第054話 知りたい事は
オガサンは畑に必要な種を持ってきたから、農場へ行っている。家の中には私と先生と、筋肉だるまの三人。
先生が改造した家の中のテーブルは4人用だが、この男が一人で二人分のスペースを奪っている。
デカいって。
正方形の自作のかまどで、台から弱い炎が噴き出していて、柄の付いた鉄の板を使って先生が料理をしている。
それなんて武器?
「お、わりーな」
「食事くらい出しますよ、敵対したい訳ではありませんので」
焼肉とスープとサラダ。
私にはリンゴジュースがある。
パンが無いのはもう全部食べてしまったからだ。
木の実が取れればパンは作れるらしいけど。
一口もでかいんですけど。
なにこのクマみたいな生き物。
熊獣人とハーフだってさ。
「俺の事ならギルドに報告するだけで終わるから問題ない。訊きたい事ってなんだ?」
「とりあえずギデオンの現在地が分かると助かりますけど」
「わりーな、そりゃ無理だ」
「ギルドに逐一報告が入ると聞いていますけど?」
「その報告が止まって一ヶ月以上。寄り道するとは思っていたが、何か有ったんじゃないかって思うくらい何処にも現れていない」
ギルドの方でもギデオンを発見し報告するだけで金貨1枚が貰えるとあって、あちこち、方々、捜しまわっているのだが、発見の報告は無い。
田舎のギルドだと報告が遅くなる場合は有るから、行方不明と言うにはまだ早い。
あの歩くだけで目立つ勇者が、誰にも見られていないというのは、不思議と言うより不気味過ぎる。
「各街の教会にも痕跡が残ってないからな」
「なんで教会が関係あるんです?」
「俺も理由は知らんが、何故か子供に優しい一面があってな、孤児の居る教会に金を置いてくとか、子供の奴隷が働かされている場所を破壊して奴隷から解放するとか、たまに行方不明探しとかもやってたな、依頼料が高い訳でも無いのにな……」
言い終えるとお嬢様のリンゴジュースを飲み干してしまいました。
お嬢様が涙目になってます。
「す、済まん。手に届くところに有ったからツイ」
あなた、テーブルの全てに手が届くじゃないですか。
ちゃんとまだ持ってますから、お嬢様。
奪われないように両手で持ってちびちび飲み始めました。
絶対にお酒を覚えさせてはいけないタイプですね。
「……私の親を殺しておいて、罪滅ぼしのツモリかしら」
「最初に出会った時からそうだったぞ。コソコソしてるから何かと思って尾行したら、孤児を集めて食事してたんだ。理由は今でも教えてくれん」
「何か事情は有りそうですけど、お嬢様には関係ありませんね」
「そりゃそうだ。で、訊きたいのはギデオンの事だけで良いのか?」
先生が思案している間にクマ男が食事を再開する。
美味そうに食べるわね。
「……貴方にこんなに早く会うとは思っていなかったので、訊く事が無いんですよね」
「なら訊きたい事が出来た時にでも訊いてくれ、俺は基本的にモガルドに居るからな」
先生がキョトンとするのは珍しい。
「一つ質問が出来ました」
「なんだ?」
「オガサンもそうでしたが、なんで私達に協力的なんです?」
ボルディックが笑った。
豪快ではなく、笑いを抑えるように。
「冒険者は頑張る奴の味方だ。それが以前は敵だったとしてもな。先生は冒険者だったことは無いのか?」
何故か先生認定されました。
今の生徒はお嬢様だけなんですけど。
「昨日の敵は今日の友。冒険者なんて依頼を受けた時に立場が変わりますからね、そのくらいは理解していますけど……」
「まあ、これには実はちゃんとした理由がある」
今度は自分に用意されたコーヒーを飲んでいる。
アルコールが呑みたそうな顔をしていますが、ココには有りません。
「ハニエルに頼まれてるんだ」
「そうでしたか」
「いつか共闘する事にもなるって書かれてたが、これは先生の方が知ってそうだな」
「先生、そうなの?」
お嬢様が心配そうに私を見詰めています。
頭を撫でておきますか。
こんな子供が魔王になって戦う姿は……見てみたいです!!
ワクワクすっぞ!!
「せ、先生?」
「あ、いぇぃぇ……」
「鑑定できなくても、経験で分かるぞ」
先生が何かを誤魔化すかのように自分で焼いた肉を食べ始める。
もう食べても平気なんだ?
