第010話 最初の街
「ちょっと………なによこれ!?」
お嬢様の怒りが満ちている。
私にも怒りの感情があった事を思い出せるほどに。
「ほとんど壊滅してるじゃないの?!」
そこに在ったのは街の跡だったからだ。
家のカタチをしていただろう建物。
酒場だっただろう木の扉。
道具屋の割れた看板。
武器を持ったまま倒れた人々。
すでに血の臭いはしない。
ここには破壊された結末しかないのだ。
「魔王軍の兵士の生き残りはいないようですね」
生きていたとしても逃げ出すだろう。
「あの勇者にやられたとみて間違いないです。魔王領に居るのは殆どが魔王様の味方ですが、必ずしも勇者の敵ではないですし、仲の良い人族も居た筈で、悪さをする魔物でもないのですが……」
悲しい気持ちになった。
魔王を倒しに来た勇者に殺されたのだから、違う見方をすれば、魔王の為に死んでいった仲間なのだ。
「酷い、子供でも容赦なしなのね」
腐り始めている目を開いたまま、口から流した血が固まっている。その子供は母親らしき者に抱かれている。
母親らしいというのは、首から上が無く、性別しか分からないからだ。
鑑定すれば分かるかもしれないが、そんな気分じゃない。
「先生は何をしているの?」
魔物どころか動物もいない大通りで、先生は何かを拾い集めている。
「僅かですけど魔石魔物もいたみたいです。小さいから見逃したのでしょう」
魔石魔物とは、召喚ではなく魔石に含まれる魔素から簡易的に作り出す魔物の事である。魔物を倒せば魔石に戻るし、術者が死んでも魔石に戻る。魔石が小さいという事は作り出された魔物が弱いことから、逃げるのに使ったと思われる。
「逃げきれてると良いのだけど……」
あの日から半年以上が過ぎている。
魔王城には来訪者が一人もなく、この辺りの魔族はほぼ壊滅状態なのだろう。
だから、どこかで逃げのびて生きてくれている事を祈っている。
「鑑定は使っていますか?」
お嬢様は首を横に振った。
10歳には辛過ぎる光景なので仕方がない。
これは私がやるべきでしょう。
「先生?」
「居ました!」
「え、なに?」
まるで知っているかのようにするすると狭い通路を通り抜けていくと、被害の少ない家に辿り着いた。先生が扉を開こうと、骨の手で触れると扉が壊れた。
手の指も折れた……。
「人影は無いわね?」
「そこです。すみませんが私には持ち上げられないのでその棚をどかしてもらえますか?」
「これ?」
棚を退かすと穴が開いている。大人が一人縦に入るのにギリギリの大きさだ。
「見えないですけど、6歳ほどの男が死ぬ寸前です」
「入って大丈夫?」
「鑑定しました、問題ありません」
お嬢様は服が汚れる事など気にする事もなく、穴にストンと落ちた。
シマッタ、高さを考慮していませんでした。
「いてて・・・居たわ。これ魔法がかけられているわね」
「睡眠魔法ですね、解除しますので……上がれますか?」
暫しの無言。
「無理ね。穴が小さすぎてこの子を抱えては上れないわ」
「浮遊魔法をかけますのでその穴の下に立ってください」
「こうかしら?」
「子供を頭の上に」
両手で子供を頭の上に持ち上げられるくらい軽くなると、フワッと浮いて、先生の目の前に出てきた。
浮遊魔法は高度な割に利用価値が少ない魔法で、移動手段に使われる事が殆ど無い。
「この子……」
心配そうな表情のお嬢様は、立派にお姉さんの顔をしています。
「お任せください」
子供を床に横たわらせると、先生が魔法を唱える。
地下では暗くて見えなかった傷が消え、浄化魔法で綺麗になったが、ボロボロの服は消えてしまった。あまりの汚さに浄化されたのだ。
布を巻き付けてローブのようにし、睡眠魔法を解く。
かなり高度なのか、先生が苦労しているように見えた。
「この魔法を解除するのに失敗すると目を覚まさないのでなかなか危険な術なんですよ。動物が冬眠するように寝ていますから、目が覚めてもすぐに動けるかどうか……」
子供の弱々しい呼吸が、寝息を立てるくらいに変化した。
「成功しました。あとは自然に目を覚ますのを待つだけです。今日は、ココで休みましょう」
※あとがき
「その袋便利ね?」
「なんでも無理矢理入れられる魔法の袋です」
「鍋釜、薪、料理道具に食材、何でも出てくるわね」
「寝具やテントも有ります」
「その口でどうやって入れたのよ。……なんか、うにょーんって伸びた?!」
「暇だったので改良を重ねて500年くらいかけて作りました」
「それ何年前な話なの?」
「……さあ、いつでしょう?」
(分かりやすく言うとドラ〇もんの四次元ポケット)




