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第035話 悪意の笑顔

 孤児院の食堂にこれほどの食べ物が並んでいるのを見た事がない。

買うのだって邪魔されて、なかなか手に入らなかったし、良い商品はすでに売り切れている場合も多かった。その中でブリード商会だけは正規の購入が出来たし、誰にも邪魔されなかった。それは、貴族が運営しているからで、信者としても多くの寄付金を納めているから、主教としては文句も言い難いのだ。

 大人が戻ってこない不安は残されたままだが、暇な時は何をするか決まっているのが奴隷の子供達である。

 家事手伝いで掃除もするが、今回は必要ない。

 水を運ぶのも仕事で、子供達が古井戸から水を汲んでいるのをアイシャは黙って眺めている。

 ハニエルは先生とどうしても二人で話をしたいと言うので、渋々許承諾した結果だ。


「先生を借りちゃって、悪かったわね」

「べっつにー、私だって子供だもーん」


 後ろから抱きしめられた。

 抱きしめたのは先生だった、そのまま耳元で囁く。


「私達の目的自体は終わっています。その上でハニエルの事をどうしたいとお考えですか?」


 重要な質問だというのは、子供の私にだって解かる。


「ちなみに、このままここに居てもあいつらがやって来るのは間違いないです。大人達を人質にハニエルを要求されたら、断る事が出来ません」

「先生はどうすr……」


 抱きしめる力が強くなって最後まで言えなかった。


「その質問にはお答えできません。お嬢様が何を選択しても全力でお手伝い致しますが、大事なのはお嬢様が選択する事です。かなり厳しい事とは思います」

「何もしなかったらどうなると思う?」

「……先ほどの通り、奴隷を守る為にハニエルが犠牲になるでしょう。そして何も変わる事は有りません。主教の思い通りになるダケです」

「……大聖堂を破壊したいアイツの気持ちが理解できちゃうのが癪なのよね」


 きっと魔王様の所為ですよね、それ。


「お父様ならこんな事は絶対に許さないでしょう?」

「否定はしません」

「まぁ、奴隷制度嫌いだったし……」

「もしも、この状況を変えるつもりであっても、奴隷制度を廃止する事は有りません」

「えっ、なんで?」

「だから待遇を改善します」


 理由は説明してくれなかった。

 あとで教えてくれるよね?


「もしかして、作戦って決まってた?」

「お嬢様が見捨てる筈が無いのは分かっていましたから、可能な限り被害の少ない作戦目標を考えました」

「アイシャ、ごめんね」


 先生もハニエルも、急におねーさんみたいな態度になるの狡い。

 狡い、狡い。


「失敗は許さないからねっ」


 作戦はとてもシンプルだった。

 魔素溜まりの秘密と引き換えにするだけだ。

 ただし、それは主教との裏の取引とする為、約束を破った時にどうなるか……、これだけは半分以上が詐欺と脅迫で抑え込むのだ。

 そして、これには信者の協力も必要で、ブリード商会と話をするのはハニエルが行わなければならない。向こうもハニエルの治癒能力を知っているので、恩を売りつけたいだけの魅力がハニエルには有るのだ。でなければ、この作戦は成立しない。

 

「一人の犠牲者も出さずに終わらせたいものです」

「その分効果も薄いけど、私の自由も保証してもらうのが目標なのよ」

「聖女候補で名前も顔も知られてますから、大聖堂の奥に閉じ込められる事を考えれば、街の外に出ないくらいの制約は受けるでしょうけど」


 年長者の指示で子供達が片付けをし、残った食糧は保管庫にしまっている。

 大人達の分も考えると二日分ほどしかないが、長く保管できる乾パンと干し肉の箱が10個入れられた。

 どう考えてもこの量を二日に一度買うとなれば、お金が足りなくなるのは当たり前である。なので個々で食べ物を手に入れる者達も居て、身体を売ってでも食べ物を得ようと考える人達がいるのも仕方のない事である。


「いつもなら何もする事が無いとしゃがんで地面に棒で何かを描いているのが普通だったけど、元気に走り回っている姿を見られるなんて……」


 ハニエルが泣いている。

 当たり前の事が、当たり前ではないのが奴隷だ。

 奴隷の中には悪い事をした所為で奴隷落ちした者もいるが、改善の余地が有る者達がほとんどで、重犯罪者の場合は処刑される。それが女性の場合だと、別の方法で利用される事も有るのは、父親の記憶で理解はしている。

 しているが……キモい。


「やはり子供は元気なのが一番です」

「うん……」


 ハニエルが子供のように泣いて先生にしがみ付き、先生が母親のように抱きしめて頭を撫でている。

 うー、私もっ!!