でも頬がちょっと赤い。
何を隠してるのか、今の私じゃ解らない。
「まぁ、辺境で戦争しているような世の中なら先生の力は必要ないだろうな」
「なかなか核心的な事を言いますね」
「ギデオンと旅をして色々知ったからな。色々と無茶もしたが、無茶でもしなきゃ知り得ない情報も有るからなぁ……」
「その様子ですと、やはりギデオンも知ってますか」
「あぁ……」
何の事だろう?
もしかして……。
「それって魔王になるのと関係あるのよね?」
「あります」
「私もその一人になるのかな……」
「まだ猶予は有る筈ですが、早いのにコシた事はありません。魔王国領の領土範囲にも意味があって、それらの事は順番に教えて差し上げる予定です」
「せめて俺を吹き飛ばせるくらいの力は欲しいな」
「貴方を吹き飛ばすなんて、今の私でも無理ですよ」
今の、って言い方が気に成る。
「オガサンは耐えきれずに吹き飛ばされたって悔しがってたぞ」
「それだけ油断していたって事です。貴方は油断していませんでしたね」
「最初に攻撃を受けて耐えきるのが俺の仕事だからな。それがどんなに理不尽でも倒れる訳にはいかねぇ」
それで転がせなかったんですね。
この油断の無さは尊敬に値します。
「……お嬢様のサンドバッグに丁度良いですね?!」
「さて、そろそろ帰ろうかな……」
うふふ。
「なあ……お前の先生、怖過ぎないか。俺でも足に震えがくる」
「先生の能力って凄いもん。本気で怒ったところって見た事ないけど」
「私をキレさせたらたいしたものです」
魔王と対峙した時でもこんな恐ろしさは感じなかった。
なんというか、底が見えない。
深淵のさらに奥にまで吸い込まれていく、絶対に逃げられない恐怖に纏わり付かれているような……。
「ああ、分かった、先生と世界樹様が似てるのか!」
「ああ、世界樹様ですか……。似ているなんて考えた事ありませんでしたが」
世界樹様って、先生がそんな風に言う相手なんて居るんだ?!
「ギデオンと一緒だったからあんなところまで行けたが、もう二度と行きたくない場所だったな」
「それは同意しておきます」
一息ついたのは、疲れたからなのだろうか。
美味しい料理。
満足する情報を得て、魔王候補の嬢ちゃんにも会えた。
この子供が、あんな一撃を出せるほどに成長させた先生か。
ハニエルが尊敬するのも解るな。
「今日は良い経験が出来た。俺も鍛え直したくなった」
「あんた、まだ強く成る気なの?」
「覚えとけ、俺なんかでも手も足も出せない相手はこの世界にゴロゴロいる。目の前の先生もその一人だ」
「え、そうなの?」
先生は無言だ。
「あの一撃が限界じゃないなら、嬢ちゃんはまだまだ成長する。良い先生もいるしな」
先生が照れている。
「ギデオンは無茶苦茶な男だが悪い奴じゃない。どんなに怨んでもいいが、憎しみでは必ず越えられない壁が来る。その時は先生を頼れ」
先生が微笑んだ。
「俺を敵にするかどうかは嬢ちゃん次第だ。できれば味方であって欲しいと思うようになる事を願っているよ」
「言いたい事を全部言うタイプですね」
「事と次第、状況が求めるなら嬢ちゃんの下に就いても良いぞ」
お嬢様が吃驚しています。
このクマ男はヤハリ侮れませんね。
あのギデオンと旅が出来たくらいですから、かなりの人格者と思っても良いかもしれません。見た目はクマなんですけどね。もちろん人としての評価ですが……。
「おまけのついでだ、畑が耕しきれてなかったから暇つぶしにやってやるよ」
翌朝、街の規模も広がっていましたとさ。
※おまけ
「うおおおおおおおおおおおおお!!
「すげー……素手で土を掘り返している……
「うおおおおおおおおおおおおお!!
「森もついでに耕してる……
「ま、魔除けの鈴がっ
「ほい。うおおおおおおおおおおお!!
「ちゃんと回収してる……
「おい、流石にやり過ぎだ。種が足らん
「うぉぉおぉぉ……そうか、じゃ止めとくわ
「畑が3倍になりました。邪魔な石も粉砕してますし、破壊術の見事な使い方ですね
「あんなの勝てないわ




