第6話:サイラスの店
翌朝、マリサは真新しいベッドの上で目を覚ました。
(ありがたい……)
ふかふかのベッドのおかげでしっかり熟睡できた。
旅の間、まともなベッドで寝ることなどほぼなかったのだ。
その日のうちにベッドを手配してくれたサイラスに、感謝の気持ちでいっぱいだ。
(黒騎士ってどんな恐ろしい人かと思ったけど、すごく穏やかで優しい……)
マリサは顔を洗い、着替えて階下に向かった。
(サイラスさんは台所かしら? 物音がする……)
どうやらとっくに起きているようだ。
「おはようございます」
階段を下りると、マリサは台所に入った。
「おはよう」
調理台の前にサイラスが立っている。
(わあ、魔石を使った調理道具……! 最新式だわ)
「……魔石の炎が珍しいか?」
あまりにまじまじ見てしまったせいか、サイラスが尋ねてくる。
「え、ええ。辺境なのにすごいですね」
「ダンジョンでは魔石が取れるし、この町は今潤っている。そこらの国よりずっと最先端のものが揃ってる」
サイラスは顔色一つ変えずに、フライパンから目玉焼きとベーコンを皿に移す。
「そうなんですね、すごい……」
「狭くて悪いが、ここで朝食でいいか?」
台所の脇のスペースに小さいテーブルと丸椅子が置かれている。
「引っ越したばかりで家具がまだ揃ってないんだ」
「いえ、全然!」
ちゃんとした部屋で眠れたうえに食事まで出してもらえるとは破格の待遇だ。
(ありがたい……!)
「簡単なものだが、食べてくれ」
サラダに目玉焼きとベーコン、それにパンが置かれる。
ちゃんとした朝食に驚きつつ、マリサは遠慮無く食べ始めた。
「美味しいです!」
こちらも全然期待していなかったので、とても驚いてしまった。
「お料理上手なんですね!」
「……そんな大したものではないが、うまい飯を食べると元気が出るからな。俺の部隊では食事に力を入れていたんだ。どんなに疲れていても、うまい飯があると士気が上がる」
マリサは少し驚いた。
とっつきにくく見えるサイラスだが、どうやら面倒見がいいタイプのようだ。
しかも、マリサが尋ねたことにはきちんと答えてくれる。
「食後にチャイをいれるが……きみも飲むか?」
「チャイ?」
「……俺の国の騎士が好む紅茶だ」
「紅茶は好きです!」
「そうか」
サイラスが立ち上がり、ティーポットに沸かしたお湯を注ぐ。
(お茶までいれてくださるなんて……!)
感激したマリサだったが、自分が何もしていないことに気づいた。
「わ、私、お皿を洗います!」
「助かるが、チャイを飲んでからでいい。冷めてしまう」
カップに入った紅茶が運ばれてくる。
「いただきます」
カップに口をつけたマリサは目を見張った。
「甘い……!」
「砂糖をたっぷりいれた紅茶がチャイだ。戦場で疲れた時によく飲んでいた」
「目が覚めますね!」
強烈な甘さに、寝ぼけていた頭がしゃっきりする。
「あの、サイラスさん」
マリサは昨日から気になっていることを聞くことにした。
「一階でなんのお店をやるんですか?」
「カフェだ」
「えっ!!」
思いがけない言葉に、マリサは思わず声を上げていた。