第016話 約束
男の子をどうするか話し合う必要もなく、トレインが引き受けていた。
骨ばーちゃんを知っているし、この子の特殊能力について先生から教わったので、育ててみるのも良いと思ったかららしい。
もともと見捨てる気は無いので、別の街まで連れて行く予定である。
「おねーちゃんも、家族が殺されちゃったんだね……」
「そう。だから泣きたかったらいつでも泣いても良いのよ」
「うん……」
先ほどの魔王のような優しい威圧は無く、今はただの優しい娘だ。
「お嬢様」
「なぁに?」
あの時のお嬢様は子供には見えなかった。
いまはさらっと風に靡く長い髪の毛に、可愛らしい顔が見え隠れする。
母親の面影がありますね。
「あの口調、あの威圧。まるで魔王様のようでしたが?」
「お父様の記憶を一部継承しているの」
それは勇者達の手によって腕を斬り落とされたり、トドメの一撃を受けた時の記憶も有る。
継承の中に無いのは痛みだ。
哀しみや喜びは一部が残っていて……。
「でもね、何故か知らないけど、お母様とイチャイチャしている記憶も有るのよ」
口調が大人びたり子供っぽかったりで、まだ記憶の整理は出来ていないのでしょう。
頬が赤くなって子供らしさ全開です。
可愛いですね。
トレインが困っていますので助け舟を出すとしますか。
「そんな事を知りたいのではないのでしょう?」
「あ、はい。実は……」
なるほどもそんな約束がありましたね。
契約とも言いますが。
子供相手なのでそう言ったのでしょう。
「大丈夫よ。ちゃんと記憶にあるわ。でも、今の私では約束は出来ないわ」
「次期魔王候補ではないのですか?」
「候補に過ぎません。必ず次の魔王になると決まった訳ではないのです」
「そう…ですか……」
トレインの残念そうな表情は他の部下にも伝わったようで、ざわざわと小声で話し合っている。先生の言葉に疑う事も無く受け入れているけど、このトレインって先生より強いわよね?
「トレインも魔王候補でしょ?」
「……わたくしは魔王に成る気が有りません。王城に居て自分のやりたい事も出来なくなると困る事も多いので」
魔王に成りたくないと言うと、成りたくても成れない者達から反感があるだろうが、この男ほどの実力があると、魔王職というモノを軽く見られてしまいそうで、逆に困る。
「確かにねー」
「納得しないでくださいよ……」
トレインのステータスは……ふむふむ。
魔王に成れますね。
でも、その気は無いと。
「相変わらず遊撃隊の隊長ですか」
「街を襲った人間どもを許す気は無いですが、だからと言って人間が嫌いなワケではないのです」
「十分承知していますよ。二十九代目の魔王の息子ですしね」
「じゃあ、安心して魔王領を任せられるじゃないの」
「ええ、その為に魔王に成らなかったのですから」
「じゃあ、暫くは魔王不在が続くのね。代理とか駄目なのかしら?」
「駄目です」
先生の視線が冷たい。
いや、目は無いんだけど、とても冷たい。
トレインの方も困り顔のようね。
「いないのでしたらそのままの方が良いです。今は不用意に魔王を名乗ると面倒な事になりますので」
「ところで、他の候補って何人も増えるの?」
「もちろん増えますよ。魔王は魔の者を統べる者ですが、種族に制限はありません」
制限が無いのなら勇者だって魔王に成れるって事よね。
それはそれで良いのかなぁ?
「世襲ではないので簒奪も有りましたから。まぁ、直ぐに次の代になりましたけど」
「先生って歴史に詳しいよね……」
「先生ですから」
「先生だもんなー」
二人とも仲が良いわね。
「それで、どうするんです?」
「もちろん、忠誠を誓います!!」
「は、え、なに?」
トレインが跪く姿勢になると、部下達も一斉に倣う。
「我々は、アイシャ・ブルダイン様に忠誠を誓い、今後も魔王国領の平和と安定に努めます」
「なんでー?!」
「魔王様以前よりこの土地を守っている一族なんですが、先ほどの話の通り、父親が魔王になってしまいましたので、引き継いでいるのです」
「てか、勝手に誓っちゃダメでしょ?」
「構いませんよ。特に制約もありませんし、顎で使っても怒りません」
「そ、そんな事はしないわよ」
「とりあえずは、この街の復興をしなければなりませんのでご許可を……」
瓦礫で作った野営地があるだけで、あとは崩れたままで悲しい景色だ。
「なんか、色々と説明して欲しい事があり過ぎて困るんだけど」
「はい、では勉強会ですね」
私とトレインの表情が歪んだ。
そうか、先生の事を知ってるから……。
先生の授業は厳しいから……。
※あとがき
名前 トレイン 性別男 年齢 117 種族魔族と人間のハーフ 職業 警備隊(隊長)
HP 7500 MP 2500
備考:マリアが転生者で元人間なのを知っている




