第057話 話題の人
数時間後、夕方になっても親グリフォンは現れず、避難は解除された。
死んだふりをしていたグリフォンは、今度こそ間違いなく死んでいて、何故擬態をしていたのか調査される事になったが、それは私達の仕事じゃない。
臨時とはいえ、深夜でも旅人や冒険者は安全を求めて街に来るので、24時間体制で活動する兵士達は3交代で門を守っている。
その兵士からは私達への質問というより、詰問に近い口調で、何度も問い質されたが、先生のギルドカードを見せて解決したのだった。
「私の生徒ですし、秘密の特訓をしていますので」
内容は明かせない事を告げても、それ以上の質問は無くなった。
門兵士隊の隊長も驚きを隠さないまま、通行許可を承認している。
「本当にあのグリフォンは我々の管理で良いんだな?」
「お肉さえ頂ければ」
「……承知した。明日の昼までにはギルドに届けさせる」
グリフォンをあっさり倒したとなれば、依頼はなくとも昇格するかもしれない。
Aランクの方は事件の規模を考えれば降格の可能性も有る。先生が軽くあしらった事で、処分が軽くなる可能性と、素材をギルドに持ち込むのではなく兵士隊に渡す事で恩も売れる。
実はこれが一番大きい。
ランクが下がるのは冒険者としては評判がかなり悪くなるし、信用としては地に落ちる。次の依頼だって受けられなくなる可能性も有れば、この街から追い出されたも同然なのだから。
先生とグリフォンの特長についての話をしながらギルドを目指す私達は、意外にも目立たなかったのは、辺りが暗く、篝火の多い大通りを歩いていたからだろう。
「こんなに治安の良い街は珍しいです。ココの貴族様はなかなかの信用がある人物なんでしょうね」
知らない人だったら話せないような内容でも、私となら軽い口調で話してくれる。貴族の批評なんて、冒険者なら絶対に口外しない言葉なのだ。
「お店もいっぱいあるし、しばらく滞在するの?」
「グリフォンを倒してしまいましたから、数日は拘束されるでしょう。まあ、いつでも逃げれますので問題は有りません」
先生の言葉は本当に安心感がある。
ついつい油断してしまうのもその所為だと言いたいけど、言ったら怒られるのは分かっているので、口を一文字にしておく。
すぐに丸くなった。
「リンゴジュース売ってる……」
「残りも少なくなってますし、買っても良いですよ」
「やったったー」
スッと現れた黒い影が三つ。
私の後方を囲むように立ちました。
逃げられないようにする為なのは分かりますが、隙が多過ぎですね。
買い物に夢中で気が付かないお嬢様にも困りますが……。
まあ、転がしておきますか。
「んっむべっ?!」
「お、おい、どうした?」
「足が急にふらついて……」
「あ、あれ……いないぞ」
お嬢様を抱えて、ジュースは袋の中に入れまして、と。
んー……え、なんで王宮騎士が?
「な、なんなん、どーしたのよ、先生?」
「良く分かりませんが、王宮騎士が私に用があるようですね……」
ハテ?
Sランクだからと言って、いきなり王宮に招かれるような事はしていませんし、グリフォン程度なら倒せる者もそれなりに居る筈ですし……。
「とりあえずギルドの方が安全そうなので、宿はやめてギルドに宿泊しましょう」
「先生がそれで良いのなら」
ハヤイハヤイ、早過ぎる。人混みの中で私を抱えているのに、先生が足音も立てずに凄いスピードで移動している。
あ、あの……目が……回るぅ~……。
「ふにゃぁ……」
「あっ……お嬢様……」アチャー
ギルドに到着し、お嬢様を椅子に……と。
リンゴジュースと、ケーキで誤魔化しておきましょう。
これで良し。
ふー……なんで睨まれてるんです、私は。
大男が私に向かってノシノシと近寄ってきます。
「おい、てめー俺を突き飛ばしておいてそんなガキ相手に何やってんだ!」
「ああ、そうでしたか、済みませんね」
急に忙しくなった気がします。
王宮から狙われる理由が分かりません……。
「それだけ……って、すげー美人だな、こいつ」
「おい、ガキなんかほっといてこっちで酒を注げよ」
「今忙し……い?」
なんでこの規模の街のギルドでこんな輩が。
しかも二人。
あれ、ここギルドですよね?