「二人とも、まだこれからですよ」


 何故かもらい泣きした子供達も集まって、みんなで泣いた。


「あんまり泣くとお腹が空いちゃいますよ」


 先生は困った顔で笑っていた。





 主戦力も何もない。

 戦うワケではない。

 しかし、負ければ命を落とす危険もある。

 子供達には言って聞かせなくてもこの町からは出られない。

 他の者達からは貧困街とか、奴隷町と呼ばれているから、外に出ればすぐに戻されるし、服装もボロボロの服を着ている。寒くても、暑くても、服装は変わらない。

 ……先生って服も買ってたの?

 街の子供達ほどでは無いが、小奇麗であたたか味のある服に着替えていた。

 ハニエルの先生を見る目は尊敬の域に達しているだろう。


「私は大人を連れてきますから、ハニエルには主教の説得を任せます」


 私は?


「お嬢様には奴隷のフリをしてもらいますね。どうせ町の人は奴隷の子供の顔の全てを把握しているワケじゃないでしょう」


 綺麗だがぼろい服に着替える。

 ちょっと肌寒いけど、こんなのを着て毎日過ごしていたなんて信じられない。


「じゃあ行きますか」


 先生が言うと散歩にでも行くような感覚で、とてもこれから大それたことをしようとしているなんて思えない。ハニエルも隠蔽魔法を使わず、堂々と歩いているから、兵士達が吃驚している。

 案の定、すぐに聖職者がやって来た。


「探しましたよ、聖女様」


 まだ聖女では無いが、人目が多い場所では建て前をすごく気にする。


「主教様に用が有るから案内してもらえる?」

「それは構いませんがこの奴隷は?」


 先生も奴隷の服を着ているが……先生を見た聖職者の頬が赤くなる。

 分かり易すぎて反吐が出そう。


「私はこの奴隷を連れて行きますので、他の者を呼んできます」


 こうしてあっさりと大聖堂の中に入る事が出来たのだが、連行されている間、私の見ている目の前で先生のおしりをずっと触っている。

 キモい。

 先生は女神像を不思議な表情で眺めながら歩いている。


「少し時間が有るな、怪しいモノを持っていないかチェックするからな」


 警備兵の狭い部屋に連れ込まれると、そのまま服を脱がされた。

 何も持っていないのを確認すると、先生が溜息を吐いた。


「やっぱり持ってませんね」


 兵士は立ったまま気を失っている。

 そういう先生も魔法袋は置いてきたので何も持っていない。

 騒ぎを起こすのはまだ早いので、暫く待機だ。


「さあ聖女様、主教様が首を長くしてお待ちしておりますよ」


 ハニエルの方では少し真面目な聖職者が現れたようで、部屋まで案内すると、でかい椅子に座った主教がニヤニヤとした笑顔で出迎えた。

 やっぱりキモい。

 聖職者が部屋から出ていくのを確認すると立ち上がった。


「やっと覚悟を決めたか。まだ時間は有るからお前の立場をワカラセてやるからな」

「そんな暇は無いわ、私が居なくなった理由を知らないでしょ」

「なんの話だ」

「誤魔化しても、私だって知ってるわ。魔素溜まりを封印している部屋の事をね」


 ここから先は全て嘘である。


「調べたらあと数年で封印が解けるわよ。私の魔力を使って封印に必要な魔力を補うつもりだったみたいだけど、あれは偽物の聖女の魔力では補えないわ。本物じゃないとね」


 口をパクパクさせて驚いている。

 丸三日も姿を消していたのだから、調べていたと言われると否定する言葉もない。

 そして、主教のみに知らされる秘密を知っているのだ。


「なぜ……知ったんだ」


 やっと出てきた言葉がソレである。


「あのギデオンと一緒に居たのよ。勇者なら調べられるじゃない」


 もちろん嘘だし、存在は知っていても調べた事は無い。

 そもそもギデオンはあまり興味を持ってもいなかった。


「条件は何だ、脅すつもりなのは分かるぞ……」


 ハニエルはにやりと笑った。

 それは主教よりも悪意に満ちた悪魔の笑い方に似ていた……。






※あとがき



アイシャ「いつまで待ってればいいの?

マリア 「合図が有るので、その後は暴れても良いですよ

アイシャ「えっ……?

マリア 「良いんですよ、私達(奴隷含む)に被害が無ければ

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