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第42話:追っ手

 午後になり、マリサは店を開けた。


(スズランさん、あれからどうなっただろう)

(うまくいっているといいけれど……)


 マリサは接客をしながら、そわそわとスズランの姿を待った。

 もちろん、何事もなければそれがいい。

 でももし悲しい結果になったとしたら、慰めてあげたかった。


 一人で(あわ)ただしく仕事をしていると、あっという間に夕方になった。

 最後のお客を見送ると、マリサは閉店の札をつけてホッと息を吐いた。


(来なかったな、スズランさん……)


 もちろん、スズランが結果を報告にくるとは限らない。

 でも、何となく来てくれる気がしたのだ。


(うまくいきますように――)


 今はただそう祈ることしかできない。


 洗い物を始めたとき、ドアベルがチリンと鳴った。

 マリサはハッと顔を上げた。


「あの、もう店は閉め――」


 マリサは最後まで言うことができなかった。

 入ってきた若い青年ふたりに見覚えがあったのだ。


「クインさん、ゾーイさん……!」


 茶色の髪をした青年はルーベント王国の近衛兵、クイン。

 若くして取り立てられた、ロイドのお気に入りの忠実な家臣だ。


 長い黒髪を後ろで(たば)ねているのは、騎士団長のゾーイ。

 出兵するとき、いつも先頭に立っているので見覚えがある。


 ルーベント王国が誇る優秀な若手兵士二人の登場に、マリサはじりっと後ずさった。


「な、なぜ……」

「マリサ様!」


 クインがホッとした表情になるとひざまずいた。


「お久しぶりです。ずいぶん探しましたよ! こんな最果(さいは)ての町にいらっしゃるなんて……」


 マリサはごくりと唾を飲み込んだ。


「な、なんでここが……!」

「ヒースという男から聞きました。ギルドの酒場であなたに会ったと」

「あっ……」


 ギルドの酒場にいたウェイターを思い出す。


(秘密にしてって言ったのに……!)


「必死で情報を(つの)ったのですよ。こんなに早く見つかるなんて運がよかった」


 クインが嬉しそうに話す。


「何の用ですか? 私は追放された身で……」


 クインがゆっくり立ち上がった。

 にこやかに微笑んではいるが、その青い目は鋭く光っている。


「それが……誤解だったのではと気づいて」

「は?」


「すべてナディアの(たくらみ)みだったのでは、と調査中です」

「っ!!」


(ナディア……)


 マリサは幼なじみの顔を思い浮かべた。

 最後に見た時には、ロイドの隣で楽しげに微笑んでいた。


(私が追放されるのを喜んでいるように見えた……)

(やはりナディアの仕業(しわざ)だったの?)


 マリサはぎゅっと拳を握った。

 どうやら自分が追放されたあと、王宮では大きな動きがあったようだ。


 クインがマリサを(うかが)うように話を続ける。


「一時の感情でマリサ様を追放してしまったと、ロイド様はとても反省しております」

「……」


「つきましては、ロイド様がもう一度お話ししたいと……!

「困ります! 私はもう、新しい生活を始めていて……」


 クインが口の端をあげる。


「最果ての町でウェイトレスのお仕事ですか……。おいたわしい。あなたには特別な力があります。ぜひ聖女として戻ってきていただきたい」

「は?」


「実は穢れが浄化できず、とても困っているのです」

「勝手なことを言わないで!」


 マリサは(いきどお)りを隠せなかった。


(一方的に追放しておいて、利用価値があるとわかったら戻ってこいなんて!)


 だが、クインは顔色一つ変えず、淡々と続けた。


「申し訳ございません。ですが、私も必ず貴女(あなた)様を連れ帰るよう厳命されておりまして」


 クインがすっと足を進めてくる。


「私とご一緒に来ていただけますか」


 有無を言わせぬ口調と冷ややかな眼差(まなざ)しに、すっと体温が下がる。

 態度こそ丁重ではあったが、マリサの意志など眼中(がんちゅう)にないとわかった。


「私、帰りません!」


 もちろん、そんな一言で相手が引き下がるとは思っていない。

 ただの宣戦布告だ。


 マリサはポケットから目潰(めつぶ)し弾を取り出した。


「えいっ!」


 顔面に向かって投げつけると、粉が飛び散りクインとゾーイが悲鳴を上げた。

 まさか、温和でおっとりしたマリサが攻撃に転じるとは思わなかったのだろう。


「うあっ!」

「くっ!」


 ふたりが目潰しの粉を必死で払う。


「ごめんなさい!」


 マリサは店を飛び出した。


(どうしよう、どこに逃げたらいい?)


 王族から(めい)を受けてきたクインたちは絶対に引き下がらないだろう。

 マリサは必死で駆け出した。

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