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第46話:穢れのドラゴン

「一層に上がらせるな!!」

「足元を狙え!!」


 冒険者たちが果敢にもドラゴンに向かっていく。


「こいつだ。こいのせいで、他の魔物が上へ逃げてきていたんだ!」


 矢や槍がドラゴンめがけて一斉に投擲(とうてき)された。


「あっ!」


 だが、あっさり(はじ)かれて、ドラゴンの皮膚を(つらぬ)くことなく地面に落ちていく。


「なぜ刺さらない!!」

(けが)れだわ……」


 黒色に見えるほど、びっしりと穢れに(おお)われているせいで武器が届かないのだ。

 ドラゴンが大きく息を吸い込む。


「やばい! 炎のブレスが来る!!」

「射線に入るな!!」


 冒険者たちが慌てて待避し、建物の陰に隠れる。


「マリサ!!」


 サイラスがマリサを抱きかかえると、建物の陰に飛び込む。


「!!」


 すさまじい炎が周囲に()かれ、建物や植物を(あぶ)っていく。

 人など、直撃すればひとたまりもないだろう。


「サイラスさん!!」

「大丈夫だ……」


 サイラスの腕に火傷(やけど)のあとがあった。

 どうやら炎のブレスをかすってしまったらしい。


 苦痛に顔を歪めるサイラスに、マリサは決意を固めた。


「息を吐き終わった!」

「もう一度やるぞ!」


 冒険者たちが飛び出していったが、穢れを(まと)っている限り致命傷は与えられないだろう。


(私がやるしかない!)


 サイラスの腕の中から飛び出し、マリサはドラゴンの前に立った。

 涙が浮かぶほど恐ろしい。


(でも、絶対にサイラスさんは私が守る!)


 その決意がマリサを支えていた。

 いつもいつもサイラスに守られてきた。


(今度は私の番!!)


 自分が聖女に生まれてきたことに意味があるなら、きっと今この瞬間のためだと思えた。


「下がっててください!!」


 マリサは全身の霊力を一気に集めた。


(すべて浄化させる!!)


 マリサの金色の髪が、霊力に(あお)られてゆっくりとうねる。


(久しぶりだわ、この感覚……)


 体の内からわきでるエネルギーを()り上げ、対象に向かって全力で放出する。

 何百回とやってきた聖女としての仕事。


 今回はその対象が女神像ではなく、ドラゴンというだけだ。

 マリサは錬った霊力を、思い切りドラゴンに向かって放った。


「ギャオオオオオン!!」


 霊力が直撃したドラゴンが悲鳴を上げる。

 その体にまとわりついていた黒い穢れがどんどんと消えていく。


 (あらわ)わになった地肌は黒みを帯びた赤色で、レッドドラゴンだとわかる。


「今だ! 畳みかけろ!」


 冒険者たちが一気にドラゴンに襲いかかる。

 その中にはサイラスもいた。


「おおっ!!」


 振りかぶった剣がドラゴンの前足を切り裂く。

 次々と矢や槍が刺さり、ドラゴンが苦しげな声を上げる。


 そして――。

 ドラゴンはくるりと背を向け、奥へと走っていった。

 ドラゴンは逃げるように、下層に繋がる大穴へと飛び込む。


「やった!!」

「追い返したぞ!」


 冒険者たちが喜びの声を上げた。


「あ――」


 マリサはくらりと目眩(めまい)を感じた。


(久しぶりの全力だったから――)


「マリサ!」


 倒れかけたマリサをサイラスがしっかと受け止める。


「マリサさん! すごい!」

「ありがとう!!」


 冒険者たちがマリサを取り囲んだ。


「あの量の穢れを消し去るなんて!!」

「本物の聖女だ!」

「討伐隊に入ってくれないか? きみがいたら心強い!」


 マリサは何とか笑顔を浮かべた。

 褒め(たた)えてくれるのは嬉しいが、マリサが一番気になっている人との話はまだできていない。


 マリサはサイラスを見上げた。

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