第003話 継承
大昼間には血の跡も匂いも無く、傷付いた柱や絨毯がその名残を残しているだけだった。俯いたまま歩いてきた少女は、玉座を見て思わず叫んだ。
「お父さん!」
涙が流れる。
流れ出した血は綺麗に取り除いてあるが、片腕が無く、苦渋に満ちた顔はそのままである。
周りのスケルトンを弾き飛ばしてしまった事にも気が付かず、その膝に乗って、父親の顔に自分の顔を近づける。
頬を撫でるように触って、痛みを和らげてあげるかのように、何度も、何度も。
「ご遺体を動かしたかったのですが、命令も無く解らないのでそのままです」
「うん、いいよ。ごめん……ありがとう……」
倒れて崩れてしまったスケルトンは教育係が魔法で直している。
「ちゃんとお別れしないと、お別れ……」
自分の言った言葉で、また涙が溢れる。
零れ落ちた涙はそのままにして瞼を閉じ、頬にキスをする。
それが決意の印であった。
「…え、なに?」
「?」
「うん…」
少女は父親の頭の上に向かって話をしているようで、その内容は解らない。
ただ、魔王の魔力の残滓を感じるので、何かのメッセージだろうとは思う。
「分かった…」
玉座から降りると、こちらを向く。
「あなた達、お父様をお墓まで運んで頂戴!」
スケルトン達が隊長を見ると、目の辺りが怪しく光る。
「大切に運んでね」
命令通り、魔王の身体を10体のスケルトンが持ち上げたが、その脆さから身体が壊れると直ぐに交代し、城外の庭にある母親の墓の前まで運ぶまでに50体ほどの崩れた骨が作られた。
地中にある母親の棺の横を掘り、これもまた別の場所から持ってきた棺に父親を入れる。
「天界ってあるのかな?」
「…ありますよ」
「じゃあ、そこで幸せになれるかな?」
「可能性は否定しません」
二人が天使になれば天界で永遠に生きていける。
それは転生するという意味になるのだが、ほぼ0に近い確率である。
それは娘も承知しているであろう。
そもそも魔族とは敵対関係にあって相容れない存在なのだ。
「お父様、お母様。次に来る時にはあいつら、やっつけるからね!」
土の下に眠る両親に誓いを立てる。
「でも、今の私じゃ勝てないから、ちゃんと勉強するから、見守っててね……」
壊れたスケルトンを直し終えると、神に祈りを捧げる聖職者のような姿勢をしているお嬢様に声をかける。
「継承できたのですか?」
「ちょっとだけね」
何故か少し大人びた表情と、その強い心と言葉に、何かを受け取ったのは間違いなと判断できた。
呼び方が「お父さん」から「お父様」の変化に気が付いたのである。
※あとがき
記憶の継承によって少しだけ大人びてしまった
スケルトンは治療しません
直してます(笑
教育係が期待しているのは自分の呪いを解く事です




