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第052話 湖水の守護者

 先生が町の人達をこっそり鑑定したところによると、戦闘に特化した職業の人は居なかったらしい。ただ、農民のレベルが高く、発芽効率が高くなるスキルを持っているから、こんな土地の畑でも上手くやっていける事を確認して、少し安心していた。


「半分は無理やり連れてきましたし、魔族という理由で嫌われているのを我慢して、やっと自分達の立場を築き上げたのを無にしてしまいましたから」

「しかし、あのままだったら俺達、特に子供は奴隷落ち確定だろう」


 ジョンが感謝してくれるので素直に受け入れる先生は、珍しく照れている。

 誰かの為に何かをするのは恥ずかしいんだって。

 私の為とか、生徒とか育ててるのに?


「英雄を目指していたワケではありませんので」


 先生がまた遠い目をしている。

 ちゃんと目が有るから遠くを見ているらしいのが分かるけど、たまにすっごい寂しそうな目をするんだよね。


「どうかしましたか?」

「ううん、何でもない」


 今日は食べ飽きてきた魚に変わって、肉を手に入れる為に近くの森に入る予定だ。オガサンが戻ってくるまでここに居て欲しいと、ピタンだけではなく町の人達にも懇願されたので、滞在期間を延長するついでに、近くの森の魔物を掃討する事にしたのだ。

 兎獣人の村にも行く予定になっている。

 当然だけど、ピタンはお留守番。

 ピタンは何故か子供達に懐かれまくってて、子守も兼ねる事に。本人もそれをちゃんと理解しているので、半泣きで手を振って私達を見送っていた。

 子供達が真似してるけど、半泣きまで真似しなくても良いのよ。

 ともかく先生と二人で森の探索は楽しみだ。


「さて、サクッと倒しますか」

「は~い」





 時間は少し遡り、別の場所。

 ボルディックの住むモガルドの街では騒ぎになる半歩手前の状態だった。

 ゴ・グール伯爵が血相を変えて奔走している姿をあちこちで確認されていて、戦争が始まるのではないかと、兵士達が噂をしている。

 当然のようにギルドにも情報は入って来るが、まだ正式な依頼にはなっていない。戦争が始まってから集めるのでは間に合わないので、傭兵部隊の募集依頼がギルドに出回るのも時間の問題だろう。

 その噂の真偽としては、ヒルデスハル伯爵の領地内でマンドラゴラが大量に出回ったところから始まっている。マンドラゴラと言えば高級ポーションの材料として有名で、希少価値も高いのだが、それがドードリアの街で出回り、伯爵が買い占めたらしい……。

 一仕事を終えたボルディックがギルドの一室で、その噂話を吟味している。


「マンドラゴラの価値を知らんのか、こいつは」


 ボルディックがその出所を知っていれば自分で買いに行くだろうが、既に伯爵の手に渡っていたら手は出せない。


「なんで急に出回ったのかも謎だな。以前はかなり少量だっだろう」


 それに応じたのは同室で書類に目を通しているギルド長である。


「農具やら食器やら、必要になったとか言っていたらしい」

「売った奴が分かっているのなら、そいつの住んでいる街が危ないんじゃないのか」


 マンドラゴラを奪いに、野盗でも山賊でも襲撃に来る予想は簡単に出来る。


「そうなる前に伯爵が全て横取りしたからな」

「なるほどな……」


 ギルド長が目を通した書類はそれに関係したモノで、声も出さずに吃驚している。


「どうした」

「その供給が止まったらしい……」


 ノックの音が聞こえ、ギルド員が入ってきた。

 綺麗な女性がボルディックに手紙を差し出す。


「俺宛に手紙なんて珍しいな、誰からだ?」

「ハニエルさんです」


 受け取ってその場で手紙を読むと、気に成る事がいくつか書かれている。

 それは、オガサンに送った手紙の内容とほぼ同じで、アイシャとマリアの事も書かれていた。


「そーか、ギデオンもこれから少し苦労しそうだな」

「あの勇者が苦労する?」

「一応秘密にしてくれって頼まれているから詳細は言わんが、あの男は見た目や経歴と違って、根は優しい奴だからな」 


 手紙を渡したことで既に退室しているギルド員には聞こえなかったが、ギルド長は少し興味を示した。


「あれで優しいなら、殆どのSランクは蜂蜜よりも甘いんだろうな」

「おれは黒糖くらいだ」


 その例えが正しいのかを確かめる方法はないし、興味も消えてしまったので話題を戻す。供給されていたマンドラゴラはそのまま食べても効果の高い根菜で、その育成は困難を極める。育てられるのは兎獣人だけと言われていて、マンドラゴラの有るところには兎獣人もセットで存在するのだ。

