プロローグ
2025/12/21
よろしくお願い致します...
魔界の奥深く、魔王の居城の大広間では数時間に及ぶ激闘が続いていた。
血肉が飛び散り、柱は削られ、美しかった絨毯にも魔物の生首が転がる。
四天王を斃し、徘徊する魔物を斃し、やっと1対4にまで追い込んだというのに、数的有利を得られている感じがしない。
「武器を破壊し、魔力も尽きている筈なのに、なんであの魔王は戦えるんだ?!」
魔王の右手には細長く鞭に似た硬質のロッドが握られている。
ヒュンヒュンと空を切り裂く音が鼓膜を叩く。
本来は武器として使う予定ではなかったのだが、今は武器が無いので仕方がなく使っている。
(娘の誕生日の為にお揃いの釣り竿だったんだがなぁ……)
繰り出される武器から発生した真空波が勇者達に襲い掛かり、ついでに床や柱も抉るように破壊する。
(あまり壊すと後が面倒だな……)
苦渋を満たした表情で抵抗する魔王に、好機と見たボルディックが叫ぶ。
「ハニエル、俺を回復しろ、攻撃を引き受けるからオマエに任せるぞ!」
「こっちもこれで最後だからね、ヒーリングっ!」
傷だらけだった屈強な肉体と、それを包むボロボロの鎧。
盾は欠け、武器は柄を握るだけで先端に刃は無い。
「お前が勇者だ。俺にも、仲間にも無理なんだよ、ギデオン!」
魔王に突撃する男は空を斬るほどの攻撃を受けて再び傷が増えた。
魔王の持つロッドが肩に刺さった時、その攻撃が止んだ。
(抜けない、ワザと受けたな……)
ボルディックは好機を作った事によって、汗と血を流しながらも、歯を食いしばってニヤッと笑顔を作る。
無言の連携で魔導士が輝く宝石を先端に付けた杖を勇者に向けた。
「これで決めてくれよ、ハイブーストっ!」
魔法の効果で攻撃力が上がる。
筋力が数倍にもなり、高く飛び上がってから振り下ろされる。ギデオンの持つ伝説の剣が、疲労した魔王の鎧と右腕を斬り落とした。
(シマった………)
魔王の断末魔が大広間に響き渡る。
失われた片腕の傷口から血が噴き出る。
力が抜けていくのか、苦痛に歪みながらも片膝をついて耐えている。
(来るな……)
「やめ……!」
聖職者のハニエルが僅かな声に気が付く。
子供の声?
こんな所に?
周囲を見回しても死体しかない。
気の所為…?
「流石に、もう動かない……よな?」
「いや、僅かに動いているが、とどめを刺す気にはなれないな…」
重戦士のボルディックが、自分の肩に刺さったロッドを引き抜くと、血が噴き出る。
傷口を睨みつけながらも、抜いたロッドを地面に投げ棄てた。
ハニエルが駆け寄り、魔法ではなくポーションを使って傷口を塞ぐ。
そこに、うめき声がかすかに聞こえる。
「あ……うぐ……い……しゃ……」
魔王は動き出した。
再び傷口から血が噴き出ると床に広がる。
瀕死の魔王が動いたのは抵抗でも反撃でもなく、求めるかのように玉座へ向かってゆっくりと歩く。
勇者達は警戒して注視したまま動けず、座るまで凝視していたが……。
(すまない……)
魔王はが息を大きく吐き出して両眼を閉じると、動かなくなった。
勇者達が死んだのを確認し、その他にもいくつかの確認をしてから互いの顔を見る。
各々の想いを籠めた喜びの笑顔を見せあい、激闘を終えた部屋に笑い声が響き渡る。
小さくもない声で会話しながら魔王城を堂々と出て行く勇者達は、宝物庫の宝箱は開けられなかった一つを残して殆どの宝を持ち去った。
※後書き
勇者 ギデオン (+Sランク冒険者)
重戦士 ボルディック (Sランク冒険者)
聖職者 ハニエル (ギルド未登録)
魔導士 オガサン (Bランク冒険者)




