第7話:憧れのカフェ
「カフェですか……?」
目の前の無骨な元騎士と、可愛らしいカフェが結びつかない。
サイラスがカップに口をつけながらうなずく。
「ここは冒険者が多い。疲れている彼らがホッと一息つける場所を作りたいと思ってな」
「そうなんですね」
確かに需要はありそうだ。
そのとき、マリサは異変に気づいた。
サイラスが恥ずかしそうに横を向き、赤くなっている。
「やっぱり変か? 俺みたいな無骨な人間がカフェなどと……」
「い、いえ全然!」
意外と言えばそうだが、サイラスの細やかな気遣いを思うと合っている気もする。
「この町は酒場ばかりでな。誰もが酒を飲んで陽気に騒ぎたいわけじゃないと思うし……」
(なるほど……)
どうやらサイラスは、自分がくつろげるような場所をイメージしているらしい。
賑やかで雑然とした店よりも、静かで落ち着ける場所を好む人も多いだろう。
(私もそんな店の方が好き……)
「いいと思います!」
マリサは力強く言った。
「そ、そうか……」
「じゃあ、くつろげるような内装にしなきゃですね!」
「内装……」
サイラスが首を傾げた。
「テーブルと椅子があればいいんじゃないのか?」
「えっ」
マリサの顔色が変わったのを見て、サイラスが不安そうな顔になる。
「その……俺はあまりカフェというのがわかっていなくて……」
「はい」
「お茶をゆっくり飲めればいいと」
「でも、冒険者にも女性はいますよね?」
「? ああ」
「なら、少し優雅なテーブルクロスとお花はほしいです!」
「は、花?」
サイラスが愕然とした表情になる。
「はい、実は私、この町でカフェを開きたいと思っていたんです」
マリサはそっと目を伏せた。
(その夢は遠くなってしまったけど……)
「なので、少しはカフェ開店のお手伝いができると思います」
マリサはじっとサイラスを見上げた。
「私をこのカフェで雇ってもらえませんか?」
「……!」
サイラスが驚いたように目を見張る。
「きみ……カフェが好きなのか?」
「はい! 故郷に憧れのカフェがあって……休日の楽しみで。お店に入った途端、気分が変わって、くつろげて、美味しいお茶とスイーツがあって……そういうお店を目指したいんです」
マリサは休みの日のたびに行っていた、憧れのカフェを思い浮かべていた。
聖女の仕事以外で自分に何ができるのか、何がやりたいのか、と考えた時に浮かんだのがカフェだった。
まったりと新天地でカフェを営む――そんな夢を見てサニーサイドに来たのだ。
「カフェに詳しいんだな……そうか、女性客も来るとすれば……」
サイラスが首を傾げて何やら思案する。
「もともと、誰か一人雇おうと思っていたんだ。まだ開店準備中で、給金は少ししか出せないが……よかったら」
マリサは目を輝かせた。
「はい!」
いきなり全財産をなくしたときは絶望したが、住む場所があり、カフェで働けるなんてとても幸運なのではないか。
こうしてマリサは新天地での生活のスタートを切った。