第50話 湖の主
湖の畔で休んでいるオガサン達に水飛沫と蛇のように動く水柱が襲ってきた。
突然の事でも戦闘に慣れているオガサンはきっちり魔法障壁で防ぐと、すぐに子供達を避難させる。
「また面倒な水魔法だな」
反撃をしようにも何本もの水がオガサンに向かってくるので、防御しかできない。
だが、今は俺一人じゃない。
「やりますか?」
「んー、まだちょっと自信ないかな」
「ではお手本です、よく観察してください」
「はーい」
返事をしたのはアイシャの方に集まってきた子供達で、大人の心配をよそに、魔法に興味がある子供達は恐怖よりも興奮が上回っている。
「いいから、早く手伝ってくれ」
「おや、手数は多いですけど、無駄が多いですね」
先生がいつの間にかオガサンの横に移動していて、魔法障壁を指でつつく。魔法障壁の一つがオガサンの制御下から外れ、くるくると指を回すと、魔法障壁が渦を巻いて水を吸い込んでいく。
「弾くんじゃなくて相手の魔力を吸い込むなんてとんでもない事を軽々しくやってくれるな」
「だって、この魔法は考案したの私ですもの」
「……は?」
「お嬢様も使っていたでしょう」
「え……あぁ、あの時の水柱か」
確かに水魔法はまっすぐ相手に向けて放つ魔法が多い。
それでなくても戦闘に使うには威力の低さと、制御の難しさと、派手さが無いことから、四大元素魔法の中では人気が無いのだ。
「あなたも無駄な魔力が多いですからよく見ると良いです」
「お、おぅ……おおおお!」
くるくると指を回しているだけにも見えるが、その指先には僅かな魔力しか感じられない。それが大量の水の流れを操作し、横へ逸らすと、回転力を増加させて相手に向けて放った。
「すげぇ……、あんたホントにただの先生か?」
「魔力操作というのはこういうモノなんですよ。でも、勇者には勝てないんです。溶岩の中に飛び込んでもそれを味方にするようなやつに勝てるワケないじゃないですか」
比喩が酷い。
いや、そうじゃない。
確かにギデオンなら出来そうだな……。
「それに、この魔法を返してもあの子には効果ないんですよ」
「あの子?」
「次は姿を見せる筈です」
先生の予言通り、水の中からは巨大な……ナマズの様な生き物が出て来て、こちらを睨んでいる。
その見た目からは想像も出来ない幼い声で、周囲に響き渡る。
「ここは私の湖だから、あんた達に勝手に住まわせないからねっ!!」
水玉が空中に生成されると、雨のように降って……来ないよな、全部跳ね返しやがった。俺も先生に教わろうかな……。
怯えて逃げ惑う行先が無ければその場で立ち尽くすしかない人達は、驚いているし、慄いているが、先生とアイシャは違った。
「どうしますか?」
「おっけー」
アイシャが飛び出してきて、湖面の上を走って行った。
「水走か、巧いな」
「波紋が大きいのでまだまだですよ」
「厳しい先生だ」
ジャンプして直接ロッドで殴っている。
相手の身体が大き過ぎてアイシャが豆粒ほどにしか感じなかったのだが、何度も叩かれるナマズが水の中に逃げ込む。
「注意してくださいねー」
先生の言葉が良く聞こえなかったので湖面への注意を怠ったところに、水中から水柱がアイシャに叩き付けられた。渦を巻いてアイシャを包み、それが水玉へと変わった。
「……爆散っ!!」
水玉が内側から爆発したのは、アイシャが火魔法で相殺したからだ。
「ここでもういっぱつぅ―――!!」
あれはダメだ、遅い。
水魔法相手に火魔法を放つタイミングとしては、先制するかギリギリまで引き付けるのが効果的だ。水玉で包まれた時の火魔法は抜群の効果を見せたが、放たれた水魔法に対抗するには火魔法では不利だ。
「あんた、甘いわね、それそれっ」
水玉がどんどん飛んできて、火魔法では弾けなくなった。
包まれるとまた火魔法で弾く。
「めんどくさいわね、さっさと姿を現しなさい!!」
「いーわよ、あんたはまだ弱いからね」
水の中から現れたのは、アイシャと同じくらいの可愛い女の子だった。
先生が溜息を吐いて見上げた……?
「あー、やっぱり」
「知り合いか?」
「数少ない知り合いの魔物です」
オガサンと先生の会話は聞こえず、湖面に立つ女の子二人の戦いが再開された。
アイシャの方はその姿に驚いているし、圧倒する威圧にも負けている。
それに……。
「見てください、あの子の方が波紋が少ないでしょう」
「確かに。水魔法に関してはかなりの技術が……先生が立ったらどうなるんだ?」
「波紋なんて立てたら居場所がばれるじゃないですか」
二人の会話とは関係なく、子供同士の戦いはアイシャの持つロッドと、鞭のようにしなる二本の触手が攻防を繰り返しているが、どう見ても手数の少ない方が不利だ。
「意外と耐えるわね、更にもう一本行くわよー」
「ちょっ、とっ、まっ?!」
三本目の攻撃を受けきれずに叩きつけられると、湖面を三回ほど跳ねて水に沈んだ。
この時点でアイシャの負けは確定したのだ。
「水魔法ならいい勝負できたと思うんだが」
「だから物理に変えたのでしょう、あの子にしては良い判断でしたね」
「……どっちの味方なんだ?」
「お嬢様に決まってます」
私が気が付いた時、先生の腕の中に居た。
優しい笑顔で褒めてはくれなかったが、頭を撫でられて負けた事を知った。
悔しかった。
悔しくて泣いてしまった。
何も出来なかったあの時を思い出して、大声で泣いてしまった。
「だれよ、あんた」
ナマズの女の子は先生を睨んだ。
先生は覚えているがこの子は知らない。
何故なら、この子が知っている先生は骨しか無いスケルトンの姿だったからだ。
「邪魔をするなら……」
水柱を発生させると、先生に向かってこなかった。
勝手に左右に飛び散るし、逆にその水柱に襲われている。
「はぁ……もう少しちゃんと教えを守っていると思ったのですが」
「え、さっき私の魔法を跳ね返したのって」
「私ですよ、ピタン」
すっごい驚いている。
驚いて水が全身から噴き出している。
なんかキモい。
「さて、お嬢様はちゃんと立てますね」
「うん」
「あんた達、なんでそんなに簡単に立てるのよ。それになんで私の名前を……」
「もう少し教える事が有ると言ったのに勝手に行ってしまったのはあなたですよ、ピタン」
ナマズの女の子が湖面の上で土下座をするなんて初めて見た。
というか、またいつものパターンなの?
「どこかに棲むと言っていましたが、こんな山奥とは思いませんでしたね」
「ま、マリア先生ですか?」
「他に誰が居るんですか」
身体が震えて水が飛び散った。
「ごごごご、ごめんなさああああああああああああああああああああいっ!!」
※あとがき
マリアに特訓してもらって水魔法をより強力にし、以前の主を追い出して棲んでいた
メスナマズで名前は「ピタン」
人型に成るとアイシャくらいの子供に見えるが563歳
以下、マリア先生が鑑定した結果
名前 ピタン 性別 女 年齢 563 種族 ナマズ 職業 水魔法使い
Lv 33 筋力 58 魔力 98 敏捷 5(50) 魅力 115
HP 1500 MP 225
所持 なし
特殊技能 水精霊の加護 MP節約Lv1(水魔法限定)




