第52話:再会
翌日、カフェはようやく通常営業に戻った。
サイラスとふたりでカフェを開けたマリサは、ホッと落ち着くのを感じた。
背後に忙しく働くサイラスの気配がある。
(安心できるわ……)
チリンとドアベルが鳴り、一人目の客が入ってきた。
「いらっしゃいませ――あ」
入ってきたのはスズランだった。
「スズランさん!」
「先日はどうも。また来ちゃいました」
スズランの顔は晴れ晴れとしていた。
(きっと恋人との話し合いがいい方向に向かったんだわ)
マリサは安堵しながら、注文された紅茶を運んだ。
「あの、あれからどうなったか聞いてもいいですか?」
今、店に客はスズランしかいない。
マリサはこそっとささやいた。
「勇気をもらったから、報告に来たかったの」
スズランの左手の薬指には指輪が光っていた。
恋人や配偶者からの指輪は、その場所につけることが多い。
やはり、話し合いがうまくいったのだろう。
「彼に話したらびっくりしていたけど……じっくり話したらわかってくれたの」
スズランがにこっと笑う。
「ふたりでいるなら、サニーサイドで暮らそうかってことになって。彼は一度国に戻らないといけないけど、すぐ戻るって……」
「よかった!」
マリサの笑顔に、スズランも微笑む。
「それより、貴方は聖女だったのね……」
「え、ええ」
ダンジョンでの一件で、マリサの事情は知れ渡ったらしい。
「ドラゴンを追い払ったんですって? すごいわね……」
「そんな……」
「私も少しだけ巫女の力が使えるけど、ドラゴンと戦うなんてとても無理だわ」
スズランが微笑む。
「でもね……私でもできることがあるかもしれない。だから、冒険者ギルドに登録したの」
「えっ……」
「あなたが勇気をくれたのよ」
マリサは胸がいっぱいになった。
「私こそ……あなたのおかげで一歩を踏み出そうと思えたの」
ふたりは顔を見合わせて微笑み合った。
「お茶、美味しかったわ。また来てもいい?」
「もちろん!」
マリサはスズランを店の外まで見送った。
(友達が一人できたって思っていいのかな……)
幸せな気分で店に戻ろうとしたマリサの肩がぐっとつかまれた。
「……っ」
喉元にぴたりと冷たい金属が当てられる。
かすかな痛みに、それがナイフであるとわかる。
「幸せそうね」
背後から聞き覚えのある声がした。
特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
もう間違いなかった。
「ナディア……」
「ええ、そうよ。あなたに会いにきたの。大声を上げないで。喉を切り裂きたくない」
ナディアは淡々と続けた。
「今はまだ」
マリサはごくりと唾を飲み込んだ。