 そして兎獣人には美女が多い。

 それも、男が好む仕草をするので、奴隷売春宿では人気が高い。

 ただ、その寿命は短く、街に連れてきても数年で死んでしまい、運よく妊娠したとしても、その子供は混血になる為に価値は半減するし、美女が生まれるとは限らない。


「今頃は探し回ってるんじゃないのか」

「メイガスの街を知っているか?」

「あぁ、名前だけならな」


 その街は魔族が多く棲んでいる事。

 特に特長の無い長閑な農業地域である事。

 オガサンがその街と交流を持っている事も伝えられた。


「じゃあ、あいつに訊けば分りそうだな」

「そういうワケで一つ頼まれてくれないか」

「そりゃ構わんが、これじゃ戦争は始まらんな」

「始まってくれた方が楽かもしれん。噂を聞き付けた奴らが押し寄せて来ているんだぞ、商業ギルドの方も大変だってな」


 戦争が始まる前は、冒険者が仕事を求めてやってくる。

 戦争が始まれば、商人が物資を積んでやってくる。

 どちらもまだ噂の段階で行動しなければ、他の人にチャンスを取られてしまうのだから、兵士達からの噂程度でも動く奴らは多いのだ。そのおかげと言えば良いのか、その所為と言えば良いのか、街はいつも以上に賑わっていて、ギルドも人が多く訪れている。

 だから、ギルド長と同じ部屋で休憩していたのだ。


「俺にそういう仕事は向かないから、さっさと旅に出るか」

「Sランクならただの散歩ぐらいだろ、マケてくれんか」


 ギルド長はさらっと報酬を値切った。






「ただいまーっ」


 との声に子供達が出迎えてくれる。

 嬉しいけど、集まり過ぎ。

 先生がオークとブラックボアを袋から取り出した事で、大人も集まってきた。

 血抜きはまだしていないので、その作業を大人に任せる。

 合計で15体あるので大変な仕事量だ。

 でもでも、今夜は久しぶりの焼肉だー♪


「先生が狩ったの?」

「追い込みを手伝っただけですよ。お嬢様が勝てない相手ではないので」

「水辺まで来れば私でも余裕なんだけどなー」

「その水を自分で生成できるようになればいいのですよ」

「えー……」


 今日はもう一仕事したので私は休憩。

 夜になるのを待つだけだから、子供達と遊ぶ。

 オークごっこはイヤだから、精霊ごっこにしない?

 結局、水遊びになった。

 ピタンが有利過ぎるのっ!!


「そうでした、ピタンの職業を変更しておきますか」

「へっ?」


 先生がピタンのおでこに指を突き刺してグルグルしている。


「はにゃうんっっっ」


 子供が出していい声じゃないと思う。

 お父様の記憶の所為で変なコト思い出すからやめて欲しい。


「とりあえず魔操師にしました」

「はにぇっ?!」


 水魔法使いから魔操師になった事で、何かの変化が有ったみたいだけど、それは本人にしかわからない。そして、何が成長するかは本人の努力次第。

 職業による影響力は微々たるものだと言うけれど、先生には差が感じられないから、ピタンも研究対象にするって。


「そ、操作が難しくなった気が……」

「得意な魔法を使えば良いのです」

「そっかー」


 ずるーい。

 先生と生徒っぽい。

 狡い、ずるい。

 そんな風にむくれる私に先生が言った。


「オガサンが返ってきた次の日には旅立ちますし、今のうちにオーク肉で保存食を一緒に作りましょう」


 私が笑顔になったのは言うまでもない。

 ふんふんふ~ん♪








※おまけのステータス



名前 アイシャ・ブイルダン 性別 女 年齢 10 種族 魔族

職業 魔操師 Lv 23 筋力 15 魔力 61 敏捷 18 魅力 51

HP 155 MP 547

所持 ミスリル製の釣竿

特殊技能 進化の女神と契約 魔力の紋章 鑑定Lv2 父親の記憶



名前 マリア・薄田 性別 女 年齢不明 種族普人 職業教育係

Lv 133 筋力 5 魔力 898 敏捷 23 魅力 300

HP 255 MP 8501

所持 魔力核(体内) 魔法袋 

特殊技能 技能神と契約 不死の呪い 魔女の知識 異世界転移

     鑑定LV3 受肉 自動修復 聖母



名前 ピタン 性別 女 年齢 563 種族 ナマズ 職業 魔操師 

Lv 12 筋力 58 魔力 99 敏捷 10(100) 魅力 115

HP 1450 MP 235

所持 なし

特殊技能 水精霊の加護 MP節約Lv1(水魔法限定)

 湖水の守護者(棲息地なら魔力2倍)



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