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第029話 聖地の孤児院

 ―聖地アルファディル―


 多くの信者が訪れ、聖女が現れるのを待っている。

 世界を救い。

 信者を癒し。

 希望を与え。

 艱難辛苦を消し去る……。




 入国はすんなりと通り、聖地の正規兵が門の周辺を守っている。

 出発する商隊の殆どは聖地の聖職者と似た服を着ていて、商人も信者なのだ。


「結局は救世主待望論なんですよね」

「キュ…ケ…?」

「自力で解決できないから他力本願するタイプの人達の事です」


 こういう時の先生はちょっと怖い。


「ですが、清潔感は凄いですね。ゴミ一つ落ちて……」


 旅人は多い。

 冒険者は少ないと思ったが、ギルドの方に集まっていて、こちら側は少し汚い。

 集まっている理由は、聖女誕生を祝う催しが有るからで、別にその日が誕生日と言うワケではない。

 千年近く不在の聖女がこの世に現れた事を誕生と言っているダケである。


「まぁ、聖女ではないのですけど、みんながそう思えば聖女にも成れるんですよね」

「先生のアレで無理矢理聖女にする事が可能じゃないの?」

「可能ですけど……うわべだけの何も出来ない聖女が誕生しますよ」

「鍛えてもダメなの?」

「試した事は無いので知らないですねー……アイシャが聖女になりますか?」

「絶対ヤダ」


 露店は少なく、純粋な旅の商人もギルド側に居て、人は多いが活気が低い。

 ここに来た私達の目的は、聖女に祭り上げられる予定のハニエルに会う事。

 人が多過ぎて鑑定が使えないとなると、とにかく情報を集めるしかない。

 近くの人に聞いてギルドの場所を教えて貰い、小さな広場の前に佇むように建っているのが聖地の冒険者ギルドだった。


「年季が凄いわね」

「古民家を再利用したような建物ですね」


 中に入る前から賑わっている声が中から聞こえる。

 少し大きな扉を開いても注目はされない。

 食事をしている人が多いのが理由のようだ。

 カウンターを無視してそのまま依頼の貼り付けられている壁へ向かう。

 街の規模からしても依頼は少なく、討伐系は殆ど無い。


「街がしっかり守られているから退治する必要はないし、聖地の兵が門をしっかり守っている証拠でしょう」

「へー」

「聖女政祭……こんな所でも宣伝ですか」


 先生は不機嫌で、依頼を諦めると受付へ向かう。


「どのようなご用件ですか?」

「聖女様のお姿を見たいのですけど、お祭りが始まってしまっては会えなくなりそうで、遠くから眺めるだけでも良いので、何処か良い場所を知りませんか?」


 田舎からやってきた旅人風を装っているらしいけど、このセリフのどこに違いが有るのか、私には分からない。

 受付の女の人は少し考えていたが、応える前に横から声を掛けられた。


「あんた、あんな偽物聖女に会いたいのか?」

「にせ……もの?」


 あの綺麗な顔で悲しい表情をする先生の演技力が凄い。

 先生に抱き付くと、横槍を入れてきた男が苦みを籠めた表情に変わる。


「ただ強いだけで聖女に成れるんなら他にも候補ぐらい居るだろって、そう思ったダケだ。悪かったな」

「ハニエル様に会いたいのでしたら、裏の孤児院に行けば……もしかしたら」

「あいつはあんなコト忘れちまったよ」

「裏の孤児院というのは?」


 横槍男と受付の女性が顔を見合わせる。


「今夜はやめた方が良いですよ、貴女みたいに綺麗な人が行くとどうなるか……」

「場所ならこの辺の住人なら誰でも知ってる」


 直接教えてくれないのは何故でしょうかね。

 お嬢様に私の演技を付き合わせてしまったし、このまま続けておきますか。


「あの、でしたら宿を、一晩お願いできますか?」

「お二人とも同じ部屋でしたらすぐにご用意できますよ」

「それでお願いします」





 その日の深夜。

 当たり前のようにこっそりと宿を出る。

 浮遊魔法で屋根の上に昇ると、先生の目が怪しく光った。

 本当は危険な事だけど、今じゃないと次にいつチャンスがあるか分からないので決行すると説明してくれた。

 夜風は少し寒く、外套を巻いて凌ぐ。


「かなり酷い地区がありますね……飢えと病気で苦しんでいます」

「聖地なのに?」

「労働奴隷が殆どのようですね……居ました。あの人達の様子が変でしたので調べて正解でしたね」


 裏の孤児院の周囲は枯れた土地と乾いた井戸があり、建造物も殆どが木で出来ている。石壁が塀のように取り囲んでいて、外からは見れないようになっていた。


「お嬢様、これはよく見ておく事です。あのような人が何故存在するのか。あのような人を何故助けないのか。これは人の心の闇です。」

「ハニエルがその孤児院に居るのよね……」

「えぇ……」


 大聖堂の在る聖地アルファディルには数多くの信者と聖職者が居る。

 だか、大半の建造物は彼ら奴隷によって建造されている。

 選ばれた者は選ばれなかった者を下に見る。

 そこに人権は存在しない。

 ギリギリで生かしておくことで反感を持たせない。

 生きていられるのは働く事だけ。

 産まれた時からの常識。

 壁の向こうを知らない。

 知ってはいけない。


「私は知り過ぎた……」

「そうね、知り過ぎましたね」


 気配を感じなかったハニエルが驚いて振り返る。


「この人が、あの時のハニエル……」

「じゃー、とりあえず一発殴るね」

「えっ?」

「えっ?」

「筋力増強、一点集中、全力全開、会心の一撃!!」


 お嬢様のパンチで吹き飛んだハニエルは、孤児院の壁に激突し、深夜に轟音が響き渡った。ついでに歯が3本ほど抜けて悲しい表情に。


「な……なんで……」

「お嬢様……やり過ぎです」

「この人はこれで許してあげるつもりだから良いのよ」


 すっごい笑顔です。

 育て方を間違えましたかね……。

 魔操師じゃなくて魔闘士ですよね。

 えぇ、やっぱりこっちの方が合っています。





※あとがき


ハニエル「殺される覚悟はしていましたけど、殴られるとは……

アイシャ「あースッキリしたー!!

マリア 「良かったですね

ハニエル「貴女、もしかしてあの時の骨?

マリア 「気が付いていましたよね

ハニエル「あんだけ敵意を向けなかったら気が付くわ

マリア 「なるほど……


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