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第4話:追放された聖女

「マリサ・レーデンランド。聖女のあるまじき行動の数々、この国の恥であり害である。よってそなたを追放する!」


 いとわしげな顔で追放宣言をしたのは、ついこの間まで婚約者だった王太子ロイドだった。


 ロイドの隣には、勝利の笑みを浮かべたナディアがいる。

 見事な金髪を結い上げたナディアは、マリサと同じ貴族で聖女だ。


 幼なじみで学校もずっと一緒だった。

 同じ金髪で顔も似ていたふたりは姉妹のようだと言われていた。

 だから、ナディアからこんなにも憎まれているとは思わなかった。


「ロイド様、誤解です!」


 マリサは必死で声を張り上げたが、ロイドはまったく信じた様子はなかった。


「何を言う? そなたを信じていた私までもが侮辱されたのだぞ? 王族を(おびや)かそうとする貴族や、敵国の騎士たちを誘惑し、王宮の情報を流していたことは知れている!」

「私ではありません!」


 マリサは必死で声を上げた。

 いずれも身に覚えのないことばかりだ。

 ただ、なぜかマリサが一人で聖堂で祈る時間や休日など、アリバイがない時にマリサそっくりの女が現れ、マリサと名乗っていろんな男をそそのかしていた。


(いったい誰が……)


 糾弾されたマリサは困惑したが、すぐに思い当たった。

 なぜかナディアがロイドに接近しだし、マリサに冷ややかな態度を取るようになってきたのだ。

 そして、ナディアとマリサは同じ金髪で背格好も似ている。

 同じく聖女として務めているので、マリサの予定や行動を把握できる。


(まさかナディアが……!)


 幼い頃からずっと一緒の学校で育ってきた彼女のことを疑いたくはなかった。

 だが、彼女ならば犯行は可能だ。

 そして、ナディアは今、王太子であるロイドのそばにいる。


(まさか、ロイド様を奪うために、私の振りをして……)


 マリサは信じたくなかった。だが、決定的な瞬間が訪れた。


「証言があるのだ」

「証言……?」


 ロイドの言葉に、すっとナディアが足を進めた。

 見たことのない冷ややかな眼差しでマリサを見つめる。


「私、あなたが貴族を誘惑しているところを目撃しました。聖女にあるまじき不貞行為に私も呆れ果てております」

「な、何を……! そんなことしてないわ!」

「私があなたを見間違うわけでないでしょう?」


 呆然としたマリサの前に、次々と証拠が並べられる。

 マリサの私物が現場で見つかった、浮気相手の貴族に贈られた手紙――などなど、身に覚えのない、だがマリサに関連したものばかりが揃えられていた。


(完璧に計画していたの……?)


 マリサがロイドに見初みそめられた時、ナディアが我が事のように喜んでくれた。


(あれも全部嘘だったの?)


 あまりの衝撃に、マリサは声も出なかった。

 結局、マリサは言葉は信じてもらえず、毒婦と罵られ、家族からは縁を切られた。


(ロイド様……)


 聖女として聖堂で働いていたとき、礼拝に来たロイドと出会った。

 そして、一目惚れだと結婚を申し込まれた。

 思わぬ玉の輿(こし)にマリサは驚いたが、それでも求婚されて嬉しかった。

 だが、ナディアが仕込んだ毒が二人の仲に染みこみ、取り返しの付かないほど黒く染まってしまった。


(信じてもらえなかった……)


 マリサはその時のことを思い出し、目尻の涙をぬぐった。


(もう、割り切ったと思ったけど……)


 やはり婚約者に信じてもらえなかったということが、深い傷となって(きざ)まれている。

 ロイドの蔑むような目や冷ややかな言動が忘れられない。


(新天地に来たんだから、気分を変えなきゃ……)


 マリサは殺風景(さっぷうけい)な部屋を眺めた。


(サイラスさんはなぜ最果ての町に来たんだろう……)

(ゼルニア王国騎士団の切り札と言われてきた騎士なのに……)


 彼の剣の腕は衰えていないようだった。

 ゼルニア王国が腕の立つ騎士を手放すとは考えにくい。

 思考を巡らせていたマリサはハッとした。


(ううん、詮索はよそう。私だって、知られたくないもの……)


 自分と同じように、サイラスも新たな生活を始めているのだ。


(今は前だけを向いていこう)

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