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第048話 振り逃げダイナミック

 街の住人を説得した翌日、ドードリアの兵士が隊列を組んでやってくるのを発見したオガサンは、それを報告しただけで迎撃はしない。オガサンがこの件に絡んでいる事は、今知られると少し面倒になるからだ。

その代わりなのか、今回の迎撃作戦で出撃予定の少女はヤル気に満ちていた。


「だいたい240人くらいだな、いけるか?」

「えーっと・・・お嬢様でも勝てるぐらいの兵力ですね。圧倒しないで苦戦しているフリもして欲しいところです」

「難しい注文ね」


 報告したオガサンは一人でやる気に成っているアイシャに少しの不安を感じている。


「まさか、一人……で、か?」

「いえ、農具を装備して20人程連れて行きますが、危なかったらすぐ逃げるように言ってありますし、補助魔法も付与しておきます」

「アンタ、何でもアリだな……」

「先生だからね!」


 なんでお嬢様がドヤ顔してるんですか。

 可愛いから撫でておきますけど。





 整列して歩を進める兵士達は、その意味を理解しておらず、上官の命令で遠征しに来ただけの気持ちだった。兵糧を積む馬車も往路の分しかなく、帰りは現地調達の予定で、さらに上から命じられて任務を行う事になった彼らの上官は、この任務の気が進まない。

 その所為で部下達にも説明していないのだ。


「資金節約の遠征で兵糧の現地調達に、マンドラゴラの入手法を探ってこいなど、断られたら無理にでもって意味にしかならないじゃないか……」


 もちろん、特に小さな声で呟いているので、副官には聞こえない。

 その副官も、今回の任務に違和感を覚えている。

 ただ、意見する立場ではないから上官に従うのみなのだが……。


「変な任務ですね」

「………」


 それだけで会話は続かず、順調に進む、ハズだった。

 駆け足で前方から戻ってくる斥候が現れるまでは。


「報告。丘を越えた辺りに町の者達らしき20人ほどを発見。農具を持って待ち構えている様子」

「待ち構えているだと?」


 それにしては人数が少な過ぎるし、戦闘が得意なのが集まったのは予想できるが、我々がやって来るのを知っている筈が無い。もし、バレているというのなら、事前に送り込んだ何者かが裏切ったか、捕まったか。


「このまま行進を続ける。アイツらが戦うつもりなら……いや、それもおかしいな。なぜ戦うことが前提なんだ?」


 上官の隊長には戦う事に不安はない。

 しかし、戦うという事は敵対を意味する。

 たとえ魔族で嫌われている事を知っていたとしても、まずは交渉をしてくるハズだ。

 ならば、なんの目的なのか。


「足止めか」

「やはり、何か隠していて?」

「そうだな、奴らに時間を与えてこちらの目的が達成できなくなるのも困るな。よし、駆け足!」


 隊長の号令で兵士達が駆け足を始め、丘を一気に駆け上ると、遠くに町が見える、その手前の位置に報告通りに人の姿があった。

 こちらに気が付いても逃げる様子はない。


「とまれーっ」


 この声は隊長である。


「さて、お前達は我々の進路を邪魔しているが、何の用だ?」


 完全武装の隊長が高圧的に問いかけると、明らかに怯えて腰が引けている。

 その大人の中に一人だけ子供が……。

 明らかに目が違う。

 怯える様子が無いからだ。


「あなた偉そうだから隊長さんよね?」

「そうだが、お前たち子供に交渉させる気か?」


 子供が胸を張って一歩前に出てきた。


「むしろあなた達が何の用でこんなに兵隊さんを連れているのかしら?」

「関係なかろう」

「この先はただの農民が住んでいるだけの長閑な……町よ」


 今、村って言おうとしたよな。


「農民に用はない。農地には少し用は有るがな。さぁ、子供には関係ない事だろ、そこをドケ」


 誰一人動かない。

 というか、こいつら動けるのか?

