第51話:報酬
クインたちがすごすごとカフェを出ていき、マリサはホッと息を吐いた。
「ありがとうございます……」
血を見るかと思ったが、オーエンのおかげで穏やかに解決できた。
「オーエン、助かった」
サイラスも安堵したように言う。
「できれば殺したくなかったから……」
「いや、来るのが遅くなって悪かったね。きみたちがいなかったら、甚大な被害が出たかもしれない。ギルドマスターとして、改めて礼を言わせてくれ」
オーエンが静かに頭を下げる。
「しかし、驚いたな。こんな強力な聖女がこの町にいたとは」
オーエンに微笑みかけられ、マリサはもじもじした。
「いえ、その……黙っていてすいません」
「いや、構わないよ。素性を明らかにしたくない人もいる」
オーエンがさらっと笑ったので、マリサはホッとした。
「だが、できれば冒険者に登録してもらいたい。今後、またダンジョンに穢れが発生した時、協力を仰ぎたいんだ」
「わかりました……」
「もちろん、強要はしない。一応、トーノ国の巫女を一人スカウトできたんだ。きみ一人に重荷を背負わせるつもりはないよ」
(トーノ国……スズランさんの故郷だわ)
「手伝ってくれるとありがたい、とだけ覚えておいてくれ」
「はい。私にできることがあれば……」
聖女の力を使うのはやぶさかではない。
ただ、出自がバレたくなかっただけだ。
「そうそう、今回の報酬だ」
オーエンからふたりに革袋が渡される。
マリサは受け取った袋を開けて、その内容に目を見張った。
「ええっ!! 金貨がこんなに!」
信じられない額の報酬だった。金貨がずっしりと詰め込まれている。
「きみたちはそれだけの働きをしてくれたんだよ」
オーエンが鷹揚に微笑んでいる。
「ダンジョンに穢れが広がり、ドラゴンまで上がってきていた。下手をしたら、町に危険な魔物が出てきたかもしれない。僕の留守中、食い止めてくれた冒険者たちには感謝しかない」
オーエンがサイラスにすっと手を差し出す。
「過酷な任務だったようだね。きみがいてくれてよかった、サイラス」
「いえ、これくらい」
サイラスがにこりと笑う。
マリサは胸がドキドキしてきた。
嬉しい反面、不安が鎌首をもたげてきたのだ。
(これだけあれば……一人で自活できるわ)
部屋を借りて、一年暮らせるくらいの金額はある。
(つまり、もうサイラスさんのお世話にならなくても生活していける……)
マリサはちらっとサイラスを見た。
(でも、私はここにいたい……)
「じゃあ、僕はこれで」
「ありがとうございました」
オーエンを見送ったふたりは顔を見合わせた。
「さすがだな、オーエンは。あの殺気立ったふたりをあっさりと黙らせた」
「ええ。若いのにすごい方ですね」
「サニーサイドの平穏が保たれているのは、彼がいてくれるおかげだよ」
サイラスが惜しみない賛辞を送る。
「あの、サイラスさん」
マリサはきゅっと服の裾を握った。
「お家賃払うので、ここに置いてもらえませんか?」
ポン、と頭に手が載せられる。
「家賃など……それは大事に取っておいたらいい」
「い、いえ! 私、ここにいたいので! 受け取ってください!」
サイラスが困ったように微笑む。
「わかった。だが、無理はするなよ」
「はい!」
出ていけ、と言われずに済んで、マリサはホッとした。
もう、サイラスなしの生活は考えられなかったのだ。




