第032話 大聖堂の治癒院
と、言うワケで、大聖堂の治癒院にやってきました。
聖女様は隠蔽魔法で気配を消しているだけで、私達の横に居ます。
治癒院でどういう悪徳な事をしているのか、教えてくれるそうです。
私は知っていますけど、お嬢様には良い経験かもしれませんね。
あれ……この気配、ヤバいです。
何がって……ヤバいです。
大聖堂を壊したい理由って……そういう事でしたかー……。
「アンタ、変わり者だったのね」
「……勝手に進んでますが?」
「入る者には門を閉じる事は無いの……」
来る者返さず。
理由は知っていましたが、ココまで酷いとは。
「あっちは旅人や冒険者の治療をするところ。まだマシな方かな」
反対側は、何かの病気に侵されている者達。
老人が多いですが……ただの老人ではありません。
服装からすると殆どが貴族のようです。
「ちょっと、鑑定は控えてね。気付く者が少しは居るから」
「そのようですね、私も鑑定されましたよ。弾きましたが」
「バレてないわよね?」
「そんなミスはしませんし、おj……アイシャの方もブロックしておきました」
「器用な魔力制御ね、勉強になるわ」
「今は真似しない事をお勧めしておきます」
私には出来ないって事ね。
それなりに極めたつもりだったけど、魔力制御って奥が深いモノね。
「あれって……なに?」
お嬢様が見ているのは、治療を終えた人達の……子供が売られていますね。
自分が助かる為に、子供を売る。
子供を助ける為に身体を売る。
そんなに高額なんですか……。
ちょっと腹が立ってきました。
わたしー、ちょりょうしてもー、なーんにも、もらったことないんですけどー……。
「先生の威圧感が……消えた?!」
足元が揺れる。
って、地震……。
じゃなくて、先生の震えが震源地なの?!
「ふぅ……危なく暴走するところでした」
「だ、大丈夫だよね?」
「大丈夫です。ちょっと世界を滅亡させたい気分になっただけですから」
「あなたの先生って怖いわね……こっち見たらブチ切れるんじゃないかしら」
なにを見せる気なのよ……。
通路を曲がる直前に身体に何か魔力が纏わり付く。
「隠蔽魔法ですよ。かなり高度なので目の前で喋っても気が付かれないくらいです」
「へーっ……」
「いいから、こっち」
付いて行くとドアは開いていて、中はとても広い何本もの太い柱が立っていて……大聖堂と繋がっているのね。
見た事もない巨大な祭壇に、美しい純白の女神像が鎮座している。
もちろん。何の魔力も感じない。
……先生が女神像を見詰めている。
そんなの興味あったっけ?
「これは信者用。本物はあの扉の奥だけど……今回は反対側」
今度は扉が閉じているので、信者が出入りするのを待って、一緒に入る。
忍び込むの上手いわね。
いきなりの怒鳴り声だ。
「聖女は何処へ行った?!」
振り返る視線が二つ。
てへぺろしているのは先生ではない。
「魔王を斃したというから聖女にしてやろうというのに、あいつは立場というモノが分かってないようだ」
「奴隷あがりなんて信用できないと思いますが……」
「治癒院のルールも理解せず、金にもならん奴隷なんかばかりを助けおって……」
(あいつ、なんなのよ)ヒソヒソ
(アレがココの、大聖堂の主教よ)
(聖地アルファディルの主教といえば、昔から貴族の味方とは言われていましたが)
(かなりの資産も隠し持っているという噂もあるんだけど、何処に有るのかも謎よ)
一人が使うにしては大き過ぎるデスクと豪華な椅子。
その椅子に座っているあの男は、どう見ても聖職者に見えない。
主教の左右にはおじさん好みのグラマラスで肌が透けて見えそうなほどの薄くて白いローブに身を包み、給仕のような事をしている女性が二人。
隣の部屋で料理を作っているのだろうか、良い匂いがする。
「勇者に入れ知恵されているだろうが、そんなものは関係ない。明後日はお披露目をする夕食会が有るのだ、それまでには連れ戻してこい」
指示を受けた男は丁寧にお辞儀をし、逃げるように退室した。
(え、アンタ何日逃げてるの)ヒソヒソ
(……三日ぐらい)
(この主教、殺したら解決じゃないんです?)
