第058話 城ではなく、あくまで屋敷
すでに用意されていた馬車に乗って私とお嬢様はお屋敷にやってきました。
何故お屋敷なのか。
国王ではなく、公爵の館だからです。
バロイドロス公爵家は数千年の歴史があるそうですが、名前は知りません。
もちろん知り合いでもありませんし、生徒にも居ません。
「ほんとにー?」
「ホントデス」ウンウン
先生が弱気なのでもう少し問い詰めたいけど、馬車のドアが開いたのでやめた。
「どうぞこちらに……」
綺麗なメイドさんが現れて私達を屋敷に案内する。
先ほどの騎士はいない。
暗いので周囲はぼんやりとしか見えないが、綺麗に整えられていそうな庭園が見える。その横の長い通路を数分移動すると、大きな屋敷の入り口の扉が開く。
その開いたところに副団長が立っていた。
「バロイドロス公爵閣下、マリアなる者を連れてまいりました」
部屋の壁際には騎士が何人も立っているが、もう一人の子供の方には注目しない。
全ての視線はマリアに注がれている。
「貴姉がマリアであり、宮廷魔術指導員を持っている者で間違いないな」
「……はい」
ヤバい、これはヤバいです。
貴姉なんて呼ばれるのは、記憶の片隅の深淵の残滓より小さい記憶なんですけど。
「王宮図書の禁書には貴姉の記述が有るのだが、本人で間違いないか?」
「……流石にそれは、実物を見ないとなんとも言えませんが」
「ふむ。では王宮に来てもらえるかな?」
「嫌です」
「私の願いでも聞き入れてもらえないかな?」
先生がながーーい溜息を吐いた。
なんかもう、見慣れたんだよね。
「私には明確な目的がありまして、その用事を済ませるまでは旅を続けるつもりです。今回は王宮、カイセール王国には用がありません。ですのでお断りさせていただきます」
「我々にしても大事な用なのだが」
「それはそちらの都合です。私には私の使命と都合が有ります」
副騎士団長が私をじっと見つめていて、鑑定するような……。
もちろん弾きました。
ぺっぺっ。
「今はお嬢様のお世話と教育、他に優先するモノは有りません」
ここで初めてお嬢様に視線を向けました。
あの事件を知っているのなら、副団長も知っているはずです。
「確かなのか、そちらのお嬢さんが……」
「はい、報告通りでしたら、グリフォンを倒したのはこちらの子供になります」
「私を鑑定したようですが、これ以上私達に干渉するのでしたら敵になりますがよろしいですか?」
お嬢様の鑑定ももちろん弾きます。
ぺっぺっ。
何しろ立場がココでバレると大変な事になるのが容易に予想できてしまうからです。
ココはお嬢様を守る為に、私が犠牲になるべきですね。
……原因は私なんですよね。
……。
「え、先生?!」
先生が明確に敵意を持ったのを初めて見たかも。
うっそ、なにこれ、ちょーこわいんですけど!!
先生が指をパチンと鳴らすと、周りの騎士達が全員転んだ。
「も、目的が終われば協力してもらえないか?」
なかなか引き下がりませんね。
「なぜ、そこまで私に関わりたいのか理由を」
公爵様が悩んでいるようです。
言えないようなら人払いすれば良いじゃないですか。
「魔王を打倒した勇者を利用して戦争を再開させるとの噂が有って、その対処にどうしても魔導士の再教育を行いたいのだ。だが今の国に優秀な指導者がおらんでな、先生のような人に指導をお願いしたく……」
また先生認定されましたけど、ギデオンの動向が探れない今はこの街から離れられないのです。しかも、噂ですか!!
