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第037話 聖域の女神

 女神像の前では奴隷達が状況を理解できないまま放置し、その裏手には入口が有り、その入口の部分に手を触れ、特別な人しか知らない言葉をマリアが呟く。


「クラウドっ!」


 その呪文となる言葉に反応して道が開き、中へ入る。

 淀んだ空気が流れるのは古くから使われていないからで、小さな墓標が一つあるだけだ。それは初代聖女の墓で、マリアはその死を見届けている。


「久しぶりに来てみたけど、まさかこんな風になっているとはね……」


 外ではアイシャが聖職者相手に戦っていて、懐かしむ暇も時間もない。

 勿論、負けるとは思っていないから任せたが、こちらはこちらで、相当量の魔力を注がなくてはならない。


「墓に注ぐようにしたのね……もう、意地悪なんだから……」


 その場に座って墓に両手を添えると魔力を注ぎ込むが、逆に吸われるような感覚に変わる。聖域系の魔法が使用されているという話は聞いたが、これを見る限り、効力はかなり弱くなっているだろう。


「逆によく今まで持ってたわね、私以外の誰かが継ぎ足したのかしら?」


 その場で答えが得られない疑問を持ちつつ、減っていく魔力によって肉体の一部が崩れて骨が見える。すぐに戻るのは分かっているが、想定以上に魔力を吸われ過ぎた。

 吸われた魔力が聖女の力に変換されるのを、先ほど手に入れた聖職者の服を羽織って待つ。肉体の半分ほどが無くなったのを確認して、回復まで待つ予定だったが、外での騒ぎが大きくなった。


「小娘相手に何をやっているか!」


 その怒鳴り声は主教ではなかった。

 だが聖職者達をその一喝で動きを止めた。


「ブ、ブリード伯爵?!」

「こんな騒ぎを起こして、主教様はどうした?」


 そう言いつつ、周囲を確認する。

 集められた奴隷。

 倒れている聖職者。

 こっちを見てキョトンとする小娘。

 この小娘がたった一人でやったのか……?


「おじーちゃんも敵?」


 違うと言いかけたその時、全身を心地良い何かが突き抜けた。

 何かは解らないが、良い事があった時の気分に似ている。


「先生かなー?」

「先生とな?」


 雑踏が聞こえ、その音に視線を向ける。

 何故かアイシャに向かって逃げてくるような恐怖に引き攣った表情の聖職者が何人もやってきて、顔中が何かで殴られた痕でいっぱいの主教は、よろよろとしながら逃げて来た感じだ。彼らはどこを見ても倒れた聖職者だらけで、どーにかこーにか、やっとの事で助けを求められる味方を見付けた。


「あっ、伯爵様!」

「は、伯爵殿、あいつらをなんとか……」


 最後にやって来たのはハニエルである。

 

「えっ……伯爵様……?なんでここに……」


 驚いているのはお互い様で、誰がこの騒ぎの犯人なのか、疑いようが無いからである。そこに居る小娘にも驚かされたが、ここでさらにもう一度驚かされる。

 聖職者と同じローブを纏っているが、奴隷と同じ服を着た女性が現れた。その現れた場所が問題なのである。


「聖母マリア様……?」

「違います」


 確かにその女神像にはそう刻まれているようですが、全然違います。


「今、確かに像の中から出てきたような……」

「そいつらは敵です、我々の聖地を破壊しようとする……」


 だが、伯爵と呼ばれた男は確かな違和感を自覚していた。

 それも良い意味で。


「これは聖域か……?」

「良く気が付きましたね、ブリード伯爵家の当主なら当然かもしれませんが」

「おじーちゃん、偉い人なんだね」

「ん、あぁ、偉い人かと訊かれたら違うと言えん立場だが……」


 小娘だと思ったが、急に大人びた視線を感じる。

 なんとも変な日だ。

 遣いに出した者が突然の上客を連れて来たから確認しようと思っただけなのに。


「じゃあ、どうにか出来る?」

「いえ、もう勝ち確なので必要ないです」


 伯爵と知っても必要ないと言い切る女性を見ると、何故かこちらに勝ちを確信させる要素を微塵にも感じられなくなる。

 一見しただけなら可憐な女性にしか見えないのだが。


「とにかく私の命令だ、戦いを止めよ」


 アイシャは先生を見ると、もともと戦意は感じられなかったその目に優しさが戻っている。いつもの先生なのを確認して構えるのを止めた。

 ハニエルはそのまま主教達の横を通り過ぎ、伯爵の前で跪いた。

 奴隷だった時からこの人に悪いイメージは無く、勇者のパーティに参加する事になった時も、邪魔や工作のような事は一切無く、純粋に良い人だと認識していた。

 だから素直に跪けるのだ。


「……ハニエルよ、説明はしてもらえるな?」


 ハニエルは説明をした。

 しかし、全てをそのまま言う事が出来ない部分があり、アイシャとマリア先生については説明しなかった。

 ただし、自分を手伝ってくれた味方であることは付け加えている。

 問題は主教の方達であった。

 それに対する返答は……。


「奴隷の扱いについてはそれぞれの考えが有るのは承知している。どういう扱いを受けるのかは、個々に任せる事にしている。酷ければ死ぬような扱いを受ける事も有るだろう。しかし、そこに私が口を挟む余地はない。伯爵であっても……いや、伯爵だからこそ、この場での発言は内政干渉になりかねない。それは王宮と貴族と政治が関わって来るのでな。済まないが理解してもらいたい」


 その説明はハニエルの予想通りであった。

 簡単に言えば買われた奴隷の生殺与奪の権利は買った者に有るという事だ。

 この聖地でもその程度なのだから、奴隷がどれほど不当な扱いを受けても、それを不当だと周りが決める事が出来ないのである。もしもそれが可能になってしまえば、貴族の立場を利用して、いくらでも奴隷を横取りできてしまう。

 過去にそのような問題で戦争になった事が有る事も考えれば、伯爵程度ではこの場の争いを止める程度しか出来なかったのだ。

 それだからこそ、その場で最も重要な立場の主教様をどうするのか悩ませていた。






※あとがき



■:クラウ・ド・ベネシス


初代聖女となったエルフ

見た目は美少女

しっかり男性

マリアの手を借りてこの地の魔素溜まりを封印する

マリアが旅立った後にマリア像を建てる

何度言ってもマリアがクラウドと呼ぶので

封印の部屋の入り口を開ける呪文の言葉にした

死ぬ寸前に現れたマリアを夢だと思っている


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