情勢には詳しくなく、今は偶然で集まっているにすぎない事も、普通に考えればすごい奇跡なのだから。
そして、マリアは忘れてはいけない最優先の事を行った。
「ヴァルドは後でお話があります。今は口を開く事を、硬く、堅く、固く、かたーーく、禁じますね」
あの恐ろしいドラゴン族が首を縦に振って黙った。
それだけでギデオンは背筋にイヤーな汗が流れるのを感じたのだった。
「えーっと、色々と突っ込みたい事が過積載でオーバーフローしていますが、貴女は私をママと呼ばないように」
「えー……んべっ」
「なっ、んべっ」
……私じゃないですよ。
あっち、あっち。
「うるさい奴は転がしておけばいい」
巻き込んでますが?
「それは同意しますが……私に用ですか?」
「いや、そこのバカドラゴンが勝手に走り出したから追いかけて来ただけだ。むしろそっちの子供の方が興味あるな」
転んで鼻をぶつけても、すぐに立ち上がった女性が言った。
「ロリコn……がふっ」
女性が転ぶ姿は何度も見たいものではありませんね。
あ、今度は私です。
「あんたスゲーな、これでもSランクなのに、さらっと転がすなんて」
「いえいえ、隙がありましたので」
なんで転がされただけで私を見る目がキラキラしているんです。
止めてください。
お嬢様の嫉妬の炎がメラメラ過ぎてちょっと熱いです。
「それより、その子供がグリフォンを一撃で倒したんだろ?」
「そーよっ!」ドャァ
ドヤ顔するのは構わないんですけど、私にしがみ付くのをやめていただけませんか。
「見た目だと分からないもんだな、せいぜいCランクぐらいかと思ったが」
「Cランクだけど?」
ここに来るまでにいくつかの依頼も達成してランクも上がってます。
私は何もしてませんので変わりませんが。
周囲からはドヨメキの声が……。
「お嬢様、驚かれてますよ」
「え、私凄い?」
「凄い、凄い。妹にしt…んっ?!」
ギデオンに転がされそうになりましたが耐えました。
このリッカーって女性なんか見た目が変なんですよ。
細身で綺麗な肌をしているのに、Sランクとは思えないんですよね。
……ああ。
なるほど。
「また先生の知合い?」
「似てはいますが知り合いではありませんよ、ハーフの天使みたいですけど」
「ウッソ、なんで見ただけで分かるのよ。鑑定されてないのに……」
「貴女の肌が綺麗過ぎるんですよ……痛い」
なんてお嬢様に抓られたんですか。
安心してください、お嬢様が一番可愛いですよ。
「まあ、天使にも悪魔にも会ってますので」
「サンタヘルのお話?」
「そうです」
リッカーが驚いている。
天使なら知っていても不思議ではない話ですしね。
しかし、関係の無い人が多過ぎて話が全く進みません。
「お前ら一体何者なんだ?」
「やっと訊いて頂けましたね、ですがお答えは出来ません」
「んー、なんとなく感じるモノはあるんだが、俺と同じ様な気がする」
「あんたなんかと先生が同じなワケないでしょ」
ギデオンが腕を組んで考えている。
「まあ、共通点と言えば転移者って事でしょうね」
「……なんだと、マジかー、そうかー……」
「え、なにそれ、狡い!」
「狡いと言われましても……」
「おれ、山本修一って言うけど、あんたは?」
「薄田真理亜です」
「マリアって本名だったのか?」
「まあ、ぎりぎりキラキラネーム一歩手前ですけど」
「俺は普通過ぎるんだよなあ・・・」
「普通で良いじゃないですか」
二人で訳の分からない会話していて、私どころか他の人達も会話に入れない。
テレビとか漫画とか、なんの話よ、ずるい、狡い!!
「なんか久しぶりに聴いた懐かしい話だな。しかし、なんであんたは帰らないんだ?」
「私は死んでいるので無理です」
この世界にやってきて殺され、呪いによって生き続けさせられている存在。
普通に考えれば不幸なんですよね。
私はこれでも楽しんでいますけど。
「そ、そうなのか。なんか変なコト訊いて悪いな」
気を使われましたが、死んでいると言ったのに何の疑問も持たれていないのですね。
「死んでるんじゃ困る事もあまりなさそうだが、何か手伝えることが有ったら……」
「ではお嬢様と戦ってください」
「えっ、え、えー?!」
お嬢様が驚いてどうするんですか。
格上相手の対処法は教えたので負けることは無いですよ。
……多分。
「驚いてるが、本当にやるのか?」
「ギルドには許可を取りましたので、死んでしまっても問題ありません」
さらっと許可証を見せる。
基本的に決闘は認められておらず、これが無いと犯罪者になってしまうからだ。
「本気かー……」
「ねぇ、あなた、本気なの?」
リッカーが凄く心配そうな目で見詰めてきましたが、お嬢様は頷きました。
手も足も震えていますけど。
ギデオン……まあそう呼んで良いですよね。
いちいち本名も面倒ですし。
「なら、お互い鑑定しても良いよな」
「戦闘中にされても困りますし、今なら。ただし、他言無用です」
※今日の魔王城
シェリィ 「なんか疲れたわね
スケルトンA「お茶にしますか?
ホゥディ 「僕おやつ食べたい
スケルトンB「すぐによーいしまーす
レノア 「なんでここの骨ってこんなに働くのかしら?
シェリィ 「マリア先生が教育したからだと思います
スケルトンA「労働の喜びを感じます
スケルトンC「働いて、働いて、働いて……する事が無いと困るんです
スケルトンB「はいっ、ホットケーキです
ホゥディ 「やったー
レノア 「私の分が無い……




