第55話:決着
ナディアはすぐ駆けつけた警備員に捕らえられた。
気を失ったナディアの手足は縛られ、応援に来た警備隊によって運ばれていく。
「ナディアはどうなるの……?」
「オーエンに訊いてみるか。まずは手当だ」
マリサはサイラスに連れられ、病院で手当を受けた。
特に縫合は必要なく、しっかり包帯を巻かれ、傷口がふさがるまで安静にするよう言われる。
サイラスに付き添われ、マリサは冒険者ギルドの建物を訪ねた。
用件を伝えると、すぐさま二階の応接室に案内された。
「やあ、大変だったね。落ち着いたと思ったら、刺客がやってくるなんて」
オーエンがふたりにソファを勧めながら労うように言う。
「ええ。すいません、警備隊のお手を煩わせることになってしまって」
「いいや、構わないさ」
オーエンが軽く手を振る。
「ところで、事情を聞かせてくれるかい?」
マリサがナディアについて話すと、オーエンは上機嫌になった。
「ルーベント王国の聖女か……! しかも陰謀の黒幕。これはいい!」
「あの、ナディアは今どこに……」
「地下の牢に入れている。意識は戻ったが、ぐったりしているね」
「そうですか……」
マリサはホッとすると同時に悲しくなった。
「ナディアはこれからどうなるんですか?」
「ルーベント王国に引き渡すよ。ちょうど指名手配されているみたいだしね。これでルーベント王国に恩も売れる」
「……」
ナディアの処遇は祖国に任されるようだ。
「妥当な判断だな」
納得がいく結末だったようで、サイラスがうなずく。
オーエンがちらっとマリサに目をやった。
「悲しそうだね、マリサ」
「そうですね……」
ナディアの犯した罪は重い。極刑を免れないだろう。
陥れられ、殺されかけたというのに、マリサはつらい気持ちになった。
「ナディアともっと話していたら、こんなことにはならなかったかもしれないって……」
「きみは人がよすぎる!」
サイラスが顔を歪めた。
「こんな目に遭わされて……許されるなら俺が斬り殺したいくらいだ!」
「ごめんなさい……」
「いや、責めているわけではないが……」
サイラスが困ったように目を伏せる。
「心配なんだよ、きみが」
オーエンがくすっと笑う。
「ナディアの引き渡しが決まったら、また連絡する。きみたちは家に帰ってゆっくり休んでくれ」
オーエンの言葉にうなずき、ふたりは冒険者ギルドを後にした。
マリサは道すがら、ちらりとサイラスの手に目をやった。
「サイラスさん、手の甲の刻印のことなんですが……これまでも飛び出すことはあったんですか?」
サイラスが首を横に振る。
「いや、あんなことは初めてだ」
サイラスが包帯を巻いた手の甲を見つめた。
まるで元からアザだったかのように、刻印はしれっと元に戻っていた。
「刻印はまるで俺の意志を代弁するかのように、ナディアを攻撃した……」
「呪いっていったい何なんでしょう……」
「わからない。だが、俺の感情と呼応するくらいには一体化しているとみていいな」
苦い笑みを浮かべ、サイラスが手の甲をさすった。
「いつか――乗っ取られなければいいが」
「そんなこと、させません!」
マリサはきっぱりと言い切った。
「私が――なんとかします!」
まだ穢れの刻印については謎が多い。
だが、体や心に異変を来す以外の事象もあると知った。
(もっと文献をしっかり読んでおけばよかった……!)
(ううん、今からでも遅くないわ)
ダンジョンの研究をしているアラン、トーノ国の巫女であるスズラン――彼らから情報を得られるかもしれない。
(私の浄化の能力だって、役に立つかもしれない!)
消すことはできなかったが、それでも刻印は浄化の能力に反応していた。
「ふっ」
サイラスが笑ったのだと気づき、マリサは顔を上げた。
「サイラスさん?」
「いや、頼もしいなと思ってな」
ポンとサイラスの手が頭に載せられた。
それだけで、マリサは幸せな気持ちになった。




