第033話 だれの責任なのか
こっそりと案内をし、マリアの求める場所へとやってきた。
ハニエルもこの部屋の事は詳しくなく、魔素溜まりが有るという噂しか知らない。
それ以前に、何かの危険を感じたことも無い。
誰も近寄ってこないので隠蔽魔法を解く。
魔法制御にまだ甘さがあるので消費が激しいのでしょう。
「兵士の警備は手薄なのね」
「財宝が隠してあるのかと思って調べた事は有るのだけど、あの階段より先は進めないのよ。結界なのかな」
先生が鑑定している……。
「ああ……これは危険ですね。あと30年くらいで解けるでしょう」
「そんな先の話なら放置しても良いんじゃない?」
「30年なんてあっという間ですよ?」
何故かハニエルと目が合ってしまった。
「これって封印が解けたらどうなるのよ」
「高濃度の魔素が柱の様に放出され、周囲に魔素を喰らう魔物が降ってきます」
「魔素を喰らう魔物ってあんた達の領分じゃないの」
「誤解ですね。私個人は殆どが魔素で生きてますけど、魔素を喰らうのは魔素を取り込む、ただの凶悪な魔物ですよ」
どこが違うのかしら?
「魔素喰らいに知性は有りません。言語も容赦も有りません。そして生きている意味もありません。ただ、魔素を喰らうだけです」
先生は、まるで体験したみたいに話している……。
「魔力の高い者が優先的に狙われるって事?」
「それは無いですね、目の前で魔素を保有する生物を発見したらすべて喰らいます」
「そんなのが世界に12個あって、ここはあと30年くらいで封印が解けるって、危ないじゃない。他のトコロはどうなってるの?」
「予想ですけど、知らない人が多いのでかなり長い年月放置されていたと思います。ここでは兵士が居るだけマシというモノですが」
他の場所の魔素溜まりも気に成るところだが、気にしても仕方がない。今まで平和だったからと言って安心できる理由はない。
まるで魔王国のように……。
先生がスタスタと歩きだし、行き止まりという階段を進む。
「この階段、途中で進めない……ですよね」
「先生は普通に進んでるけど」
「あの人が魔王に成ったら解決するんじゃないの」
「駄目だけど同意したい……」
「何をしてるんですか?」
にっこりとした笑顔が怖い。
でも、その先生の歩みが止まった。
「ここから先は本物の聖女の魔力でコーティングされてますね。触れないと分からないですけど」
先生が指でツンツンしている。
ハニエルと私も真似をする。
「わかんない」
「なんとなく」
「ハニエルは聖女になる素質がありますね、まだ素質ですけど」
「それより、聖女の魔力が施されているのなら問題は?」
「ありません。というより、私達では何も出来ませんので諦めましょう」
ふわっと、何かの魔力に包まれた。
先生の隠蔽魔法だ……。
すっごく薄いし、掛けられているのも普通では気が付かないレベルだ。
「……先生、よろしくお願いします」
ハニエルが頭を下げた。
それはそれは、とても丁寧に。
「残念ですけど、聖女に育てる自信はないですよ」
大聖堂に戻ると、たくさんの奴隷が集められていた。
みんな悲しい表情をしている。
大聖堂と言えば、普通なら祈りを捧げるのだろう。
確かに奴隷達は女神像に向けて祈りを捧げている。
その内容は聞こえてこない。
「あなたの事を呼んでいますよ。ですが、分かっていますよね?」
ハニエルは頷いた。
隠蔽魔法が掛かっているから誰からも気が付かれずに、この場を離れる事が出来る。
私達は素通りして大聖堂の外へ向かったのだが……。
「やりましたね、あの呪文は……」
先生が睨んでいる。
ハニエルも睨んでいる。
どういう事?
「あれは治癒魔法でしか治せない病魔を呼び寄せる呪文です」
ハニエルの怒りが凄い。
しかし、先生の隠蔽魔法はそれすらも隠してしまうほど完璧だ。
「すぐに聖女様をお呼びして救って貰うのだ。お優しい聖女様は見捨てる事なんて出来ないでしょうな」
嫌味たっぷりに笑った男は、奴隷の女性の肩をいやらしく触っている。
あの男は、さっき主教と話をしていた奴だ。
ムカつくので転ばせておきましょう。
「ははは・・・むべっ」
足を滑らせたかのように、顔から床にツッコみました。
「だ、大丈夫ですか」
同じ信者に助けてもらって立ち上がる。
鼻血が出ているので回復魔法をかけて貰ったようだ。
そんな事で魔法なんか使わないで欲しい。
「解ってますよね?」
先生が笑っていない。
姿を現せばそれで済むのだが、そうすればハニエルの計画は全て消えるだろう。
奴隷達の中にはハニエルと同年代もいる。
同年代という事は、あの奴隷時代を一緒に過ごした仲間だ。
今でもあの奴隷だけが住む町の孤児院に行く彼女だから、苦しむ姿を見たら助けるのは当然である。
「あいつの所為で反抗する奴隷も増えて困っていた。これで少しは懲りるだろうさ」
奴隷達が心の中で祈っている言葉。
(お願い…来ないで…)
(頼む…来るな…)
その声は誰にも届かない。
「そろそろ気分が悪くなってくるだろう。感染ると困る、少し離れろ」
大聖堂の大きな広場のど真ん中。
外からの信者を立ち入り禁止にしているらしく、新たに人は入ってこない。
男性が一人、苦しみだして倒れた。
女性が一人、激しい咳で痙攣した。
瞬く間に……あれ?
「この状況で治癒魔法は使えませんが感染は防ぎました」
「先生の魔法で?」
頷いた後のハニエルに向けた眼には強い力がある。
「良いですか、少し手を貸しなさい。指導してあげます」
ハニエルは言われるままに先生に手を差し出すと、その手に指先で魔法を施す。
「すっ……凄い……この魔力の流れは……」
私には何も分からなかったけど、確かにハニエルは魔力を乗せて何かをした。
すると、咳が止まった。
苦しさが消えた。
聖職者達が驚いている。
奴隷達も驚いている。
「さあ、今は逃げましょう。あいつらは貴女を手に入れる為なら人を殺すでしょう。だからこそ、今は逃げましょう」
先生の言葉の重さに気が付いて、ハニエルが何度も振り返りながらも、私達は兵士の間を抜けて大聖堂を出た。そのまま向かう先はギルドではなく、あの孤児院である。
孤児院では子供達が集まっていて、外も中も人で一杯だ。
そして、聞こえる声は泣くのを我慢する嗚咽であった。
※あとがき
信者「お前ら、何をやったんだ
奴隷「何か出来るワケないだろ
(しかし、ハニエルの魔法を受けたような気がするんだよなあ……)




