第41話:言えない言葉
だが、サイラスはなかなか帰ってこなかった。
「遅いな、サイラスさん……」
マリサは冷めていく夕飯を目の前に、そわそわとサイラスの帰りを待った。
疲れ切ったサイラスが帰ってきたのは、もう日付が変わろうかという時だった。
テーブルに突っ伏してうとうとしていたマリサは飛び起きた。
「お帰りなさい!」
「起きて待ってくれていたのか」
サイラスの目の下にはクマができ、疲労の色が濃い。
「夕飯はもう食べてきた。悪いがすぐ休む」
「え、ええ」
マリサはおろおろとサイラスを見上げた。
「まさか、朝からずっとダンジョンで戦っていたんですか?」
「休憩は取ったがな。負傷者が続出で交代要員が間に合っていない」
サイラスの声にも力がない。
「とりあえず、明日は休みにさせてもらった」
「よかった……!」
マリサはホッとした。
こんな長時間の戦闘を続けていたら、サイラスといえども倒れてしまうだろう。
(私の話なんか明日でいいわ……)
「ゆっくり休んでくださいね」
「ああ、おやすみ」
サイラスがよろよろと自室に入っていった。
*
翌朝、ふたりで朝食を取っていると激しくドアが叩かれた。
「サイラス!」
入ってきたのは、冒険者仲間だ。
いつも頭にバンダナを巻いている若い青年で、名前はラキという。
「どうした!」
ラキの切迫した口調に、サイラスが立ち上がる。
「夜のうちに魔物がたくさん上がってきたって夜勤の連中から救援要請が出ている。とても間に合わない。悪いが今から来てくれるか?」
「わかった」
「ギルドマスターも急遽、サニーサイドに戻ってくるらしい」
「オーエン殿が!」
サイラスの顔がパッと明るくなった。
「確か、今外遊中だったな」
「ああ。交渉事は留保してすぐに戻る手配をしてくれたらしい。おそらく聖女か巫女、結界を張れる魔法使いをつれてきてくれるんじゃないか」
「ああ、彼が戻るまで持ちこたえるのが俺たちの使命だな」
サイラスの目が輝く。
それは在りし日の黒騎士であったサイラスを彷彿させた。
きっと国王からの命を受けたサイラスは、こんな風に生き生きと戦いに向かっていったのだろう。
「じゃあ、すぐに行ってくる!」
「き、気をつけてください……」
マリサの表情にサイラスは何か感じ取ったらしい。
「どうした? 俺に何か用があったのか?」
「い、いえ。ちょっとお話が……その、帰ってきてからでも……」
「わかった。ちゃんと聞く。昨日、店は大丈夫だったか?」
「はい! 今日も短縮営業をします」
サイラスがそっとマリサの肩に手を置く。
「マリサ、くれぐれも無理をするなよ」
「それは私のセリフです!」
マリサの言葉に、サイラスがフッと微笑んだ。
「すべてが片付いたら、うまいものを食いに行こう」
「はい!」
(私の話が終わっても、そう言ってくれればいいけれど……)
マリサの胸がちくりと痛んだ。




