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第034話 子供の笑顔

 隠蔽魔法のおかげで誰にも気付かれる事なく孤児院までやってきたのだが、大人は働いている時間で、子供達は自由時間である。いつもなら大人と一緒に行動し、仕事の手伝いもするし、昼食の準備もする。

しかし、今日は何も用意されていない。

何故なら配給がないからだ。


「これは一体どういうことなの……」


 子供達がハニエルに気が付いて集まってくる。

 叫び声と鳴き声が混ざった悲痛な叫びだ。


「おっ、おねーちゃん……」


 寄ってきた子供の背に合わせ、ハニエルは膝を付いてしゃがみ、集まるのを待つ。

 しがみ付いて喚くように泣きだしてしまって、話が進む様子はない。

 宥めるのが上手いのは才能だろうか。

 少しずつ落ち着いていき、孤児院の中へみんなで……先生も懐かれてる?!

 なんでー……。


「誰か、説明のできる子はいる?」


 手を挙げたのは女の子だ。


「あ、あの……おねーちゃんの事を捜していると言われたんだけど、分からないって言ったら大人がみんな連れてかれて」

「これは……本格的に狙っていますけど、何か恨みでもあるんじゃないんですか?」


 先生の指摘にハニエルは俯いた。

 奴隷の中でも反抗的で、聖職者として働かされていた時も、特別な治療をさせられていて、汚いモノを何度も見せられて逃げ出そうとした事も有ったが、この子達を見捨てる事が出来ず、今もこの地に残る決意も、ギデオンの影響を受けてグラッグラに揺らいだこともある。