(そう思うわよね、フツーは)
(そこの女性達は見て見ぬフリすると思いますけど)
(主教って一人じゃないのよ……)
(あー……なるほど、だから建物を壊したいと)
(どういう事なの、先生)
この大聖堂の建て前としては聖女崇拝と女神信仰が有るが、宗教としては世界中のどの宗教にも所属しておらず、契約の女神などが信仰対象である。
職業を司る女神によって教会はその力を拝借して人々に適合する職業を与える役目を負っているのだが、その力を利用する方法を発見し、拝借ではなく、まるで自分達の力であるかのように示し、その力によって世界中で教会を増やし、多くの人々に職業を与えてきたのだ。
当然だが、マリアのように自分で変更出来る者も僅かに存在するが、そのような者は教会に引き込まれるか、暗殺されるのが常であった。
何しろ教会を通さずに職業変更できると言うのは、すぐに噂になるので、ギルドを使えば冒険者達がすぐに見つけ出してくれる。
(先生も狙われるって事?)ヒソヒソ
(職業を変更する女神には残念ながら会った事が無いのですよ)
(とんでもない事をサラッて言うのをやめて欲しいわ)
そして主教は世襲ではなく、投票によって選ばれるのだが、勿論、不正な投票も過去に多く存在する。主教に成ればこの街で最高の権力を得られるだけでなく、周辺の貴族達も頭を下げて治療を求めにやって来るのだ。時には国王でさえも……。
(これで侵略に興味を持ったら大変ね)ヒソヒソ
(持たない選択肢は無いと思いますよ。ただ、聖職者が味方をする領地に攻め込むバカは居ません。勇者くらい強ければ可能ですが)
(倒した筈の兵士が翌日には無傷で戦場に現れるのよ、恐怖以外の何物でもないわ。ギデオンだって相手にしたくないと諦めたのよ)
既に世界の常識として歴史に刻まれるほどなのだが、主教になっても本当の理由を知らない者が殆どだった。
それは、ここに大聖堂が建てられた理由で、魔素溜まりを封印する為である。
魔王不在で管理する者が居ない魔王国領は、このまま放置していればいつか封印が解けてしまうかもしれない。
(城の方は部下が管理してますので心配は無いですが、不測の事態というのは何処にでもありますので)ヒソヒソ
(怖いコト言わないでよ、大丈夫だよね、先生?)
にっこりとされた。
た、多分大丈夫よね。
「聖女の魔力も必要だというのに……」
なるほど、この人は知っている側でしたか。
そうなれば魔力を利用する為に聖女として、人身御供にする予定だったと。
これは先に調べておく必要がありますね。
魔素溜まりの魔力が放出されてしまえばあっという間にこの土地は魔物で埋め尽くされるでしょう。魔素を喰らう魔物は厄介ですからねー……。
(ハニエル、先に調べる事が出来ました。案内してください)ヒソヒソ
扉が開いて閉じたのに、誰も現れなかった事を不審に思った主教だったが、食事の匂いに気を取られ、すぐに忘れていた。
※おまけ
アイシャ「先生が言う、条件が揃えばって、どんな条件なの?
マリア 「かなり厳しいですよ。多分、殺しても死なないので、結界で封印したうえで、魂を焼く必要があります
ハニエル「そもそも結界が効かないと思うけど?
マリア 「でしょうね
アイシャ「殺しても死なないって、言葉としておかしいんだけど
ハニエル「勇者ってそういう理不尽な存在なのよ
マリア 「自滅を待つのが最良です
アイシャ「……どうしろと




