第47話:告白
「サイラスさん……」
「本当に聖女なんだな、マリサ」
「はい……すいません、黙ってて……」
サイラスがじっとマリサを見つめる。
「秘密にしていたのは……俺がゼルニア王国の出身だったからか」
マリサはこくりとうなずいた。
「嫌われたくなくて……」
サイラスがぽんとマリサの両肩に手を置いた。
「嫌うわけないだろう、俺がマリサを」
「サイラスさん……」
「そもそも、俺はもう黒騎士ではない。国同士の確執など俺たちには関係ない。マリサもそう思うだろう?」
「はい!」
改めてサイラスの口から明言され、マリサは安堵で涙ぐんだ。
「だが――更にややこしい事情があるようだな」
サイラスが鋭い目を階段の方に向けた。
「っ!!」
クインとゾーイが階段を下りて、第二層にやってきていた。
「なぜあいつらに追われているんだ?」
「私、冤罪で追放されたんです。でも、誤解が解けたようで戻ってきてほしいみたいです」
「なるほど」
サイラスの目が細められた。
「だが、あの強引な行動。よっぽど切羽詰まっているようだな、ルーベント王国は」
「……」
確かにそのとおりだった。
(追放までした私をわざわざ探して連れ帰ろうなんて……)
(何があったんだろう)
穢れが浄化できない、と言っていた。
追放後、短期間で急に穢れが増えたのだろうか。
「あちらは引く気はないようだな。ダンジョンにまで入ってくるとは」
サイラスがマリサを見つめる。
「マリサはどうしたいんだ?」
「貴方のそばにいたいです!!」
きっぱり言い切ったあと、マリサは顔を赤く染めた。
「いえ、その……サニーサイドにいたいです……このまま、サイラスさんと……」
「そ、そうか」
サイラスが口に手を当てる。その顔はマリサに負けず劣らず赤かった。
「い、いいですか。サイラスさんはそれで……」
「ああ、俺も――」
サイラスが勇気を振り絞るように小さく息を吐いた。
「俺もそうしてほしい」
その言葉に、マリサは顔をぱっと輝かせた。
「では――あいつらと交渉しないといけないな」
サイラスがすらりと剣を抜く。
交渉といいつつ、サイラスは完全に戦闘態勢だった。
それも無理はない。目の前でマリサが攫われそうになったのだ。
「待ってくれ! こちらに敵意はない!」
クインが両手を上げて、戦う意志がないことを示した。
「さきほどは手荒な真似をして申し訳なかった。改めて、マリサ様と話がしたい」
クインはロイドの信頼厚い近衛兵だ。
柔軟な状況判断を得意としており、態度を軟化させた方が得策だと気づいたのだろう。
マリサのそばには元黒騎士のサイラスがおり、周囲には仲間の冒険者たちが大勢いる。
強引に突破できないと踏んでの話し合いの提示なのは明らかだ。
「マリサ、どうする。あのふたり、ここで斬ってもいいが」
サイラスの物騒な言葉に、クインの背後にいるゾーイがぴりっと顔を引きつらせた。
終始にこやかな笑顔を浮かべているクインに対し、ゾーイは殺気立っており、今にも飛び出してきそうだ。
サイラスの挑発にもクインは動じず、ゾーイを宥めるように目配せした。
「こちらも王命で来ている。話だけでも聞いてもらえないでしょうか?」
「……納得したら大人しく帰るのか?」
「ええ、もちろん」
即答したクインにサイラスが鼻を鳴らす。
うさんくさいと思っているのがわかり、マリサはホッとした。
(サイラスさんは上辺の愛想良さには騙されない……)
(冷静に相手を観察しているわ……)
騎士団を率いていただけある貫禄があった。
「サイラスさん、無抵抗の二人を斬れば、ルーベント王国と確執が生まれます。とりあえず、話を聞きたいと思います」
「わかった」
サイラスが大人しく剣を鞘に収めた。




