第48話:話し合い
第一層に上がると、住人たちが広場に集まっていた。
皆、固唾を呑んで報告を待っている。
「ドラゴンは?」
「撃退した」
サイラスの言葉に歓喜の雄叫びが上がった。
「やった!!」
「ありがとう、どうなることかと思った!!」
冒険者たちが肩をたたき合い、お互いの健闘を称えた。
「マリサのおかげだ。彼女が穢れを祓ってくれた」
サイラスの言葉に、皆がマリサを取り囲んだ。
「ありがとう、マリサ!」
「やっぱり聖女はすごいな!」
ゆうやみ亭の店主、ゴッシュが進み出てくる。
「よくやってくれた、マリサ」
ポンと肩に手を置かれ、マリサは頭を下げた。
「すいません、今まで黙ってて」
「構うものか。この町を救ってくれたんだ」
ゴッシュがにこりと笑う。
「サニーサイドに来る者は、多かれ少なかれ訳ありだ。引け目を感じることはない」
温かい言葉に、マリサはまた涙ぐんだ。
「では――そろそろいいですかね」
水を差すように口を挟んできたのはクインだった。
「マリサ様、ぜひお話を」
「……込み入った話なんだろう。ウチの店に来てくれ」
サイラスの言葉に、クインがうなずいた。
*
四人でカフェに戻ると、サイラスとマリサは厨房でお茶をいれた。
「すいません、サイラスさん。巻き込んでしまって」
「気にするな。マリサは大事なパートナーだ」
そう言ったサイラスが顔を真っ赤にする。
「その……一緒に働くパートナーという意味で……」
「はい!」
サイラスの言葉はありがたかった。
お茶をいれると、席について待っていたクインとゾーイの元に運ぶ。
「どうぞ」
「ずいぶん、板に付いているんですね。カフェ仕事が」
クインが感心したように言う。
「聖女の仕事より楽しいですか?」
「ええ」
マリサがうなずくと、鼻白んだようにクインが黙った。
「早く本題に入れ、クイン」
焦れたようにゾーイが口を開く。
クインとは対照的に、ゾーイは最初から臨戦態勢だった。
そもそも、マリサと話すだけなら近衛兵のクインを寄越すだけで充分だ。
だが、腕の立つ騎士であるゾーイを同行させたということは、荒事になる可能性を考えているのは明白だ。
力づくでもマリサを連れて帰れ、と厳命されているのだろう。
(油断できない……)
マリサはドキドキした。
だが、ここにはサイラスがいてくれる。
それに、ダンジョンを出るときにサイラスが門番たちに目配せをしていた。
冒険者ギルドに通報を促したのだろう。
(ということは――)
おそらく、カフェの外にはギルド関係者が派遣され、見張ってくれているはずだ。
マリサを強引に攫って逃げるのは困難だろう。
それはクインもわかっているはずだ。
ここは冒険者ギルドが仕切る最果ての町。ルーベント王国の威光は届かない。
「つい焦ってしまい、強引に連れ戻そうとして申し訳ありませんでした」
クインが殊勝な表情で頭を下げる。
「このたび、マリサ様にかけられた嫌疑がすべて誤解の可能性が出てきたので、追放を取り消すので戻ってもらいたい、とロイド様から伝言です」
「……なぜ疑いが晴れたの?」
クインが言いづらそうに目を伏せる。
「すべてナディアの陰謀という線が濃厚になったのです」
「……そう」
おそらく何かほころびができたか、密告があったかで、再調査をしたのだろう。
(最初からロイド様が私を信じて調査をしてくれれば、きっと真実は明らかになっただろうに……)
でも、そうはならなかった。
あのとき、はっきり道は分かたれたのだ。
そして、マリサは今サニーサイドでサイラスといる。
「現在、ナディアは行方不明です」
「えっ!?」
「旗色が悪いと見たのか、失踪しました。行方を追っていますが、足取りは不明です。意図的に身を隠そうとしているのでしょう」
「ナディア……」
勝ち気な幼なじみの顔が浮かぶ。
(やっぱりあなたがやったのね……)
ずしっと胸が重く沈んだ。
(私を陥れようと……)
(なぜ……?)
気性や性格はまったく違ったが、仲の良い幼なじみだと思っていた。
(ううん、私がそう思っていただけ……?)
ナディアがしでかしたことを思うと、マリサを憎んでいたとしか思えない。
(私は追放されて、ナディアは目的を達した……)
だから満足げに笑っていた。
だが結局、ナディアも国を追われる羽目になっている。
(ナディアは頭がよかった……だから、企みは成功した。なのに、どうして……)
「ナディアのことはいいんです。それより、マリサ様の件が重要です。ぜひ戻っていただきたい!」
クインがぐっと拳を握る。
「私たちには貴方が必要なのです!」




