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第030話 表と裏と、光と闇と

 アレだけの威力で殴られたハニエルですが、今は平然としています。

回復魔法だけでなく、治癒魔法も掛け合わせていて、吹き飛んだ時に失った前歯も修復していました。この人なら魔王の一撃を受けても耐えられそうです。

 うーん、かなり恐ろしいですね。

 まぁ、お嬢様の一撃が弱すぎたというのも有りそうですけど。


「凄い音だったと思うけど、誰も来ないわね」

「結界を張っているから孤児院の外に音は漏れていないわ」

「へー……」

「それで、私に会いに来たんでしょ。用事は?」


 殴られたのだから、ムスッとしていても当然だが、怒るのを我慢している。

 お嬢様は適当な椅子に座ってテーブルに両肘を付いた姿勢で、両手に顎を乗せた。


「……あのバカの居所」

「あー、ギデオンね。どうせ帰れないと思うからほっといてもいずれ会えるわ」


 帰れないというのは元の世界に戻れないという意味で、戻れないから、いずれ会おうと思えば会えるという事である。


「ふーん」

「あなた達、驚かないわね?」

「知っていたというより予想通りなので。逆にあなたが知っている方が不思議です」


 少し考え込む表情だったが、息を吐いて諦めた。


「……私の母親はが転生者なのよ。だから知ってたわ」

「その母親はどうしたのよ。転生者ならまだ生きてるでしょ」

「領主に騙されて殺されたわ。強姦されて生まれたのが私。そして生まれてすぐに売り飛ばされて、この地で育った……」

「ああ、良くある話ですね。きっと領主の為に戦っていたけど、強くなり過ぎて邪魔になったんでしょう」

「先生。それって、そんなに良くある話なの?」

「過去、この世界に転生者は何人も現れています。もちろん転移者も。殆どは生き残っていませんけど」


 苦みを籠めて笑ったハニエルは、勝手に今までの人生を語り始めた。

 ここで4歳から飲み水を運ぶ仕事で働き、6歳で小物運び。10歳で料理の手伝い。13歳で慰めの相手を始め、16歳で自分の力について気が付いた。

 母親の魔法技術が継承されていたらしく、治癒魔法に優れている事を知った。


「その能力によって奴隷から解放され、奴隷を働かせる指導側に回って色々知る事が出来たの。母親が転生者だったこと、この世界が腐っている事と、滅びた方が良い事も。ギデオンに助けられなくても、私は一人でこの土地を抜け出したのでしょうけど、あの男は本当に化け物だったわ。大聖堂の主教を一睨みで黙らせたんですもの。その後に私はパーティに入った。それから魔王国領に入るまでに紆余曲折はあったけど、魔王を斃さないと元の世界に戻れないとの話を知った時は、この人も騙されているって……気が付いたのよ……」

「……」


 ミシミシと音がしているのは、お嬢様がテーブルを肘で押さえつけているからです。

 もう少し我慢してくださいねー。


「色々とやりたい事があった私は、ギデオンに頼んだら、意外にもあっさりと協力してくれたの。この世界に来てから騙される事に慣れていたから、同じ悩みなら手伝うって。国を三つ一人で滅ぼしたって言うのよ、信じられる?」

「へーっ、苦労してたのね」


 皮肉たっぷりのマスタード濃い目ですね。

 10歳とは思えない威圧感ですが、ハニエルは平然としています。


「殺されると思ったのだけど、私を生かしてどうしたいの?」

「べっつにー、アンタ達と同じ様なバカに成りたくない。それだけよ」

「そう。たしかにバカだったわね。たった一人の望みを叶える為に魔王を殺してしまった事は後悔しているわ。でも、あの時の私には止められなかった……」

「ギデオンは今の世の中なら世界に10人くらいしか勝てる者はいなさそうですね」

「ぇっ……いるの?」

「条件さえ揃えば私でも勝てますよ、あの程度なら」


 視線がイタイ。

 なんでお嬢様まで睨むんですか……。

 必要条件が有るんですって。


「色々と話してくれたから教えてくれない?」

「ああ、貴女は鑑定が使えないのですね」

「使えませんけど……」

「じゃー鑑定させてもらうわね」



名前 ハニエル・山下 性別 女 年齢 26 種族 普人

職業 聖職者 Lv79 筋力25 魔力115 敏捷35 魅力120

HP997 MP1095

所持 結界の杖

特殊技能 生命の女神と契約 治癒LV3



 思ったりより普通ですね。

 いや、治癒LV3って絶命寸前の人でも完全に治せる回復力ですよね……。

 ああっ……女神と契約だなんて……。

 狡いっ!!


「先生って、危機感ないよね」

「まぁ、死なないというか、死んでますし、危機感がちょっと」

「……あの時の骨……もしかして、転生者なの……?」

「正確に言うと転移者ですけど」

「なんで死んでないの」

「いえ、死んでいますし、多分このまま生き返ることは無いでしょう。私はこの世界で死ねない存在なのです。肉体は無くなりますけどね」


 死んでいるけど生きていないし、死んでいる。

 先生の言う事は難しいです。

 ふぅ。


「骨だって肉体の一部だと思うけど……それより、貴女、もしかして……」


 なんかこのパターン……何度目でしょうか。


「マリア先生ですか」

「……ですよねー」


 お嬢様の視線が冷たいです。

 てへぺろ出来ないっ……。


「それで、どこで私の事を?」

「母を指導した人との話を聞いたことがあります。教えてくれたのは同じ聖職者でしたが、マリア先生の指導を受けた人はだいたい聖職者を辞めてしまうので噂に成っていたんですよ」

「……それ、本当に私ですかね?」

「1000年以上前から噂は有ったようですけど」

「せ・ん・せ・いー」


 ひぃぃ?!


「最近はどこかに消えたって言われてたけど、魔王国領に居たから会いに行けなくなったんですね」

「そんな事ありましたかねー……」


 目の中をぴちぴちと魚群が通り過ぎている。

 先生は長生きし過ぎなのよ。

 死んでるけど。


「あーっ……転生者の回復魔導士って……もしかして……」

「申し訳ないけど母の事は知らないの。記憶の一部にすら残ってないわ。転生者ってのも教えて貰ったから知っているだけだし」

「話を聞いたら疲れちゃったわ、宿に帰りましょ」

「そ、そうしますか……」


 暇になったら宿に会いに来てもらう約束をして、その夜は解散となった。

 ……なんか納得できないです。







※おまけ



ハニエル「思いっきり殴られた。あんなに魔力で強化したのに……あの程度なのね……

     恨みも憎しみも、感じなかった。

     なんなのあの子……。

     

アイシャ「そう言えば私の事を話すの忘れてたわ

マリア 「また会えるみたいですし、大丈夫でしょう

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