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第9話:思わぬ再会

 ギルド内のドアを開けると、ゆったりした廊下に出た。


「廊下の奥にある階段で二階に上がれる。二階は集会所と宿になっている」


 サイラスの説明を聞きながら廊下を通り、更に奥にあるドアを開けるとそこが酒場だった。


「わあ、広いですね……」

「たまに貸し切って会議に使ったりもする」


 酒場は百人くらい入りそうなゆったりしたスペースだった。

 午前中のせいかすいており、マリサたちは適当な丸テーブルに座った。


「せっかくだから何か頼むか」

「お酒以外もありますか?」

「ああ。お茶やジュースもある」


 メニュー表をもらったマリサはまじまじと見つめた。


「すごいたくさん! 飲み物も食べ物も迷いますね!」

「せっかくリンダがおごると言っているんだ。好きなものを頼むといい」

「でも、朝ご飯を食べたばかりなので……」


 だが、珍しいものを食べてみたかった。


「私、バラのソーダとキャロットケーキにします」


 市場調査も兼ねて、マリサは注文を決めた。


「俺は――」


 言いかけたサイラスのところにリンダがやって来た。


「ごめん、サイラス! ちょっといい? 新しい討伐隊の依頼が来てて……」

「わかった」


 サイラスが立ち上がる。


「ちょっと話を聞いてくる。一人にするが、店員に言付ことづけておくから心配するな」


 そう言うと、サイラスはグラスを磨いている店員に声をかけて出ていった。


(すっごく気を遣ってくれている……でも、それだけ危険ってことなのかな)


 サイラスがいなくなると、途端に周囲の視線が気になる。

 酒場とあってか、客は男性ばかりだ。

 ちらちらとこちらに向けられる視線が痛い。


(怖い……誰も声をかけてきませんように)


 祈るような気持ちで、マリサは肩をすぼめた。


「お待たせしました」


 エプロンをつけたウェイターがトレイを持ってやってくる。


「こちらバラのソーダとキャロットケーキになります」

「どうも」


 注文した品が置かれても、ウェイターは席を離れなかった。


「……?」


 不審に思って見上げると、ウェイターが目を見開いてこちらを見ていた。

 まだ若い二十代の青年だ。


「えっ……マリサ様? 聖女のマリサ・レーデンランド様ですよね!?」

「っ!!」


 本名を呼ばれ、マリサは慌てて口に手を当てた。


「やめてください! 今はただの一般人です!」

「えっ……じゃあ、あの噂は本当なんですか? 追放されたって……」

「あの、失礼ですが、あなたは? ルーベント王国出身なんですか?」


 まだ若いウェイターがハッとした表情になる。


「僕はヒースと言います。もともと、ルーベント城の厨房で働いていました」

「!!」


 やはりルーベントの人間だったらしい。

 しかも王宮で働いていたという。


「給仕の仕事もしていて、マリサ様のことは何度かお見かけしていて……」

「そうなんですね」


 最果てとはいえ、ここは誰でも来られる町だ。

 ルーベント王国の人間がいてもおかしくないが、よりによって自分のことを知っている人間がいたとは不運だった。

 マリサはため息をこらえた。


「私、騒がれたくないんです。どうか、元聖女ということは秘密にしてください」

「わ、わかりました」


 ヒースはまだ何か話したげな様子だったが、仕事中ということを思い出したのか、名残なごり惜しそうにしながらも離れていった。

 ようやく一人になり、マリサはほうっと息を吐いた。


(よかった……サイラスさんがいない時で……)


 マリサが敵国の聖女だと知ったら、サイラスはどんな反応をするだろう。


(殺されるとは思わないけど……追い出されるかも)


 今のマリサは何も持っていない。

 頼れるのはサイラスだけだ。


(それに、もう追い出されるのは嫌……)

(ごめんなさい、サイラスさん。でも、私はもうただの一般人だから許して……)


 マリサはしょんぼりと注文した品に口をつけた。

 どちらも美味しかったが、ヒースの視線が気になって味わうどころではなかった。

 しばらくして、サイラスが戻ってきた。

 片手にはカウンターで手渡されたアイスコーヒーを手にしている。


「悪いな、待たせた」

「いいえ。用件は無事に終わりました?」

「ああ。最近、下層にいる強い魔物が二層まで上がってきて困っているらしい。第二層の討伐依頼だ」


「二層って……?」

「入り口に面した場所が一層だ。その下にあるのが二層。少し深いが階段で行ける。第二層までは人も多いし、冒険者以外の商人もいるし店もある」

「そうなんですね……」


 ダンジョンに関してはまったく知識がない。

 マリサは興味深くサイラスの話を聞いた。


「第三層からは強力な魔物が増える。腕の立つ冒険者しか足を踏み入れられない領域だ。もちろん、時には死者も出る」

「そんなに危険なんですね……!」


 そんなものがすぐ近くにあることにぞっとする。


「魔物がたくさん外に出てきたらどうなるんでしょう……」


 オバケキノコに遭遇したときの恐怖を思い出し、マリサは体を震わせた。


「そのために冒険者ギルドがダンジョンを管理している。いつも門番がいるしな。たまにオバケキノコのような好奇心旺盛な魔物が抜け穴から外に出るが、簡単に討伐できる」


 サイラスがじっと見つめてくる。


「うまくできていてな、強力な魔物はダンジョンの外に出てこない。どうやらダンジョンには特別な魔力が充満しているようで、強い魔物ほど影響が大きいようで外に出たがらない」

「そうなんですね……!」


 マリサは少し安堵した。


「だが、例外があるかもしれない。だから二層に上がってきた魔物は討伐するようにしているんだ。今回は手こずっているようで、報酬がいい」

「引き受けたんですか?」

「ああ。開店準備に何かと入り用だからな」

「危険では……」


 強力な魔物と戦うなど、聞いているだけで恐ろしい。


「大丈夫だ。二十人以上の討伐隊を組む。いずれも熟練者や腕の立つ者ばかりだ」

「すいません、私がお荷物なせいで余計に……」

「いや、俺はここに来てから冒険者を生業にしてきたし、定期的に戦わないと腕が鈍るからな。気にする必要はない」


 素っ気ない口調だったが、サイラスの優しさが染みた。

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