第043話 勇者一人旅 (その1)
勇者ギデオン側の物語です
お嬢様はお休みしておりますので...
寝顔、可愛いです うふふ...
のんびりとした旅を続けていた二人は、ボルディックの故郷に到着した。街の規模としては近隣で一番大きく、領主の巨大な館が都市の中心に鎮座している。
入門税はボルディックの顔パスで通過し、多くの人達が帰ってきたボルディックを歓迎する。この街でのSランク冒険者は他にも居るが、強さで言えばボルディックだけが単独でドラゴン退治が可能だった。
隣の男にも話しかけてくるから、正直うざい。
「いちいち話しかけられて面倒だからギルドに行くか」
「そうだな」
ギルドに入ると、また多くの人に囲まれる。
だが、これは直ぐにハケた。
「おぉ、帰って来たか。お前じゃないと出来ない依頼が溜まって困っていたぞ」
「ギルド長だって倒せるでしょ」
ギルド長が苦笑いして降参のポーズをとる。
この街の歴代のギルド長で最低ランクが+Aなのだから、Sランクは当たり前の役職だろう。
「へー、アンタも強いのか」
「勇者ギデオン様まで来てくれるとは心強いな」
「んー……せっかくの活躍の場を横取りする趣味は無いな」
依頼を受けるつもりは無いと暗に言っているのを理解したギルド長は、仕事の話はせず、歓迎会と称して仕事をサボる事にした。
今日ぐらいは酒を飲んでも怒られないだろう。
しかし、ボルディックを巻き込んでの宴会は一晩で終わった。
翌日の早朝にギデオンが旅立つと言った事で、ギルド員総出で見送る事になった。ギデオンは不要と言ったが、魔王を討伐した者の帰路の旅路を見送るのに仲間一人ではギルドの立場が無い。
ギルドで一番可愛い受付嬢の見送りだけは反応を示して、久しぶりの一人旅が始まった。
気が楽になったのは良いが、街に近いと俺を知っている奴が多い。転移者としては写真や似顔絵が出回らなくて助かったという気分である。顔が割れた状態では身分を隠して行動するのも面倒で、行く先々で貴族の誘いを受け、断って報復を受け、きっちり半殺しにしている。
魔物が現れても一睨みで退かせる旅は退屈そのもので、自分が転移したあの待ちに到着するのはまだまだ先だ。
現代に帰る為に必要なアイテムは持っているので、心の余裕が有ると、もう少しこの世界を楽しんでみたくもある。
転移したあの日は右も左も分からず、国王の言われるままに身体を鍛え、平和の為に必要な魔力量を確保するのに邪魔な魔王を倒してくることを伝えられた時は、キレ散らかしたことを覚えている。
魔王の統治する国は、とにかく遠い。
何故、魔王なのか。
俺を召喚するのに魔力使ってんじゃねぇ。
特殊な土地で魔力を溜め込んでいるからと言われても、信用できる要素が無かった。
そもそも、この国は他国との戦争で敗北し、国力を下げていたから、英雄が必要らしい。勇者召喚で見事に嵌められた俺は、従うしかなかった。
俺には帰りたい家が有るからだ。
20日ほどの時間をかけて田舎の寂れたギルドに到着し、俺の事を誰も知らない受付にギルドカードを見せて面白そうな依頼を探した。
正直、本当に困っている人の為に何かをした事は殆ど無い。
ギルドって言うのはそういうところだと思っていたのだが、あのバカ国王の所為で酷く歪んでしまったのだ。
名前 シュウイチ・山本 性別 男 年齢22 種族 普人
職業 旅人 Lv 38 ギルドランク +D 登録地 モガルド
記録 薬草の目利き
俺のギルドカードで、実はこの名前が本名だ。
ギデオンというのは国王が勝手に俺に付けた名前で、過去の勇者の名前らしい。