 あのまま魔王を斃さず、旅を続けても良かったと、複雑な後悔も有るのだった……。


「帰って来るべきじゃなかった、私はあの時に殺されていたら、どれだけ幸せだったんだろう……」


 それはもう後悔などでは無い。

 生きる事も、捨てる事も、全てが苦痛なのだ。


「アンタ、もしかしてあの日に私達と出会ってなかったら……」

「しょうがないじゃない。私ひとりじゃ守り切れないし、病気も飢えも、ギリギリだったのよ。魔法が使えるからって万能じゃないのよ」

「お金ならお城から奪った宝があるでしょ?」


 お嬢様が冷たい。


「お金なんてとっくに全て無くなったわよ。それに売れるようなモノは殆ど無かったから、ギデオンに渡したし」


 売れない……うっ、頭が……。


「アンタ、私よりも無謀な事してるじゃないの」

「う、うるさいわね」


 反論の声も弱々しいです。

 しかし、この子の問題を解決させようとすると、大聖堂だけじゃなく、貴族も敵に回すんですよね。

 魔王国領内であれば問題にしませんが……。

 おや、お腹の音が。


「食べ物も無いのよね……」

「貴女に味方をしてくれる有力貴族はいないんですか?」

「いる事はいるけど……ギデオンがいない今じゃ、少し弱いわ」


 勇者のネームバリューは凄いですし、今はパーティを抜けているとなれば、確かに弱いですね。


「この近隣で狩りが出来る場所は有ります?」

「聖域魔法の所為で魔物が寄ってくる事は無いわね、狩りにも時間が掛かるわ」

「ギルドの依頼にも良いのは無かったもんねー」

「お金さえあれば売ってくれる商人なんていくらでも居るけど、そのお金もないから」

「商人って、そんな事するぐらいですからかなりの豪商か、裏取引ですよね?」

「そうね。私はその辺りに何故か信用してもらえたから」

「それはそうでしょう、イザという時に助けて貰えそうな人とは仲良くしたいものです。それより、その商人と連絡は可能ですか?」

「……アザム・ブリードって知ってる?」


 知りません。

 知りませんが……。


「ブリード家って貴族商人なら知ってますが、まだ生き残ってたんですね」

「そのブリード家よ。本当かどうか知らないけど数千年の歴史を誇ってるわ」

「先生、まさかいつものパターンなの?」

「流石に生きてませんから私の事を知っている人は居ないでしょう」


 子供達の元気がみるみる無くなっていきます。

 大人の会話が聞こえると、子供は口を挟みません。

 特に奴隷の子供は余計な会話は禁止という教育が普通なのですから。

 可愛そうなので頭を撫でておきます。

 母親の経験は無いですが、子供の笑顔は癒されますね。

 お嬢様が同じことをしても反応は薄いです。


「……その商人はこの街に居るんですよね?」

「えぇ……」

「じゃあ、貴女これと似たように刻印のカード持ってませんか?」


 先生が袋から取り出したのは角が欠けた古いカードだが、それでも刻印された紋章に見覚えがある。


「これ、ブリード家の紋章じゃない。なんで先生が持ってるのよ」


 ハニエルに先生って呼ばれました。

 もう、なんで私の生徒に成りたがる人って、こうも強引なのでしょうか。


「そのカード貸してください。その貴族なら私のお金が使えますので」


 先生の目がキラキラしている。

 子供達も綺麗なおねーさんの力強い言葉に何かを期待したようだ。




 約1時間後、沢山の箱を乗せた馬車がやってきた。

 先生がにっこにこで御者台から降りてきて、荷物を下ろすのを、もう一人の男にやらせている。


「使えました。しかも少し買い取って貰いました」


 先生がほくほく顔だ。


「ちょ、ちょっと……これってかなりのお金が必要な量じゃないの」


 子供達が自然と箱を運んでいる男を手伝う。

 男の方としても慣れているようだ。


「ハニエルちゃんが久しぶりに買い取ってくれるって言うから心配したけど、凄いお金持ちと知り合ったんだな」

「金持ちって誰が?」

「それは私です」


 ドヤ顔のお母様ってなんかなあ……。

 子供達が先生に集まっている。

 孤児院の中では箱の中を見た子供達が大喜びだからだ。


「ねー、たべていいのー?」

「いいのー?」

「もちろんです。みんなで分けて食べるんですよ」


 子供達が大喜び。

 なんで私の手を引っ張るの……ああ、確かに私も子供だけどさ。

 子供達が用意する食器もナイフもフォークも、全部汚いんだけど……。

 

「そこで浄化魔法です……今回は私がやっておきます」


 ふわっと優しく満ちていく魔力は孤児院の全てを綺麗にした。

 ただし、古いのが新しくなる訳ではないから、埃で埋まっていた隙間がたくさん現れた。それも綺麗に埋まっていく。

 先生の魔法はどうなっているの……。


「なんと言うか、ギデオンも規格外だったけど、先生も規格外よね」

「アンタ先生なのかい」

「そうですが、違います」

「まぁいいや、保存食はどうするんだい?」

「それは私が受け取ります」

「あいよ。じゃあ、また良い取引したくなったらブリード商会に頼むよ、古代金貨を社長が気に入っていて喜んでるんだ」


 そして馬車は帰って行くと、子供達が手を振って見送る。

 素直な気持ちで、本当に、嬉しそうに。

 ハニエルは心の底から先生に感謝している事を態度で示したかったが、それは先生が許さなかった。何しろここに居る子供だけで50人くらいいるから、準備と配膳で大忙しのお嬢様を放置するワケにいかなかったのである。







※おまけ



 子供は食べる時にはしゃぐ。

 美味しくて踊る。

 スプーンを持って歩きまわる。

 食べ物をこぼす。


マリア 「お嬢様の昔の事ですか?

アイシャ「………

ハニエル「(苦笑)



■:ブリード商会


貴族が経営する商会

マリアがこの世界にやって来た頃に設立された

古い歴史を持つ

特別な客と認めた者には貴族の紋章を刻印したカードを渡している

裏取引や闇取引もするが、ちゃんともみ消すだけの地位と能力もある

ブリード伯爵家


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