第011話 生存者
掃除をして綺麗になった部屋で、壊れていない唯一のかまどに火を入れる。それだけで生活の温もりが感じられた。
スープを作り、熱すぎず冷めすぎず、炭火を上手に調整して子供の目覚めを待った。
そして、名も知らぬ家主に借りる事を告げ、ベッドで寝ようとした時に声が漏れた。
「起きた?」
「そのようです」
目を擦りながら、辺りを見回す子供。
部屋はかまどの火しかなく、とても暗い。
「おねぇちゃん?」
返事を待たず、立ち上がって、よろよろと歩く。少なくとも半年ほどは寝ていたので、アイシャを自分の姉と勘違いしているのだろう。
涙を流すと、抱き付いた。
「ママが、ママが、あっちで、痛そうにしてて……」
「もう安心して良いわよ」
「うん、おねえちゃん、お姉ちゃん……?」
「どうしたの?」
感覚の違いに気が付くと、顔を上げて、目を大きく開く。
「……お姉ちゃん、誰?」
身体が震えるのを強く抱きしめて止める。
「やーだ、はなして!」
暴れる子供に負けずに抑え込む。
ここで離してしまったら何処へ行くか分からないからだ。
「はなして!」
暴れる子供の力とは何故ここまで強いのか。
顎に3回ほどパンチを喰らって、手を離してしまった。
「あぅっ……」
ペタンと座り込んで悲しい顔をするので私も少しお手伝い。
まあ、出入り口の扉を塞ぐだけですけど。
「怖くないから、ね?」
あの優しい笑顔は、まるで母親のようです。
なんというか……魔王様の趣味なんですかね?
ワカリマセン。
「ママー!おねーちゃーーん!うゎーーーーん!!」
もう一度抱きしめると、今度は大人しくなった。
諦めたのか、受け入れたのか、泣き止むまでわからない。
泣いて、泣いて、鼓膜が破れるんじゃないかと思ったが、耐え抜くと、今度は抱き付いてきた。
男の子とはいえ、まだ甘えたい年頃だろう。
「よしよし、いい子ねー」
頭を撫でると更に強く抱き付く。
何かに怯えるように、身体を震わせている。
「お話しできる?」
鼻水がたっぷりお嬢様の服に付いているが怒らない。
ハンカチを取り出して、丁寧に拭きとってから椅子に座らせる。
自分の方もささッと綺麗にした。
清浄魔法が上手くなりましたね。
「……」
「どうしたの?」
「……」
ふわっと良い匂いがする。
それは先生が火の番をしているスープの入った鍋から漂ってくる。
お腹のすっごい大きな音が部屋に響いた。
「いいよ、お腹が空いてるなら遠慮しなくても」
「……」
具の少ないスープを渡すと、頬を赤くしながらもガブガブと食べるのは、身体が生きる事を求めているからだ。心だって温めてくれる。
男の子は泣いたまま食べ、元気が出ると涙を零す。
お代わりもきっちり要求してきたので、もう大丈夫だろう。
空腹が満たされると、涙を拭いて頷いたが、涙は止まらない。
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして」
辛い思い出が有るのは分かる。
こんな所で一人にされているのだから。
男の子はしばらく無言で、ほとんど動いていない先生を見詰めている。
鼻水を盛大にすすって、ごっくん。
うえぇぇ……。
ともかく落ち着いたようです。
「骨ばーちゃんじゃないよね?」
「骨ばーちゃん?」
「この町でスケルトンをたくさん操ってるばーちゃんなんだけど、ばーちゃん生きてるのか死んでるのか分からないくらいガリガリでね、みんなから骨ばーちゃんって呼ばれてるんだ」
「では、この町にはスケルトンが沢山いるのですね?」
骨が喋っても驚かないところを見ると、慣れているのだろう。
「うん。僕とおねーちゃんもスケルトン達に守ってもらって家に逃げたんだけど、そのあとにママがやって来て、ここにずっと居なさいって。だからおねーちゃんと待ってたんだけど、今度はパパが来て僕とおねーちゃんに良く眠れる魔法をかけてくれたんだ」
「じゃあ、外の事は知らないのね?」
「町中で勇者が来たって叫んでて、人間の勇者が家を壊しながら進んでくるのは見てたよ……」
魔族は人間から恐れられているのはお父様の知識だが、魔族も人間を恐れている。
例えそれが子供でも。
「僕、おねーちゃん探してくる!」
「ダメです」
そう言って扉から出ようとする子供を先生が止めた。
もちろん止まらなかったが、壊れた扉が固定されているかのように動かない。
「理由は知りませんが人間が沢山やってきます……」
※あとがき
具が少ないスープなのは嫌がらせじゃなくて
胃に流しやすくするための先生の気遣い
男の子
名前はホゥディ(マリア先生は鑑定しているので名前が分かる
魔族の子供
この町で唯一の生存者で6歳
特殊技能 攻撃するとダメージが3倍になる




