第60話 まだ早かった
ギルドで保有する訓練場を借りて、今日の先生は教鞭モード。
黒板にチョークでいろいろ書き込んでいる。
カツッカツッって音を聞くと緊張するのは私だけかな。
「はいっ、今日は補助魔法について、です」
そして解説が始まった。
「先ずは大事な大事なアタックチャンス。敵に対して先制を取るにはとにかく速い事です。相手より早く動くのも大事ですが、速ければ何とでもなります。補助魔法は自分より格上と戦う場合に必要になる魔法ですが、中らなければどうとでもなります」
敏捷というのはステータスにも有るが、人である以上限界がある。人を超える速さを身に付けるのは不可能。回避や見切りなどの特殊技能を持っていれば違うやり方も有るが、今のアイシャには無い。
名前 アイシャ・ブイルダン 性別 女 年齢 11 種族 魔族
職業 魔操師 Lv 27 筋力 21 魔力 67 敏捷 19 魅力 88
HP 193 MP 634
所持 ミスリル製の釣竿
特殊技能 進化の女神と契約 魔力の紋章 鑑定Lv2 父親の記憶
名前 マリア・薄田 性別 女 年齢不明 種族普人 職業教育係
Lv 137 筋力 5 魔力 901 敏捷 23 魅力 300
HP 256 MP 8502
所持 魔力核(体内) 魔法袋
特殊技能 技能神と契約 不死の呪い 魔女の知識 異世界転移
鑑定LV3 受肉 自動修復 聖母
「今のステータスですが、私も敏捷はそれほど高くありません。ですが、お嬢様の全力の攻撃を確実に避けれます。それには経験が大事です」
「それってふつーの事じゃないの?」
「はい。ふつーの事です。ですが、その普通が出来る人は殆どいません」
「……なんで?」
「では、今お嬢様に敏捷を3倍にする補助魔法を掛けます」
先生が指をくるくるすると、私の身体がほんのり熱くなった。
「……走って良い?」
「どうぞ」
おー、凄い、ハヤイハヤイ。
まっすぐ走って……か、壁?!
「マッ、曲がれない、止まれなーーーい?!?!」
私は壁に激突し、そのまま突き破ってやっと止まった。
というのは、先生に助けて貰って知った事実である。
「ナニコレ、早過ぎて周りも見えない」
「当然です。自分の速さに身体も目も慣れていなければこのようになります」
怪我をしていないのは先生の治癒魔法のおかげらしいけど、聖母に成ったので問題なく使えるようになったんだって。
今度は先生が補助魔法を自分に掛ける。
「よーく見ててくださいね」
足音だけがして先生の姿が見えない。
速い、速すぎる……。
「これが、身体が慣れるという事です。次に……」
ピコッ☆
「うにゃっ?!」
変な声が出ちゃった。
何今の……、しかも先生、何処?
「い、い、で、す、か。ど、ん、な、に、は、や、く、て、も、あ、た、ら、な、け、れ、ば、い、み、が、な、い、の、です」
一音ずつ移動しているようで、先生の声だけがあちこちから聞こえてくる。
右から、左から、後ろから、上から……。
ぴこっ☆
何かで叩かれたけど痛くない。
そして、先生が目の前に現れた。
手にはピンク色の変わったハンマーみたいなモノを持っている。
「叩くと音が鳴るピコピコハンマーです。暫くはこれで訓練します。理想を言えば動く私に当たる程度にはなって欲しいのですが……。そもそも、強制的に敏捷3倍とかやって、まともに動ける筈が無いんですよ、お嬢様のようにどこかにぶつかって自滅するのがオチです」
「……これが出来るようになれば、勇者からの攻撃も避けれるって事よね?」
「はい。ですが、勇者なら当然のように出来ると思いますけど」
「き、気合でやらないと……」
マリア先生が嬉しそうにニコニコしている。
もちろん、強くなれるんだったら魔物と戦うよりも修行の方が気が楽だ。
だけど、先生の教え方は優しいけど、内容は厳しい。
3倍の速さで移動して、3倍の速さで回避する相手に、攻撃を当てる。
これは7日前の話で、今も私は習得できない日々を過ごしている……。
ギルド内に響き渡るほどの大きな声は、その報告の内容がみんなが待ち望んでいた者だったからである。
「ギデオンが来たぞぉぉぉぉぉおおおお!!」
ギデオンが来る。
それは待ち望んでいた筈なのに、先生の表情は厳しい。
今の私が戦いを挑めば、負けるのは間違いない。
だけど、挑まなければならない……。
「あー、助かったよ、せっかくの素材が無駄にならなくて済んだ」
グリフォンは商業ギルドと冒険者ギルドのそれぞれに有る解体所に預け、レッドカラーのドラゴンはこの街に有る数少ない工房ギルドに届けた。
本来は武具を作る所だが、素材に必要なモノを加工したり解体するのも彼らの仕事の一つである。工房の人達の、届けられたドラゴンを見た時の驚きと興奮は凄いモノが有って、その日から数日間は徹夜で作業を続ける事に成った。
「早くギルドに行きたいんだが……ギルバードは何の用だ?」
「公爵様の召喚だ」
「後にしろ」
「分かった、後だな?」
ギデオンは一礼して去ってしまったのを止める事が出来なかった。
「アイツ、なかなか凄いな」
ヴァルドが純粋に感心している。
ピンスもなにか感じたのは聖女の勘だろうな。
「ギルバードはなかなか手強いぞ。王国から派遣されてきただけの男だと思っていたが、経験でしか得られない観察眼が凄い」
「まあ……無視しても良いんだけどな」
それが出来るのはギデオンだけだと言うのを止めて、違う事を思い出して問う。
「そーいや、グリフォンを一撃で倒した女の子がこの街に居るらしいんだが」
「一撃?俺達からすればそんなに驚かないが、女の子って見た目だけでエルフとか長命種族なだけじゃないのか」
「ギルバードから聞いた話なんだが……」
鑑定を弾き、リンゴを好み、Aランクを拳一発で倒し、先生に鍛えられていて、今も訓練場に居て特訓を続けている。
そして、その先生の方が恐ろしい。
「先生とは、子供を連れて旅をするものなのか?」
「そんな訳ないだろう、学校が在るのくらい知ってるだろ」
「なあ、その先生ってどんな人だ?」
ヴァルドが妙な興味を示したことで、リッカーが笑った。
彼女は数少ない女性のSランクでこの街にもう一人居る事を知って直ぐに見に行っていたのだ。
「Sランクって話だからどんな女かって思ったけど、女の私から見ても凄い美人だったよ。ちょっと惚れちゃいそうなくらいね」
ヴァルドが溜息を吐いたのは予想と違ったからであるが、そもそも彼の予想は人ではない。ローブを纏ったスケルトンで、こんな場所に居る筈が無い。
だが、諦め半分で訪ねる。
「名前は?」
「ギルドで教えて貰った名前だけどマリア・ナントカって人」
ナントカって言ったのは薄田が読めなかったのであって、この世界では珍しい文字である。
ヴァルドが急に無言になった。
聞き覚えのある名前で、しかも、マリアという名前は珍しくない。特に貴族には多いのだ。だが、先生と呼ばれているマリアは他の誰も知らない。
「お、おい、どうした?」
「多分、いや、間違いなく先生だ。生きていたんだ!」
※今日の魔王城
シェリィ「子供って成長が凄いのね
レノア 「この子が特別だと思いますよ
ホゥディ「見て見て、岩を壊したよー!
レノア 「……部下にしたい




