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第54話:穢れの刻印

 呆然と立ち尽くすサイラスをマリサは見つめた。


(サイラスさん……)


 ゆらり、とサイラスの体から黒い煙のようなものが揺らめいた。


(あれは何……?)


 黒い煙はサイラスの包帯を巻いた手の甲から出ていた。

 こちらを注視しているサイラスは気づいていないようだ。


(あれは穢れの――)


 一瞬にして、黒い煙が(むち)のようにしなり、飛びかかってきた。


「きゃああああ!!」


 ナディアの悲鳴が耳元で響き、(いまし)めが解かれた。

 慌てて振り向くと、ナディアの首に黒いものが巻き付いている。


(けが)れの刻印だわ!!)


「うううう!!」


 凄まじい力で締め付けられているのか、ナディアの顔が赤黒く染まる。


「消えて!」


 マリサは浄化の力を使った。

 だが、穢れの刻印は消えなかった。


「……っ!」


 その代わり、するりとナディアを解放すると、サイラスの手の甲に戻った。


「な……!」


 マリサは呆然とした。


「浄化できないなんて……!」


 教科書に載っていたとおりとはいえ、自分の目を疑ってしまう。

 刻印は呪いのようなもので、通常の浄化の力で祓えない。

 だが、()の当たりにすると動揺を隠せなかった。


(消せない穢れって、いったい何なの……)


「マリサ!!」


 サイラスが駆け寄ってきたかと思うと、マリサの体がふいっと持ち上げられた。


「わっ」


 マリサはあっという間にサイラスに抱き上げられていた。

 サイラスは倒れているナディアから安全な距離を取ると、マリサの首筋に布を強く押し当てた。


「よかった……傷は浅い。すぐ止まる」


 サイラスが倒れているナディアを警戒するように視線を走らせた。

 ナディアは倒れたままだ。死んでいないのは、肩が上下しているのでわかる。


「他に怪我(けが)は?」


 サイラスが心配そうな目を向けてくる。


「ないです……」


 マリサの言葉に、サイラスがほうっと息を吐く。


「きみは本当に……いつもいつも俺を心配させる……!」

「ごめんなさい……」


 マリサはしょんぼりとうつむいた。


「いつも迷惑をかけてしまって本当に――」


 マリサは最後まで言えなかった。


「んんっ」


 マリサの唇の上に、そっとサイラスが指を置いたのだ。


「謝らなくていい。俺が好きでやっているんだ……」


 そう言ったサイラスが、ハッとしたように指を放した。


「す、すまない! 勝手に唇に触れるなど……!」

「い、いえ、大丈夫です!」


 おののくサイラスに、マリサは慌てて言った。


「お、怒ってないか?」


 サイラスがおどおどとマリサを(うかが)ってくる。


(この人、あんなに強いのに、私の機嫌を気にするなんて……)


 (いと)しさが込み上げてくる。


「サイラスさんこそ、手の刻印、痛くないですか?」

「ああ、まったく……まさか飛び出すなんてな……」


 眉をしかめたサイラスだったが、通りを歩いていたギルドの警備員に気づき手を上げる。


「ちょうどいい! 来てくれ!」

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