第056話 思えば遠くに
オガサンとボルディックの二人と別れてから数ヶ月。
幾つもの街を通り過ぎて、幾つもの山も越えて、気が付けば私の誕生日も過ぎていて、11歳の誕生日の日は先生と二人でリンゴジュースとアップルパイを食べた。
凄く嬉しかった。
でも、それ以上に不安が増えて行く。
「次の港町がギデオンの住む国に入国する為には必ず通ります」
「アイツらが先に行っている筈なのよね?」
「そうなんですけど、噂話も出てきませんよね。本当に行方不明になるなんて……」
ギデオンの行方は各地のギルドで捜索の手が広げられていて、未だに発見に至っていない。最後の情報は小さな町の小さなギルドからで、その報告通りなら、3人で旅をしているというのだが……。
「必ずここを通らなければ海を渡れない筈なんですよ、空を飛ぶ手段なんで、竜種でも仲間にしていなければ不可能ですし」
「ドラゴンを仲間にねぇ……」
二人は広く整備された街道を馬車にも乗らず、テクテクと歩いている。何度も馬車が行ったり来たりと、二人の横を通り過ぎているのは、街としての規模が巨大である事と、戦争を何度も経験している事で兵士の数も多い。
農場も牧場も巨大で、遠くまで見ても必ず何らかの建造物が見えた。
そして久しぶりに見る海が、アイシャの心を輝かせている。
見えるだけで、そこに辿り着くにはまだ数時間必要であったが。
「お嬢様もCランクになりましたし、ココのギルドなら色々と良い依頼も受けられそうですね」
「あと、教会と孤児院もたくさん在るわよね」
「そうですね、教えて貰っていましたので、気にして痕跡を見つける事は出来ましたが、そうでなければ気にする事でもないと思います」
それは今まで寄ってきた町の教会や孤児院に謎の支援が届けられているという事だ。宝石だったり金貨だったりで、それが魔王国の宝物庫の目録に合致する宝だから、すぐに気が付けたのだけど……。
「返せって言えない!」
それはお嬢様が魔王の娘である事を証明しなければならないし、奪われた事を説明しなければならない。それは面倒というだけではなく、お嬢様が命を狙われかねない。
「しかもさ、子供達が喜んでるのを見ちゃったからね……」
11歳なのでお嬢様もまだまだ子供なのですが、ボロボロの服を着て、味が薄くて具の少ないスープを飲んでいるのも知ってしまった。
アレが一日分の食事だなんて信じられない。
「親を亡くした子供の殆どは生きていく手段が有りませんから」
魔物に襲われていた町もあったし、野盗に占領されていた町もあった。
ただ、だいたい解決してる感じで、復興を手伝うくらいだったのが気に成る。
「多分、想像通りだと思いますが、いくら何でも移動した形跡が無いのでは辿れません。本当に空を飛んでいるとしか思えません」
「そこまでコソコソしている理由も解らないのよね」
うーんと考えながら歩いているお嬢様も、絵になります。
少し髪の毛も伸びて大人っぽくなりました。
うふふ。
しばらく歩き、巨大な正門の前は馬車等で渋滞していて、手続きに手間取っている。そちらは商人用なので、旅人や冒険者は別の窓口へ。
ギルドランクが高いと優先されるシステムを利用しようとしたが、こちらも混んでいた。それはAランクパーティが帰還していて、狩り獲って持ち運んできた魔物の素材が少し大きいからである。
「すごーい、これグリフォンよね。丸ごと持って来るなんて」
「えぇ、まだ成長していませんが、これなら羽根一つでも良い装飾品が作れます」
鑑定すると、確かに成体前なのが分かる。
生後半年じゃ成長しきってな……って。
「この街で鑑定はダメですよ。バレます」
「あ、最近ずっとやってたから癖になって、ごめんなさい」
そして兵士が私達に向かって飛んできました。
バレましたね。
「あんたか、今鑑定を使ったのは?」
「すみません、お気に障りましたか」
対応するのは先生で、どう見ても私が使ったようには見えない。
見た目で判断してはいけないという良い例である。
ごめん、先生。
「旅の商人には見えないが……鑑定したのなら成体かどうかわかるか?」