依頼書の掲示板もありますし、受付カウンターもありますし、なんであの人達は目を逸らしたんですか。周囲を見渡しても人は多いのにこちらを見ません。
「お堅いSランク様はいないぜ、グリフォンの討伐で忙しいからな」
「それで暇なAランクが居るのですね」
なるほど、目の上のタンコブがいないから、ギルド内で威張り腐ってるのですか。
怒鳴ってきましたが無視。
ギルド長も居ないようですし、昼間のアレはグリフォンが現れて討伐から帰ってきた第一陣と言うトコロですかね。
丁度、私の横を通り過ぎようとしたギルド員が居るのでキャッチ。
「ヒィィィ」
なんで悲鳴を。
「ココはギルドで間違いないですよね?」
「そ、そうですけど、何か御用で?」
怯えてるんですが。
「なら、ギルド内でこーゆー事をする輩を取り締まって欲しいのですが」
「えっと…その……」
歯切れが悪いですね。
「その、お方は貴族様でして、冒険者としても活躍してらっしゃいます。ので…えと、街の英雄であるお方を……」
「そうだよなあ!」
「世間知らずの女には教えてやらねぇとな」
汚い笑い声です。
これが貴族様ですか。
んー……お嬢様に見せたくはありませんね。
「どうしたら黙りますか」
「は?」
「どうしたら黙るのか訊いているのです」
ニヤッとした笑いが気持ち悪いです。
ギルド員が逃げようとしていますが逃がしませんし、事後処理させますからね。
テーブルを叩いて顔を近づけて来ました。
そしてガラスの割れる音が。
あっ?!
「俺に逆らうと面倒な事に成るぞ、その綺麗な身体で、相手しt……ぐふっ」
大男が顔面に痕が残るくらいの拳の後を付けて倒れました。
えー、っと、なんか怒ってます。
分かり易いくらい、分かり易いです。
「に、兄ちゃん!?」
「私のケーキとジュースが、床に落ちたじゃないの!」
止めたいけど止められません。
というか、手遅れです。
あーあ……。
「このぶっさいくな奴さっさと片付けてくれる?」
周りがザワついています。
子供が大男を一撃で倒したら、それはもう、びっくりしますよね。
「このガキ、何しやがった?!」
「私のケーキとジュース、弁償しなさい!」
もう一発、拳が繰り出されようとしていますが、流石に止めます。
彼らの後ろからもっと面倒な人達が現れましたので。
「なんでこんな時間に騎士団の方達が…?」
腕を掴んで逃がさないようにしているギルド員が驚いています。
騎士団?
「あの人達は?」
「え、手を放して欲しいのですけど」
「答えたら離します」
「騎士団の副団長様です」
手を離すと逃げるようにカウンターに走って行きました。
仕方ありません。
ココは逃げて街の外に……。
「あんたがマリアだな」
「そうですが、何故私ですか?」
「私は副団長のギルバードだ。是非、お屋敷に来て欲しい」
殴られる寸前だった貴族の男が驚いて逃げました。
お嬢様が激おこプンプンですが、ココは応じます。
「嫌です」
お嬢様用に用意したケーキとジュースは床に食べられてしまいましたので、それを片付けたら、部屋でまたご用意しましょう。
とりあえず機嫌が悪いのは変わりませんが、椅子に座ってくれました。
ふー。
「別に片付けるトコロを見られても困るのですけど」
「あ、嫌って、なんだ。断るのか?」
「私は用がありません」
副団長は困った様子でこちらを見詰めています。
先ほどの輩と比べたら何万倍もマシな、綺麗な瞳をしていました。
「ギルドカードに宮廷魔術指導員ってあるよな」
「それがどうしました?」
「その資格を冒険者で持っている奴は何百年も前の事なんだが、それを確認したい」
……。
そっちですか、また私のやらかしですか、お嬢様に頭が上がりません。
どうしましょうか……。
え、宮廷魔術指導員って、あ、あー。
アハハ。
はぁ……思い出しました。
「良いよ、先生。何か思い出したんでしょ」
遂にお嬢様に見抜かれるようになりました。
子供の成長って早いんですよね。
「そちらのお嬢さんにはケーキとジュースを用意しよう」
「先生、行こ」
やられました。
「……ハイ」
なんて観察眼のある副団長でしょうか。
私の逃げ道を一瞬で埋めるとは、侮れませんね……。
こうして私達は、ギルドに居る人達から興味と好奇の目で見詰められながら、ギルドで何もする事なく外へ出ました。
はぁ……。
※追加情報
■:パロメードの港町[カイセール王国]
貿易港として栄えた港町でカイセール王国所属のパロイドロス公爵家の領地
海を渡った先にはギデオンを召喚したラッセル王国が在る
ラッセル王国とカイセール王国は長い間敵は対していたが、ギデオンが召喚される数年前に停戦協定が結ばれている
■:パルキアの港町[ラッセル王国]
パロメードと競うように発展してきた港町で、軍港が有る
国王直轄地で長いこと軍に力を入れていたが、海戦で大敗北を喫して以降、戦力は急速に萎んでいて、防衛力に力を入れている
■:ギルバード
王宮騎士団の副団長。
団長はこの街には不在で、王宮が有るカイセールに居る。
公爵領地なので王宮は無いが、王国から派遣されているので王宮騎士団を名乗っている。
真面目な人。