たかが噂で私を巻き込んで欲しくは無いですね。
……ま、噂じゃない可能性も否定しませんけど。
「魔導士の再教育と言うからには、防衛前提の組込系結界魔法ですか」
「流石にご存知か、あの勇者に対抗するには戦うよりも防衛に徹するのが最善だ」
「もしも勇者と戦うとなれば無意味ですけどね。時間稼ぎにもなりません。勇者がどうして強いのか、その事について知らないのであれば、一から勉強しなおす事をお勧めします……。ですが、目的を終えた勇者がいつまで勇者を続けられるのか、疑問は残りますけどね」
「どういう意味か?」
先生がまたクソデカ溜息を吐き出した。
「勇者はこの世界にたった一人だけ、しかも称号ではなく職業として扱われています。その理由についてはまだ研究中ですが、教会で行われる職業の儀でも現れませんし、無理矢理変更する事も出来ません。唯一、神のみが勇者に転職させる事が可能なのです。過去に現れた勇者は転生、もしくは異世界より召喚されたモノです」
なんで先生はそんなに詳しいの……。
研究中って。
「そもそも、防衛するっていう考えが甘いのです。魔王にですら勝てないあなた達が、それもにわか仕込みの魔法で防衛なんて不可能ですよ」
「貴姉はどうなのだ、対処法は無いのか?」
「世界最高レベルの結界で動きを封じ、24時間絶えず呪詛を放ち、魂の復元を行わなせないという条件が満たされれば倒せますよ」
公爵様が無言になりました。
私の言葉を信じるかどうか悩んでいるようですが、勇者を戦争に利用しようとする国が騙されたと知った勇者によってどうなるのか、助かる理由がないのですがね。
……あぁ、そうでした。
「今は行方不明の勇者ですが、現れた時にどうなっているが凄く気に成りますね」
「ギルドでも行方不明と言って情報が全くない」
「この街に現れると予想はしていますが、もしも飛行する事が可能なら、気が付いた時には国が滅んでいるかもしれません」
とんでもなく話が飛躍し過ぎている。
気が付いたら国が亡びるとはどういうところからの発想なのか。
「だから言っているじゃありませんか、勇者を利用するような国王がまともな人だと思っているのですか」
召喚魔法によって転移者を喚ぶのはどの国でも一度は行われていて、殆どの場合、勇者以外が現れる事で失敗している。
この国も例外に漏れる事無く、マリアは国王とそのやり方を批判したのだ。
一度は転がされた兵士達が再びアイシャ達を囲んだが、怖くて近寄れず、副団長も見ているのが限界だ。
転がらなかっただけで流石ともいえる。
「勇者召喚なんてものに頼るとどうなるのか、過去の歴史を禁書で学んできてくださいね。ではお嬢様、帰りましょう……って、いつの間に」
ずっと静かだと思ったら、しっかりジュースとケーキを貰って食べていました。
それで副団長が睨みを利かせていたのですか、この副団長有能過ぎませんか。
「あ、ちゃんとおかわりも貰ったから満足したし、先生が帰るって言うのなら」
椅子から離れるとケーキを運んできてくれたメイドと副団長にお礼と笑顔を向けた。
いい子ですね。
「これはお代です」
先生が袋からコインを一枚取り出し、副団長に向けてそのコインを指で弾いた。
それを素手でキャッチしたのを見てにっこり。
そのコインを見た副団長がビックリ。
「こ、これは……こここここ、古代金貨?!」
満足したので先生にぴったりくっついて部屋を出る。
というか、先生が私を引き寄せてきたからなんだけど、その時の先生の表情は、なんと表現したら良いのか分からない、初めて見る表情だった。
※おまけ
公爵 「確かに古代金貨だな
副団長「これの価値はとんでもないのですが……
公爵 「手切れ金という事か、関わるなって事だろう……
副団長「それにしても、まるで銀貨を扱うような感じで投げられたのですが
公爵 「それだけあのマリアという女性に守りたい者が有る。と……
副団長「あのお嬢様と言われた子供も気に成ります
公爵 「鑑定は?
副団長「弾かれましたので全く分かりません
公爵 「弾かれただと?!
副団長「少なくとも私の能力ではどうあがいても勝てません
公爵 「調査が必要と思うが、お前の意見は?
副団長「勇者よりも危険と判断します
■:組込系結界魔法
一人ではなく複数人によって組み込んで作り上げる結界魔法
より強力になるが、時間が掛かる




