第055話 旅の続き
町の人達が総出で見送ってくれる中、ピタンと子供達が泣きながら私達を見送る。
みんなが手を振るから、いつまでも手を振る私がいる。
……泣いちゃう。
お城に居た時は同年代の友達なんて居なかったからな……。
……あの骨に同年代なんていないよね?
「別れも心の修行です」
こういう時の先生は全てを知っているかのように優しい笑顔を見せてくれる。
私の頭を撫でてくれる。
お母さんと同じ姿をしてるけど、私を抱きしめてくれる時の包容力はお母さんよりも凄いんじゃないかと思う。
残念な事に、今の記憶のお母さんはお父さんに抱きしめられてるけど。
…………。
「もう良いんですか?」
「うん」
「強くなりましたね」
「えへへ……」
今は空っぽの馬車の荷台に乗っていて、御者台にはオガサンが、その隣にはボルディックが座っている。みんなの姿が見えなくなるくらいまで離れると、ココは森の中の一本道だ。
それも魔獣がウヨウヨ居るらしいんだけど、餞別に貰った魔除けの鈴一つで辺りは静か過ぎるくらい何もいない。
「流石は本物の魔王国製魔除けの鈴だな」
「私もあの街に行くまでは本物を見るのが久しぶりでしたね」
「そもそも魔物がウヨウヨ居る魔王国で魔除けの鈴なんて作るのも謎なんだが、理由を知っているか?」
先生もどうやって作っていたのかは知らないらしく、宝物庫に眠っていたのを知っていたくらいで、使ったことは無い。スケルトンだった時は触れる事も出来なかったが、今は手に持つ事が出来る。そして、先生は過去に何度か受肉しているので、魔物判定を受けなければ持っても平気だった。
結構ややこしいわね。
「これは予想ですけど、スタンビートを防ぐ為に使われる予定だったと思います。ただ、実際に魔王国内で発生した事例は無いので、当時交流のあった国に譲渡する事で信用を得る為の交渉材料だったのではないかと……」
「流石に数千年前の事は知らないが、スタンビートが実際に発生したとしても、今の俺達が生まれているのなら勝利した記録くらいどこかにあるんだろうなあ」
「えぇ、在りますよ。10個ぐらい国が潰れましたけど」
さらっと言うから気が付いた時の恐怖感が凄いんだよ、先生は。
「なんです?」
「二人は知らないから言った方が理解が早いんじゃないかなあ……」
お嬢様の言う通りかもしれませんね……。
「まぁ、今後とも付き合いは有るでしょうし、そうしますか」
二人が物凄く怯えた表情で先生を見詰めている。
ちゃんと前見てくれないかな。
「初代魔王に挑んで負けたんですよ、私は」
ガクガク震えている二人が面白いけど、そこまで怖いのかな?
私のお父様と戦って勝ってるくせに。
なんか思い出したら腹が立ってきたわ。
ん?
あ、先生、それ貰っとくね。
「なぁ、お嬢ちゃん、初代魔王の強さって知っているか?」
「んーんー」
お嬢様はリンゴジュースを飲んでいます。
「この世界を滅亡寸前にまで追い込んだのが初代魔王だ。魔族以外は全てが小さな国に逃げ込んで抵抗していたんだぞ……」
「あの話は英雄伝の書物ならどこにでも書かれるくらい有名ですが、それを実際のモノとして認識して理解できるのは、Sランクでも極一部。勇者と共に戦った者達くらいですしね」
「ギデオンと出会ってなければ信じられん話ではある……が、今は解かるぞ」
「ボッコポコのベッコベコにされましたからねぇ」
「それがなんで今も生きてるんだよっ?!」
「初代魔王に気に入られて呪いをかけられてるんです」
「事実じゃなくても規格外過ぎるぞ……」
どこの規格基準なんですか、それ。
「まぁ、実際には物語ほどの危機感は無かったですよ。結構のんびりと暮らしていた人達も居ましたし、国だってもう少しありましたし、当時の魔王も全てを統べるつもりは無かったですし」
「物語の半分ぐらいが崩壊したんだが」
「物語なんてそんなものです。尾ひれに背びれが付いて、マーボゥくらいには成ってます」
「派手な魚だな」
マーボゥと言うのは泳ぐ宝石と呼ばれる魚で、その肉が美味しいだけでなく、骨は金属より硬く、強い魔力を保持していてヒレが宝石のように輝き、骨一つでも手に入れたら城が買えるくらいの価値がある。
一応、伝説ではなく何度か捕獲された記録もあって、その捕獲は漁師達の夢だ。
そんなワケで、噂話の比喩として使われる魚である。
「なあ、もしかして、ギデオンの奴が帰れる方法を本当は知ってるんじゃないのか?」
「知ってたら私が帰ってますよ」
「そ、そうか……」
(おい、今の話は何だ)
(ハニエルが聖女になったのは先生のおかげって書いてあっただろ)
(そうだが、いや、まさか、聖母なのか?)
(そうらしいぞ……)
(おれ、聖騎士になろうかな……)
先生が二人を睨んでいる。
全部聞こえてるって教えてくれた。
そんな事よりリンゴジュース美味しい。
んぐっんぐっ、ぷはー。
四人旅はしばらく続き、先生特製の家で寝る時はベッドルームを別で用意して有るくらいだ。先生は増築用に別棟を造ったとか気軽にいうから。
旅で寝泊まり用のテントくらいは持ち歩いても、家を丸ごと持ち歩ている人なんていない。朝も晩も温かい食事が楽しめるのは有り難い事だと、二人は凄く感謝していた。
っていうか、旅を続けるほどに二人からの先生への質問が凄い。
魔物と遭遇する事が無いから、暇なのが悪いのだけど、先生も私を混ぜてくるから逃げられない。
いつの間にか魔法の練習までしているし。
ボルディックが、詰まらなさそうにしているのを交代したい。
「雨が降ったら水魔法の練習だし、風が吹いたら風魔法、凸凹道の修繕に土魔法、邪魔な木々には火魔法」
「魔物が出なさすぎるのも問題ですし、この鈴、袋に入れておきますか?」
先生の提案に素早く反応して同意したのが、巨漢のくまさんだ。
最近はこの巨体が優しい奴だって分かってきて、力の上手な伝え方を教えてくれるのも丁寧で優しい。弱い力でも上手く使う事によって何倍もの威力を乗せて叩く事が出来るという話は、先生が黙っているくらいだから正しいんだろう。
何しろ、実践したら巨大な木が縦にスパッと斬れたから。
「むしろ、その武器が凄いんだが」
ミスリル製の釣竿だと説明したら目を丸くしてた。
水魔法に強く、魔法使いなら欲しがるような効果も有るからだ。
「ほらほら、練習相手のオーガが来ましたよ」
「嬢ちゃん頑張れ」
「補助魔法かけておくから安心してツッコめ」
三人に見守られて突撃していく。
なんかちょっと楽しくなっていく自分に、今はまだ気が付かない。
※おまけ
「やはり魔闘士ですよね?
「いや、魔術を伸ばせば応用も利くと思う
「筋肉の使い方が……
「どーでもいいけど、先生は一人だからねっ!!
「お、おぅ…
「あ、あぁ…




