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第036話 無駄な戦い

 主教の部屋では、静かな戦いが始まった。

 それは、誰にも語られる事の無い、二人だけの重要な取引である。

 正直、ココまで簡単に事が進むと思っていなかったハニエルは、あの魔素溜まりがどれほど重要なのかを正しく理解はしていない。

 それは主教も同じなのである。

 そして疑問はソコに集中する。


「調べたのなら、あの封印を継続させる方法を知っているのだな?」

「とーぜん」


 実際には、放置すれば封印は自然に解ける。

 そして、魔力を注ぐのは別に聖女の魔力である必要はない。

 ただし、聖女でないと進めない事だけは事実であった。


「あの進めない階段は知ってるわよね」

「……」

「あれは聖女の力で進めない様になっているのよ、解く方法は知っているわ」

「だが、あの封印を保つには膨大な魔力が必要な筈だ」

「そうね。でも、その魔力に私は関係ない。あなた達が欲しいのは私の魔力じゃなくて能力の方でしょ」


 聖女の力は無いにしても、ハニエルの回復能力はとても優れていて、死者蘇生こそ不可能だが、瀕死の重傷者でも元通りに治せるし、誰もが匙を投げる重病者でも治療が可能だ。正しく奇跡に近い。


「……お前は聖女になる素質は無かった。だから紛い物でも聖女にしてやろうと思ったが……聖女でなくとも可能だというのなら何故この世に聖女が存在するのか」


 予想しなかった質問は答えを詰まらせる。

 素質が無い……でも先生は私に言ったわ……。

 でも、そうすると先生も聖女に成れるんじゃ……。

 少し前の疑問に思考を向けると、目の前の事を忘れてしまう。

 危ない、危ない。


「本当にどこかに存在するのかしらね、聖女なんて会った事が無いわ」

「聖女の候補となるべく存在はいる筈だ。でなければ我々が大聖堂を守る理由がない」


 確かにその通り過ぎて反論が思い浮かばない。

 しかも、その理由は、奴隷を使って商売をしている事とは全く関係ないのだ。

 理不尽な気持ちは苛立ちを覚えさせた。


「なら滅びるのね。私としてはその前に避難出来れば良いのよ」

「我々を見捨てる気か?!」


 その言葉はハニエルの決めきれなかった気持ちを決定づけた。


「散々人々を苦しめて見捨てた奴が何を言ってるの?!」


 ハニエルの放つ魔弾の攻撃魔法が部屋の壁を叩く。


「回復魔法は凄いが攻撃魔法は苦手と見える」


 当たらない魔弾に主教が鼻で笑ったが、そもそも狙っていない。

 魔法が壁を叩く音は大聖堂の大広間にも響いた。

 当然、マリアとアイシャにも聞こえる程の威力である。


「……アイツ、本気で壊そうとしてない?」

「壊れても別段困らないので良いのですが、あの女神像がずっと気に成るんですよねぇ……」

「なんかイヤーな予感が……」

「……音が激しいって事はやる気満々です」


 ちなみに、パンツ一丁で横たわる聖職者はそのまま放置している。フード付きのローブはなかなか良い材質のようなので貰っておきます。

 サイズ的には私が丁度……あ、魔法袋を孤児院に置いてきた事を失念していました。


「それをどうしたら谷間にしまえるのよ……」

「緊急の簡易ストレージです」


 すとれぃじって何?


「そんな事より騒ぎが大きくなっていますね。危険察知する意味は無いので、鑑定しますか。お嬢様も練習ですよ」

「わ、わかった。がんばる」


 こういう時のお嬢様は素直でとても可愛らしいです。

 うふふ……このまま育って欲しいモノです。


 二人で鑑定した結果、特に危険な人は居なかった。

 要するに戦闘ではほとんどがお嬢様より格下という事になる。

 なるのだが……。


「先生、汗が凄いんだけど」


 この身体に発汗作用なんて無いんですよ。

 でも、生前の体質というか記憶が、反応してくるんです。

 異常なほどに。


「股の下に水溜まりが出来るのはちょっとイメージが……」


 あの女神像をもっと早く鑑定するべきでした。

 あんな邪魔な場所に設置されている事を考えれば、気が付く人も他に居たはず……例えばギデオンとかも……。


「先生?」

「あ、あの女神像の下に部屋があって、そこで制御できます……」


 先生って……聖職者と関わりが深いみたいだし。

 まさか……ね。


「そんな目で見ないでくださいよぉ……反省してます」クスン


 クスンって今、口で言ったよね。

 声に出したよね。

 反省してないよね。


「地面が……揺れた……」


 その後に爆音が響く。

 震源地はハニエルで、部屋の外はどんどん大騒ぎになり、雑踏も響いてきた。


「あの人達を守りましょう。ここで人質にされると拙いです」

「そうね」


 部屋を飛び出ると、奴隷達を放置して駆け回る聖職者の姿が視界に何人も飛び込んでくる。武器を持つ兵士が主教の居る部屋の方へ向かったのを横目で見ながら、人質にされる前に大人の奴隷達を確保する。

 声を掛けるのは私のような子供ではダメだ。


「皆さん大丈夫ですか」


 先生が声を掛けると振り返った大人の奴隷達に何かの魔法を使っている。


「おい、貴様何をしてっ…んむべっ?!」


 とりあえず転がしておけばいいでしょう。

 …駄目でした。

 次々と現れるので、ここは実力行使ですね。


「お嬢様、魔力を節約したいので全員を殴り倒してください」

「えっ……いいの?」


 なんでちょっと嬉しそうなのかは訊きません。


「武器は置いてきてしまったので素手ですが、イケますよね?」

「ちょーよゆーっす☆」


 たまに戦闘民族になるのなんなんですか。

 てか、もともと戦う方が好きなんですよね、魔族の血でしょうか。


「何が実力行使だ、奴隷が生意k……」


 おおー、バフが無くても顎に一撃で沈めました。

 流石お嬢様。

 奴隷の大人達が吃驚しています。


「ここ任せますね」

「はーい♪」


 お嬢様は迫り来る聖職者を素早い動きで翻弄し、一人を腹に、一人を顎に、その一撃で気絶させています。

 死なせてはダメですが、ここの聖職者は弱すぎます。

 殆どがお金と奴隷目的で集まってますから質が悪いです。

 なので、お嬢様を見ていやらしい目で見ている奴は転がしておきます。


「んべっ?!」

「あなた達は一体……」


 奴隷の人の疑問に軽く応じる。


「少なくとも正義の味方ではないですが、ハニエルのお手伝いをしています」

「何か有ったんですか?」

「今起きてるんですよ、では失礼」


 先生が女神像の裏側に向かって走って行くのを止めようとする寸前で、私が止めた。

 殴り足りなかったから助かる。


「おい、この子供なんか強いぞ……」

「さーて、あと何人来るのかなー?」


 アイシャの周囲には10人を超える聖職者が惨めな倒れ方で気絶していた。






※おまけ



男A「コイツ、可愛いくせして強いぞ

男B「可愛いくせして、なんて力だ

男C「可愛いのに……


アイシャ「なんか気持ちよくなってきたわ……(ゾクゾク


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