 副官に目を向けると無言で指示を理解し、副官の号令で部隊が歩みを始めた。規則正しくズレの殆ど無い行進は、威圧を感じた。


「あなた達は逃げて良いわよ」

「あ、あぁ、怖過ぎる……」


 農具を投げ捨てて、なんて事はせず、しっかり握りしめて背を向けた。

 逃げるにしても無防備すぎるが、これは演技ではなく本当に怯えているからだ。

 先生に補助魔法(バフ)をかけて貰った所為か、逃げ足は意外にも早かった。

 逃げて行く姿を確認すると、向きを正し、真正面を向いてロッドを握った。

 兵士一人一人は強くないが、複数に挑むには少し多かった。

 アイシャの目が怪しく光る……。


「筋力増強、電光石火、全速前進!!」


 目の前の子供の姿が消えたように見えた。

 それはあまりにも早く、兵士達の目では捉えられないほどの速さで突撃し、兵士達の間を突き抜けたのだった。

 綺麗に整列していた所為で避ける間も無く、左右に吹き飛ばされた兵士が、他の兵士の身体にのしかかり、隊列は崩れた。


「何をやっているか、間隔を持って取り囲め!!」


 号令は直ぐに実行され、たった一人の子供に大人が取り囲むと、逃げ場はなくなった。なくなったのだが……。


「あんた達そんなに犇めきあって囲んできて、どうやって私を攻撃するつもりなの?」


 皮肉と嫌味をたっぷり込めた言葉は隊長の耳に届いた。


「動けるように間隔を開けろと言っているだろ!!」


 命令に従って包囲を緩め、少し後方に下がると、包囲に隙間が出来て、子供がその隙間を突き抜ける。

 ロッドを左右に振り抜き、兵士達の鎧を叩くと、その威力で大人が吹き飛んだ。


「逃がしてくれてありがとねっ」


 無邪気な笑顔とその小さな身体からは想像も出来なかった。

 だが、立て続けに二回も続けば疑う者は少ない。


「嘘だろ、子供だぞ……」

「剣を抜け、魔法兵は詠唱用意……」


 改めて子供を取り囲もうと、兵士達が剣を抜いて回り込む。


「遅いわっ、喰らいなさい!!」


 子供が何かをした。

 詠唱もしていない。

 なのに、魔法兵が苦痛とともに倒れて行く。


「あのガキ、指から放ってるな……魔弾だ、魔法障壁!!」


 すると、子供がまた突撃してきた。

 速くて捕まえるどころではない、目で捉えるのも困難な速さに、大人達は子供の一撃て次々と倒れて行く。

 以前の戦闘の時は聖職者だったが、聖職者と違うのは、完全武装した兵士である事。

 その所為でロッドを使って殴っているのだが、気を失わせるほどの威力は無い。

 しかし、それで十分だった。


「なんなんだ、何が起きている……」


 状況が理解できないのではなく、受け入れる事が困難なのだ。

 たった一人の少女に、正規兵が蹂躙されているのだから……。


「楽しい!!」


 その言葉は突撃姿勢をとる子供相手に隊長が本気になった瞬間と同じである。


「囲めっ、身体を張って止めろ!!」


 アイシャがニヤッと笑った。





 町の人達が逃げてくるのを確認して暫くすると、爆発音が聞こえた。

 それも一度ではなく、二度、三度……四度、五度。

 多過ぎないか?


「暴れてるなあ……」

「ですが、そろそろ限界でしょう」


 教育係であるはずの先生が余裕のある口調なので、オガサンはその方に驚いている。子供一人が戦っているのに、助けようともしないのだから。

 しかし、見極めはしっかりしているようで、ここからが時間の勝負である。

 もちろん、失敗するとは思っていないからこそ、見極めは大事なのだ。

 声の届くところまで逃げてきた町の人達が、マリアを見付けて大声を出した。


「あ、あの子が襲われてるぞっ!」

「えぇ、大丈夫ですよ」


 平然と応じる声には落ち着きがあり、帰って来る者達を安心させた。

 そして後ろを見ると……。


「おぉー、やりましたね」

「アイツの得意魔法は何なんだ……」


 丘の上から噴水のように昇って行く水柱が見え、その水が空中で四散すると綺麗な虹がかかったのだった。





 たった一人の少女を取り囲んで抑え込むはずだった兵士達は、今の状況に納得できない。大怪我をしている人は一人もおらず、多少の打撲痕が鎧に残るくらいだ。

 とんでもない事をたった一人の少女によるものだと、報告しても信じて貰えないだろうし、任務はただの失敗ではなく、完全敗走という失態付き。

 面目も矜持も、ついでに食糧すら残らず、このまま帰還すれば処罰される未来しかないのに、空腹で倒れそうなのである。

 返ってきたアイシャが走りこんで抱き付いてきたので、抱き止めて褒める。

 怪我一つなさそうで、しかもまだ余力が有るくらいなのでタイミング的にはバッチリだ。


「綺麗な水魔法でしたね」

「お父様の力が呼応したから、凄く簡単に制御で来たわ」

「ふむ。やはりそのロッドはイザという時以外は使わない方が良いですね」

「もったしないけど……そうね、私じゃなかったら自分の力だと過信するわ」


 オガサンはその会話を聞いていて、少なくともガチで戦う気はなくなった。

 それよりも気に成る報告が有ったので、それを教育係に相談する。

 返答したのはアイシャだった。


「そんなの自業自得じゃない」


 10歳の少女のセリフだとは信じられないが、結果が全ての冒険者をやって来たオガサンは自然と受け入れている。


「帰還して報告してもらった方が時間が稼げるとは思わないか?」

「しかし、補給までこの街の倉庫から奪う気だったとは、呆れてモノも言えませんね」

「そうなんだが。いや、この提案は拙かったな。俺が金を出して食糧を買って、それを持って行けば済む話か」


 先生が少し考えてから頷いたのは、この手柄をお嬢様のモノにするか悩んだだけで、慈悲を与えても効果は薄いという答えを出すまでの時間である。


「アイツらしばらく動けないから、すぐに準備すれば間に合うと思うわよ。ロッドがしなるくらい叩き込んだけど鎧が凹む程度だったし、重傷者はいないし」

「なんで最後が水魔法だったんだ?」

「勝つのは目的の一つだけど、殺すのが目的じゃないからね」


 オガサンは何かに納得したように笑顔になった。


「アイシャ……だったな、お前ならギデオンといい勝負できる気がする」

「そう?素直に褒められておくわ」


 オガサンはそれだけを言って町の人達とともに町の中心に向かった。

 この戦いの最後に兵士達を助ける仕事が残っているからだ。







※おまけ



兵士「あんな子供に負けたなんて恥ずかしくて言えないよ……

兵士「隊長が下を向いて歩いてるなんてな……

副官「まさか最後の一撃がただの水柱だったなんて……

隊長「凄い魔力だったのは確かだ。しかし、あんなに力強く構えて空振りだったなんて

兵士「偶然通りかかったのがあのオガサンで良かったですね

副官「ああ……

隊長「偶然なワケがない、食糧を必要分だけぴったり綺麗に積んでるなんて、準備していたようじゃないか……

副官「じゃあ、もしかして……

隊長「もう間に合わないだろ。そして俺の降格も確定だろうな……はぁ……



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