「死体でしたら、年齢は不明になりますので」
「そっかー、そうだよなあ」
お嬢様に袖を引っ張られました。
え、あ、これは拙いです。
「このグリフォン、生きてますね」
先生がそう言うと、今まで擬態をしていたのか、急に動き出した。
気が狂いそうなほどの高音の鳴き声が周囲に響くと、旅人や冒険者、商人達の悲鳴も広がり、兵士が殺到してくる。
「逃げますよ」
「うん」
先生が素早く私の腰に手をまわし、慌てる事無く私を持って浮くように逃げた。その開いた空間に、兵士と、冒険者らしき者が同時に突撃した。
だが、剣は空を切り、グリフォンは完全に飛び上がってしまった。
「お前ら何やってんだ、生死ぐらいちゃんと確認しろっ」
「知るか、Aランク初の獲物だぞ、擬態するなんて聞いてない」
二人は口喧嘩しながらも宙に浮くグリフォンに跳び上がって追いかけ、剣を突き刺した。
「早い、良い動きですね」
先生は私に見えるように向きを変え、空を見上げた。
空中で何度も剣を振って追い詰めているが、先生の見立ては違う。
「誘い込まれてます」
翼を大きく広げたグリフォンが、風魔法で突風を発生させると、兵士と冒険者が地面に叩き付けられた。また大きな啼き声が響き渡る。
「ねぇ、先生、あの啼き声は……」
「親を呼んでますね」
一般兵はそれだけで怯えているし、少し腕に自信のありそうな冒険者達も逃げ腰だ。たった今、目の前で兵士とAランクが地面に叩きつけられたのを見たからだ。
この街の規模ならSらランクが存在していても不思議では無いが、気が付いてここにやって来るまでに犠牲者が出ないとは限らない。
僅かでも時間を稼いだことで、弩砲隊が城壁の上からグリフォンを狙って矢を放った。命中さえすればかなりのダメージになるであろうその矢は、グリフォンに届く前に失速し、地面に落ちた。
「流石にグリフォンの魔障壁は貫けませんね」
先生が私を見た。
「久しぶりの選択です。助けますか?」
規模の大きい街なら、冒険者も兵士も多いし、斃せなくとも撃退は出来るだろう。ただ、それまでに被害は大きくなり、街への侵入を許せば、まだ何も知らない街の人々にも被害は出るだろう。
って言うか、凄く軽く言うけど、先生は私が勝つと思ってるって事よね?
「もちろん、やるわ!!」
先生がにっこりと微笑んだ。
「では空中戦ですが、今回は補助をします。魔法の威力は下がりますが身体が軽くなりますよ」
それは先生の魔法による小さな結界の有る浮遊魔法で、ただ身体が軽くなるのではなく、全身の動きにも速さが増すモノだった。
だが、遠くから私達の姿に気が付いた人は、女性二人が魔物に怯えて、子供を守るように姉が防御魔法で震える妹を抱きかかえているように見えたのかもしれない。
「おい、早く逃げr……」
次の瞬間、私の身体が宙に浮いた。ただ浮いたんじゃなく、飛び上がるように、グリフォンに向かって一直線に。先生の魔法は私の魔法の威力を下げる。それは魔法攻撃をしない事を意味する。
なので、これが先生からの問題の答え。
ミスリルの釣り竿を抜いて、突き付ける。
「筋力増強、一点集中、全力全開、牙突の一撃!!」
早過ぎて対応できなかったグリフォンの右目にロッドの先が刺さると、そのまま貫き、頭蓋骨を突き破って、脳天にロッドの先が飛び出た。
グリフォンの悲鳴が断末魔に変わると、浮力を失って私と一緒に落下する。
ロッドを引き抜いたらあとは先生にお任せ。
だって着地する事まで考えてないもの。
僅かにグリフォンより後に落下したおかげで、先生が地上で受け止めてくれた。
満面の笑みが私を笑顔にする。
「よくやりました」
「えへへー」
だが問題はこの後だった。
グリフォンの鳴き声が辺りに響いた後で、親グリフォンが現れるハズだから。
警戒を怠らず、避難の必要アリとして、正門は固く閉じられ、馬車を曳く商人達は別の門へと避難し、私達は緊急時用の小さなドアに招き入れられる事に成ったのだ。
※おまけ
「子供が倒したぞ……
「魔法か?
「子供を空に飛ばす魔法なんてあるのか?
「飛んだ子供がグリフォンを倒した時の事だよ
「あ、ああ……そうか、そうだよな




