第042話 敵も魔族
倉庫に保管してある食糧は物凄い悪臭がするので燃やす事になった。他の食糧に感染するのを防ぐ為である。たくさんの人が集まって、燃える食糧を悲しい瞳で見つめていて、子供達はそんな大人を見て泣いていた。
「またもや選択です」
先生が私に言った。
「放置しても構いませんし、全力で助けても良いです」
「辺境伯が関わってなければ良いんだけどね」
「十中八九、関わっていますね」
「ですよねー……」
しかもかなりの高確率で辺境伯と敵対する事になりかねない。
「でもさ、領主だって居る筈じゃない?」
「重要貿易の拠点に成るような町ですから、補佐的な意味でも領主はいるでしょう。ただ、この悪事がいつでも平然と行われるのでしたら領主も期待は出来ませんね」
魔王国でこんな事は許されない。
と、言いたい気分である。
「三日待ってオガサンに会いますか?」
「そうね、そいつが本当に信用出来るか見極める必要があるわ」
少なくとも勇者パーティのメンバーだった者に会うのはこの旅の目的の一つであり、ハニエルには一発殴っている。色々有って仲が良くなってしまったが……。
「ついでに幻影魔法を使う奴を捕まえておきますか」
先生がそう言うと屋根の上から誰か落ちてきた。
もう見つけたの?!
あっさり過ぎて話にならないんだけど。
「いってー……っえ?」
先生が人差し指を宙で滑らすように動かす。
「ハイ確保」
殆どが魔族の住人だった所為で、誰が犯人なのかとても判り難かったとの事。魔族同士での争いは確かにあるが、ココまで悪意を持っているのも、最近では珍しいらしい。
「う、動けん……」
燃え尽きて灰になった食糧を寂しげに見詰めている子供達とは別に、先ほどの宿屋の主人が驚いて駆け寄ってくる。
「誰ですか、こいつ」
「その反応からすると、この町の住人ではないのですね」
「…知りませんね」
「鑑定したら魔族とありましたので、職業も幻術師ですし、他に仲間が隠れているのでしょうけど……」
この町の状況も歴史も詳しくないのでとても判別しにくい。
分かり易く鑑定結果に犯人って表示されれば助かるんですけど。
「ではこの人に全部喋ってもらいますか」
「だ、誰が喋るかっ」
先生の笑顔が怖い。
「喋っては困るような秘密が有るって事ですね」
「ぐっ……」
「誰の命令かなんて、喋れないもんね」
「そうです、そうです」
この二人なんか怖いんだが。
「魔族だからとはいえ仲魔意識も薄いですし」
私のお父様……じゃないにしても、魔王に対しても忠誠心は薄いしなあ。
「喋らないんでしたら……喋りたくなるようにしてあげましょう」
うわー、素敵な笑顔。
「ふ、ふん。喋る訳ないだr……なんだこれ」
「コヨリです」
コヨリさんってどこにいるのかしら?
先生が柔らかい布を細く丸めたモノで、捕まえた男の穴の穴を弄った。
「は・・・はっクション!!」
クシャミをしてもお構いなしに弄り、男はついに鼻水を垂らした。
当然だが喋らない。
「汚いわね」
鑑定するとHPが減っている。
ただクシャミするだけでも、これだけ無理矢理されたら疲れもする。
「自白剤でも打ち込んで無理矢理にでも喋らせますか……」
「そ、そんなもん……や、やめろぉぉぉぉ!!」
「先生ってそんなに危ない薬持ってるの?」
「……持ってませんよ」
今の間は何ですか、先生。
「とりあえず目的が分かれば逆算で犯人も割り出せる可能性は有るのですけど、町を廃墟にしたいのか、物品を強奪したいのかで話は変わります」
「強奪の可能性は薄いのよね?」
「結構な価値が有るモノも燃えましたし」
男が吃驚している。
それを先生は見逃さない。
「マンドラゴラまで燃やしてしまったら目的も果たせないでしょう」
「そ、そんなはずはない。あの倉庫には無かった筈だ」
「そうですかマンドラゴラが目的でしたか」
「うっ……」
「うわー、先生すごーい」
「えっへん」
「じゃあ、確かにこの男はこの町の事を知らないんだな」
「どういう事です?」
「この町を少し歩いたから分かると思うが、マンドラゴラの畑なんて無いぞ」
そう言われれば他の畑はたくさんありましたが、マンドラゴラを栽培しているような畑はありませんね。あれって栽培方法が大変ですし。
「火事を起こし、こちらに町の人の視線を注目させたうえで、マンドラゴラを探しているのでしょう。お嬢様、やりますよ」
「うん、頑張る」
お嬢様と二人で周囲を鑑定する。
商店街に何人か居るようだが、怪しい動きは無い。
「さっきの魔物騒ぎであらかた調べてしまったんでしょうか」
「って事は、外の畑の方?」
「いい考えですね」
町の人達は燃えてしまった食糧を片付けていて、子供達も遊んでいる様子はない。
「鑑定で悪意は測れませんからね、それこそ経験がモノを言う訳ですが……」
町の人なら普段見かけない人を見分けられるのだから、手を貸してもらうしかない。
「そもそも、こいつみたいに見かけない奴なら行動自体にも問題が有るからすぐ分かると思うが?」
宿屋の主人の言葉はまさにその通りで、町の人達は生活に合った行動をするはずで、変わった事をすれば目立つのだ。
でも、そうなると……。
心配そうな表情で近づいてきたのは彼の妻だ。
「ねぇ、あなた……やっぱり」
「あぁ、そうだな……」
「そういう結論になりますよね」
「えっ?どういうことなの?」
先生は短く言った。
「裏切者がいます」
夫婦は悔しそうに俯いた。
「マンドラゴラは育てるのが大変なんです。そして育てられるのは兎獣人だけといわれています。私も試した事が有るのですが失敗して枯らしてしまいました……」
先生が遠くを見ている。
魔王国にもマンドラゴラって無いモノね。
「しかし、よく取引出来ましたね?」
「あぁ、ひっそりと棲んでいる兎獣人が現れたのは俺が生まれる前の事でな、親父が苦労して交渉の末にやっと交換条件を引き出したんだ」
「現れるのも珍しいですが、信用を得るのもかなりのご苦労だったでしょうね」
「まあ、そのマンドラゴラのおかげもあってドードリアで注目されるようになったんだ。それから資金も増えで今の農業も上手く行くようになってな……」
「これは噂なのですが、マンドラゴラをかなりの高額で売っているらしく……」
「高級品ですから、特に驚きはしませんが」
「当時の俺達は相場を知らなかったから、今からするとかなり安く売ってしまってな、少しずつ理由を付けて値上げはしたが……」
何かに気が付いた男は妻を見詰める。
先生も私を見詰めている……。
マンドラゴラ販売からの値上げ。
収穫量の少なさ。
マンドラゴラを使ったポーションを大量に必要とする理由。
入手を急ぐ理由。
金儲けだけが理由でないとするのなら……。
「えーっと……嫌な予感がします」
先生の眉間にしわが寄っている。
※おまけ
兎獣人は排他的な種族で、独自の生活圏を持っている。
あまりにも可愛い種族で、奴隷として特に男性に人気がある