モガルドで登録したのはボルディックが教えてくれた事で、多重登録をしてSランクである事を隠した方が良いと教えてくれたからだ。
確かにカードを提示するたびにギルド嬢の吃驚する顔は見飽きていたから、普通に接してもらえると新鮮味がある。
安物の旅の服を着用し、使い古した愛用のロングソードを提げていれば、見た目通りの反応をしてくれるだろう。
「んー、残念ですけど、あなたに見合った依頼は今のところ無いですね」
「……この猫探しってなんだ?」
「近所の子供が探して欲しいと依頼に来たんですけど、銅貨3枚では足りないって言ったんですけどね……」
「へーっ……」
ギルドに依頼を登録する時の最低価格で、銅貨3枚なら朝飯くらいは食える。
子供の年齢にもよるが、小遣いをはたいたんだろう。
こういうの良いな。
受付嬢に困った笑い方をされたが、俺は気にしない。
はっきり言うと鑑定魔法で動物を見付けるだけならすぐに見つかる。
捕まえるのは面倒だが……。
しっかし、依頼に描かれた絵は猫なのか犬なのか良く分からない生物だ。
「この絵は依頼主が描いたのか」
「……済みません、私です」
ふむ。可愛いな。
もちろん、絵の事ではない。
「まぁ良い、特徴は額に硬くて光るものが付いている……か。その依頼主に今日の夕方に来るように伝えといてくれ」
「えっ?!」
驚く女を無視して外へ出ようとする時、笑い声が聞こえた。
「あんな依頼を受けてカッコつけるバカが居るぞ」
しっかり聞こえたが、無視。
田舎町でもギルドの周辺は賑わっているし、普通の犬猫どころか獣人も多いから、探すのも大変だろう。
鑑定を使う……。
「ほぅ……これは、なかなか……」
鑑定結果が幾つも現れるのは次々と流し、目的の猫は見つかった。
しかし、なんと言うか、飼い猫と言って良いのか、これは。
気配を消して近付くと簡単に捕まった。
こら、暴れるな。
しかし、鑑定結果にもあるんだが。
「おまえ、ケット「しーっ!」」
猫が喋った。
コイツは人語を理解するとても賢い魔物だ。
「妖精だっ!!」
「心を読むな」
「読んでないが、そういぅ顔してただろっ」
否定はしないし、特に用も……いや、少し聞くか。
睨んだら簡単に話してくれた。
「ぼくの事を助けてくれたお礼をしたいだけだ」
お礼というのは、依頼主の母親が病気でマンドラゴラが必要だという事だった。
「父親はいないのか」
「ぼくを助けてくれた時は丁度その父親のお墓の近くだったんだ。しかも、お腹を鳴らしながらぼくにご飯をくれたんだぞ。家に帰ったら有るからって言って……」
まあ、良くある話だ。
父親は元冒険者で、ギルドの依頼にしくじって死んだ。残された妻と子供に生活を支えるだけの収入が無いから、小さい畑と、薬草集めの依頼を受けて細々と暮らしていたらしい。だがその母親が病気になって、薬が必要になった。
「それにしてもマンドラゴラは高級過ぎるな。そんなに重い病気なのか?」
「ぼくは人の病気なんて分からないけど、医者がそう言っていた」
「そうか、なら問題ないな」
「だろ?ぼくが直ぐに取ってきて……」
「ほれ」
ケットシーの丸い目が真ん丸になった。
面白いなあ。
「俺はお前を連れて行かないと銅貨3枚が貰えないんだ。さっさと行くぞ」
「お、おぅ……あ、ぼくが喋れるのは秘密にしてくれ」
鑑定しなくても分かる。
コイツはご主人様が大好きなんだ。
※あとがき
■:モガルドの街
ボルディックの出身地
ゴ・グール伯爵領内にある最大の街
ヒルデスハル辺境伯とは国境を接している
■:ゴ・グール伯爵
レオポルテ帝国に所属する伯爵
現在休戦中
■:ヒルデスハル伯爵(辺境伯)
ロスマノフ皇国に所属する伯爵
現在休戦中




